助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

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おっさん、綾華にねだられる

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 部屋に戻ると綾華が火照った顔で微笑んできた。風呂上がりの艶やかな黒髪を礼儀正しく後ろに流し、浴衣をシワなく着こなしている。服の上からでも分かる柔らかい曲線。
 風呂上がりの良い香りが部屋中に充満し、無意識に胸がドキドキする。

「英二様、ご飯が用意されておりますわ。後、いつ間にかお布団が隣の部屋に敷かれておりましたの」

 隣の部屋を見ると確かに布団が並んで敷かれていた。
 しかも、布団がピッタリくっつけられて掛け布団も密着されている。枕も微妙に近い。これは否が応でも変な妄想が浮かんでくる。

 落ち着け、落ち着け俺。ここは実家だ。綾華は未成年だ。
 出て行け煩悩。深呼吸だ深呼吸。

 スーハースーハースーハー……

 あぁ、綾華のお風呂上がりのいい匂いが俺の身体に染み込んでいく……

 いかん、これでは落ち着くどころかまさかの逆効果。
 とりあえず、飯だ飯。とにかく気を紛らわさせないと。

「とりあえず、飯食おうか」
「えぇ、かしこまりましたわ」

 綾華は俺が座ると備え付けの冷蔵庫からビールを用意してくれた。
 四条家に居た時は総裁と奥様がいた手前あまり飲まなかったけど、実家にいるくらいは遠慮なく飲んでいいだろう。

 目の前に並んだ料理は俺が実家で過ごしていた時の飯とは違っていた。
 流石にお客様に出す料理は、家族用の料理とは違う。

「ささ、英二様こちらの海老の蒸し焼きは美味しそうですわ。こちらハマグリのバター焼きも」

 綾華がここぞとばかりに世話を焼いてくる。四条家でも世話を焼いてくるのが、メイドさんがいない分いつもより甲斐甲斐しい。冷えたグラスに微笑みながらビールを注いでくれる。

 地酒だけあって懐かしい喉ごし。
一気に飲み干す俺を優しい目で見つめながら、ちょっと照れた様に言ってくる。

「あ、あの英二様。お願いがございますの」
「うん、どした?」
「お嫌でなければ、その、アーンをさせていただけないでしょうか」
「アーン?」
「はい、アーンでございます」

 更に顔を赤らめて綾華はもじもじしだす。

「……アーンって、あれか恋人同士が良くするアレか?」
「はい、そのアーンでございます。その、クラスの友人が言うのには恋人同士はアーンで食べさせ合うものだと」

 誰だよ、綾華に余計な知識を吹き込んだ連中は。
 良太の言っていた事は本当だな。純粋培養な子ばかりじゃないか。
 大体、恋人同士はアーンし合うなんて、恋人がいたことのない俺は知らん。
 ましてや、アーンなどしたこともされたことも無い。
 飲み会でノリでしそうな雰囲気になったことはあるが相手に体よく避けられてしまったのは苦い思い出。

「確かに恋人同士でならするものだとは思うけど」
「では、させていただけますか?」

 顔を赤らめながらも目を輝かせ近寄ってくる。
 いや、俺は恋人同士でならって言ったよね?
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