助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

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おっさん、煮え切らない

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 俺は慌てて席を立ってお辞儀をする。

「初めまして、若宮です。お礼だなんてとんでもない、男として当たり前のことをしたまでです」

 嘘です。貴方の娘さんを助けたのは成り行きです。

「そうか、最近の男は自分の事しか考えてない連中が多いが君は違うのだな、立派だ」
「きょ、恐縮です」

 すいません、俺も自分の事しか考えてない連中の一員です。

「お父様、若宮様が緊張なさっているではありませんか」
「おぉ、雪菜か。何、お前を助けた若者に礼を言いたくてね。話には聞いていたが、若者だな」
「えぇ、若宮様は素敵な方ですわ。時々、お話もさせていただくのですが楽しいですわ」
「ほほう、お前が男性を褒めるとは珍しいな。時々、お話……ね」

 兼久さんは俺の事を観察するように見てきた。
 警察財閥のドンに眺められて緊張しない人なんていないだろう。
 何しろ、圧が凄い。多分、変な勘違いも含まれているのではなかろうか。
 ウチの娘になに手を出してんじゃワレ?くらいは思っているだろう。

「お父様? 綾華様の前ですのよ」
「あぁ、綾華さん、申し訳ない。場を邪魔したね。本当にお礼を言いたかっただけで」
「いいえ、大丈夫ですわ。ちょうど、食事が終わり退室しようと思っていたところですの」

 席を立ち、裾をつまんで兼久さんに挨拶を返す綾華の雰囲気が少し怪しい。
 外見では気分を害した様には見えないが、普段接している俺にだけは分かる。
 これは少し怒っている。

 それを察せられない雪菜は、少し俺に近づいて耳元で囁いてくる。

「さっきの講堂での様子、妬けましたわ。綾華様ったら凄くお幸せそうで。ずるいですわ、わたくしも……」
「み、見てたの!?」
「わたくし、ハンドベル隊の一員でしたの。最前列にいるお二方は舞台の照明で見えておりましたのよ。それでも、薄暗い中でしたので、気づいた方は少ないかもしれませんが」

 ……マ、マジか。他にも見られていたって事ね。油断した。
 その時、右腕が軽く引かれた。
 右を見ると綾華が微笑みながら立っていた。明らかに怒っているオーラを放ちながら。

「こ、この後、用事がありますので失礼します」
「そうか、困った事があったら何でも言ってくれ。出来る限り力になるよ、若宮君」

 これ以上、綾華の怒りが上がらないうちに、兼久さんに一礼し、綾華の手を引きながら食堂をそそくさと出た。
 食堂の外はすでに真っ暗だった。

「綾華、怒ってる?」
「怒っておりませんわ」
「いや、むくれてるだろお前」
「だって、雪菜様ったら英二様に近づきすぎですわ」

 やっぱり、怒ってるじゃん。
 しょうがないので、綾華の頭をポンポンと叩くと途端に幸せそうに微笑む綾華。

「どうする、もう帰るか?」
「少し寄りたい場所がございますの」
「いいよ、行こうか」

 綾華に連れられて向かった先は、人気のない校舎同士をつなぐ空中回廊だった。
 学園の中庭が一望でき、噴水とイルミネーションに彩られたクリスマスツリーも見えた。
 いつの間にか中庭に面した校舎にもイルミネーションが施されていた。
 校舎の宮殿風の外観も影響し、本当にここは日本かと疑いたくなる眺めだった。

「眺めが綺麗ところだな」
「えぇ、クリスマス礼拝の夜はいくつかの回廊に人が集まりますの。上の回廊ほど、人気がありますのよ」
「なるほど、じゃあここの回廊は穴場って事か」

 しばらく、無言で宝石のような光が点滅する中庭を眺めていると綾華が寄り添ってきた。
 とっさに回廊の左右を見渡したが人の気配は無い。
 講堂の続きではないが、自然と鼓動が早くなった。

「若宮様」
「ん?」
「わたくし、幸せでございます」
「そうか」
「えぇ、ここで若宮様と一緒に眺められるというのは勿論ですが、普段も変わらずわたくしの傍に居てくれることが凄く嬉しいのですわ」
「綾華がそう思ってくれるなら俺も嬉しいよ」
「来年もまた一緒に見てくださいますか?」
「綾華がそう望むなら」
「嬉しいですわ。これからもずっと傍に居てくださいませ」

 そこで俺は言葉に詰まった。そう簡単に「当たり前だ」と言える内容ではない。
 現状に不満は無い。綾華の隣は心地よいのは確かだ。
 下世話な話をすれば、綾華の傍に居るだけでお金が入ってくる。
 世の中のヒモ願望を輩からしたら俺は羨望の的だろう。

 ただ、やはり俺なんかで良いのかという気持ちは抜けない。
 年も離れすぎているしルックスも良くない。
 綾華の恋愛フィルターが無くなった時のことを思うと、感情移入し過ぎるべきではないと心の声がする。
 亡くなった兄の事で傷心していた綾華が、たまたま俺を気に入っただけの事。
 そう、俺は綾華の兄の代役じゃないのかとも思う。

 簡単には「当たり前だ」とは言えない。

「あぁ、出来る限りは傍に居るよ」

 これが俺に言える精いっぱいの言葉だった。
 綾華は良い方向に解釈したのか、幸せそうに俺の胸に顔をうずめてきた。
 だが、気のせいか、少し震えている気もする。
 もしかしたら、俺の言葉に含まれた意味合いを理解したのかもしれない。 

 俺は右手で綾華の頭を撫でながら、心の中で綾華に謝るしかなかった。
 ごめんな、ずるいよな俺は。

 その時、俺の携帯が鳴った。

 左手でもぞもぞとポケットから携帯を取り出し番号を確認すると、久しく顔を出していなかった実家からだった。
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