助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

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おっさん、クリスマス礼拝を楽しむ

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 厳かな前奏曲が流れ、キャンドルライトを手にした聖歌隊が後方から入場して来る。
 薄闇に照らし出され聖歌服に身を包んだお嬢様たちは誰もが幻想的に見えた。
 麗奈は聖歌隊の中に綾華もいると言っていたな、どれだろう。

 いた。

 普段とは違う神秘的な雰囲気なせいか別人だった。
 キャンドルライトに照らされる顔は薄化粧がされており、淡い光に照らされる綾華は普段の何倍も綺麗だった。
 思えば、綾華の化粧姿を見るのは初めてだ。
 スッピンでさえ可愛いのに化粧をすると大人びた雰囲気になり、いつもと違う鼓動を感じてしまう。

 聖歌隊はキャンドルライトを舞台の前に並べ、厳かな雰囲気で舞台上へと上がっていく。
 舞台に並び終えると、舞台袖の牧師の台詞に合わせて聖歌隊が歌い始める。
 天使の様な歌声に耳を傾けていたが、ふと綾華の様子が気になった。

 よくよく見てみると、歌に集中しきれてない感じがする。
 最前列にいるおかげで、綾華が姿勢を崩さずとも視線で誰かを探しているのが分かった。

 あー、探しているのは多分俺か。麗奈も綾華は気が気でないって言っていたし。
 なんとなく迷子の子犬の様だな。
最前列なら舞台の明かりが届いているので手を振れば分かるだろうか。

 俺は目立たない様に、だけど綾華に分かる様に胸の前で手を軽く振ると綾華と目が合った。

 途端に綾華の周囲に幸福のオーラが解き放れた。
 いや、霊能力者じゃないからオーラなんて見えるわけが無いのだが、綾華の嬉しそうな雰囲気がヒシヒシと伝わってきた。

 迷子の子犬がご主人様を見つけて尻尾を振りながら駆け寄ってくる様な感じだ。

 明らかに雰囲気の変わった綾華に、隣で歌っている女の子も戸惑い気味だ。
 俺を見つけたが最後、俺から視線を離してくれない。もはや、視線だけで俺を射殺す勢いである。

『若宮様、何故、遅くなられたのです?』
『家で奥様に捕まってお洒落させられてね』
『若宮様、前から奥様じゃなくてお義母様と呼んでくださいとお願いしているではありませんか』
『いやいや、お義母様って呼んだら色々とアウトだからね?』

 テレパシーではないが、普段の他愛のない会話を視線だけで行えた気がした。
 俺を見つけて安心した綾華は終始リラックスした状態で歌っている。
 歌が一段落すると聖歌隊は舞台袖に去り、講堂内が明るくなると同時に舞台が回転し、巨大なパイプオルガンが姿を現した。

 思わずどよめく会場。
 それもそのはず、回転して出てくるパイプオルガンなんて初めてである。
 しかも、彫刻の様に美しく並び立つパイプは楽器というより巨大な装置。
 そこから響いてくる重厚な音色。体の芯まで響いてきて悪い氣が飛んでいきそうである。

 しばし、パイプオルガンのヒーリングに浸っていると、ふと俺の左手が握られた。

 ビックリして左を見ると制服に着替えた綾華が座っていた。
 綾華は嬉しそうに微笑み、握る手に力を込めてきた。
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