助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

文字の大きさ
18 / 61

おっさん、綾華と電車に乗る

しおりを挟む
「若宮様、困りましたわ。切符というものが出てきませんの」

 駅の自動券売機の小銭投入口や定期カード挿入口に黒いカードを差し込みながら首をひねる綾華。

 買い物の約束をした当日、俺と綾華は四条家の最寄駅にいた。
 俺としては別の日に買い物に行くつもりで誘ったのだが、綾華がどうしても直ぐに行きたいと頼み込んできた。
 なんでそこまで早く行きたがるのかよく分からなかったが、誘った側なので断れないし断る理由もなかったのですぐに買い物に行くことになった。

 綾華の持つ黒いカードの正体は聞かずとも分かる、セレブ様のみが持つことを許される限度額無制限のクレジットカード、俗にいうブラックカードだ。
 盗まれては一大事なので慌てて周りを見渡したが、幸いと目撃者はいなかった。

「綾華さん、とりあえずカードをしまおうか。ここは紙幣か小銭しか使えないんだ」
「……小銭に紙幣、聞いたことはありますが見たことがございませんわ」
「マジで? 学校の学食で使ったりしないの?」
「学食? あぁ、ランチをする場所ですのね。特に支払いは必要ありませんわ。好きなものを選んで食べれますの」

 ……学食をランチと言い換えますか。
 お嬢様校だから安物のランチのはずはなく、それなりの高級ランチだろう。
 それらが全て無料というのは、学費を払っている親御さんたちの財力あってこそか。
 ブラックカードを携帯しているということは、支払いもすべてカードのみ。
 高校生の頃からブラックカードしか使ったことないとか、どんだけだ四条家。

「とりあえず、俺が綾華さんの分も買うから」
「まあ、さすが若宮様ですわ。上に書いてある路線図というのもお分りになりますし、頼りになりますこと」

 いや、日本国民の八割は理解できるんですけどね。
 世間を知らないとはいえ、電車を乗ったことがないとは思わなかった。
 駅に着いた時なんて、「まあ、人がたくさんおりますのね。本日は催し物でもありますの?」って驚いてたし。

 切符を渡して改札口へ通り方を教えて駅のホームに着くと、ちょうど電車が来たところだった。
 ホームの人混みが一気に電車へとなだれ込む。
 俺も乗り遅れまいと行きかけたが、袖を引っ張られて振り返ると綾華が困惑げに立ち尽くしていた。

 どうしたのかと訝しむと、さっきまでは普通だったのに今は心なしか顔色が悪い。
 あぁ、そうか、初めて電車に乗るのにこの混雑さは若干恐怖だわな、気遣いが足りなかったな。
 どうせ乗る電車は環状線だから待つ時間も短く、次に来るのは三分後だ。

「この次のに乗ろうか。なるべく空いている車両のところに移動しよう。ちょっと歩くよ」

 俺が歩き出そうとすると、右手に柔らかい感触が触れてきた。
 ギョッとして見ると、綾華の左手だった。

 えっと、ここは公衆の面前ですよ綾華さん。
 身なりの良い美少女が四十のおっさんの手を握るって周りからどんな目で見られるか分かってます?
 下手すりゃ、エンコー案件で俺が職質ですよ?
 
 とっさに握られた手を解こうと思ったが、綾華の心細そうな顔を見て思いとどまった。
 
 あー、もうしょうがない、職質されたらされたでその時だ。
 いざとなったら親子で乗り切ろう。
 悲しいけど年齢的には親子でも無理はないし。

 仮に親子でも女子高生の娘と手を繋ぐ親父はいないだろうけどな。

 とりあえず、周りから感じる好奇の視線を無視しながら、最後尾の車両が来るところに綾華を連れて行く。
 案の定、次に来た電車の最後尾車両は空いており、綾華も気後れせずに乗ってくれた。
 車内の電光板や窓から流れる景色を子供の様に物珍し気に見ている綾華だったが、その間もずっと手は放してくれなかった。

 ふと、周りを気にすればオバさんや女子高生のグループは、ヒソヒソと何か話しながら俺を見てきている。
 睨んで黙らせてもいいが、綾華に害はないんだし俺が我慢するしかないか。

 ……そういえば身内以外の女性と手を繋いで歩くのって初めだ。
 嬉しいものかと思っていたけど、そこまででもないんだな。
 いつもなら数駅の時間なんてあっという間なのに今回はイヤに長い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...