助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

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おっさん、地獄のダイエットに励む

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「それで、わたしは調理担当者にはダイエットに特化した料理をご用意させましょう。サラダ中心にもち麦、鶏むね肉のステーキ、大豆ミート、おでんなど。低カロリーですが栄養を損なわないメニューはいくらでもありますからな」

 翌朝、ダイエットの事を桜庭さんにした結果、四条家で出してもらう料理を俺だけ変えてもらうことになった。
 更に四条家で働く執事やメイドたち専用のフィットネスジムやプールまで使っていいとの事。
 使用許可にも驚いたが、屋敷内に働く人たちのためにそんな施設が敷地内にあるなんて、流石は四条家。

 案内されたジムに向かうと快活な女性が待っていた。

「貴方が若宮様ですね。噂は聞いておりますよ、何でも綾華お嬢様の婚約者だとか」
「いやいやいや、婚約者とかじゃなく教育係です!」

 桜庭さんが紹介してくれた四条家専用のフィットネストレーナーの久保田さんだ。
 腹筋は見事に割れているのに全身が筋肉という感じはなく、長身で無駄なぜい肉のないスタイル、TVでも特集を組まれた事のある筋トレ女子の憧れの人だ。

 挨拶すると目を輝かせながら俺の全身をくまなく揉んできた。
 女性に無遠慮に体を触られれば照れくさくなるもんだが、変な気は全く起きなかった。
 というのも、久保田さんの目が不気味なほどに輝いていたからだ。

「ふふふ、これは鍛えがいのある体型ですね。いいですよ、いいですよぉ、このブヨブヨ感。実に鍛えがいがあります。ブヨブヨしている割にはインナーマッスルはしっかりしていますね。一カ月でシックスパックとはいかないまでも腹筋に縦筋ぐらいは入れてみせますね」
「……お、お手柔らかにお願いします」

 そういや、綾華と買い物に言った先の店長もインナーマッスルがどうのこうの言ってたな。
 筋肉好きというか体を鍛えてる人たちは、他人の身体でも触れば分かるだろうか。

「そんなに緊張しないでくださいね。辛いのは最初だけです。途中から効果が出れば筋肉痛が快感に代わりますから」

 怖い事を笑顔で言いつつ、トレーニング内容を説明してくれた。
 久保田さんのは「歩く・拾う・押す・引く」などの日常生活の動きに連動した動きに負荷を加え、有酸素運動を取り入れたトレーニングが主体らしい。
 脂肪を筋肉に変えることで燃焼率をアップしリバウンドしにくい体に改造するとのことだ。

「あ、楽して痩せようなんて思ってませんよね? 十数年かけて付いた脂肪を一カ月で落とすんですから覚悟はしてくださいね」

 語尾にハートマークでも付きそうな口調で言われたその言葉が地獄の日々の始まりだった。
 朝夕の四条家外周のランニングは勿論のこと、なんか重い球を持ち上げたり、なんか重い綱を両手で振り回したり、なんか重い布着を身に着けてボルタリングをさせられたり。
 大量の汗をかきつつ身体をプルプルさせながら弱音を吐こうものなら、久保田さんの容赦ない言葉が飛んでくる。

「はいはーい、大丈夫大丈夫、まーだイケルまだイケル」
「い、いやもう身体キツイっす。もう無理っす」
「弱音はいているうちはただの甘えですよぉ」
「げ、限界です……」
「限界を超えてくださぁい。四十のおじさまが限界超えないで何を手に入れるっていうんですかぁ?」

 クッ、決して、甘えを許さないその軍曹ぶり、嫌いじゃないぜ久保田さん。
 唯一の救いは三日に半日は整体師マッサージによる休息をくれることだったが、その半日も次の地獄への日々への準備かと思うと気が休まらなかった。
 なにせ、休息時間が終わった途端に久保田さんが扉から入ってきて俺を連行していく日々。

 綾華が心配そうに見てくる時もあったが、久保田さんは綾華が小さい頃からの知り合いらしく、久保田さんが大丈夫と微笑めば綾華は無条件に信頼する始末。
 小さい頃からの知り合いということで、うかつにも久保田さんに年齢を聞いたらいつもの三倍はきついトレーニングが課せられる。
 そんなトレーニングのおかげや徹底した栄養管理のおかげもあって、俺の体型にも変化が現れた。

 まあ、なんということでしょう、たった三週間で三段腹が普通のお腹に!?

 心なしか顔周りのぜい肉もすっきりしてきてブヨブヨ感は無くなっている。
 なるほど、確かにこうなるとや筋肉痛は頑張った自分へのご褒美だな。

 俺の気持ちの変化に久保田さんも気づいたのか、残りの一週間は更なる追い込み。
 おかげで、俺の腹筋は全盛期までとは言わないまでもうっすら縦筋が入るぐらいまでになった。

 そのことは嬉しかったが、困った事に綾華と一緒に買いに行った服もブカブカになり着られなくなった。
 せっかくオーダーメイドまでして買ってもらった洋服が用済みとなったのは複雑だったが、桜庭さんに相談すると、ブランド店の店長が駆けつけてくれて今の俺の体型に合う洋服を取り寄せてくれた。

 流石、天下の四条家、もう何でも有りである。
 少し前までの俺だったら到底あり得ないVIP待遇。
 でも、下手に勘違いしちゃいけないよなぁ。

 今のありがたい境遇も綾華が白菊女学園を卒業するまで。
 本当、勘違いしちゃいけない。
 俺が凄いとかいうわけじゃなく綾華の好意があってこそ。
 人の恋も三年までって言うし、三年後に俺は平民へ逆戻りだろう。

 そんな何処か冷めた気持ち自分を戒め、クリスマス礼拝当日を迎えた。
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