助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

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おっさん、閃く

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 正面玄関に着くと、大人の腰までの高さまで雪が積もっていた。
 昨日の午後に親父が雪かきしていたのに、ここまで積もるとはやはり雪国はエグい。

「よし、久しぶりだ。気合を入れてやるかー」

 雪かきスコップを積もった雪に垂直に突き入れ四角に区切っていく。
 いくつか区切れたら四角の底にスコップを突き入れ、スノープッシャーに適当に放り込んでいく。
 スノープッシャーが満載になったら、旅館の横の排水路に放り込む。
 排水路には温泉の水が流れているので放り込んだ雪は片っ端から溶けて流れていく。

 久しぶり過ぎて十五分ぐらいで腕が悲鳴をあげ始めた。
 ……きっつ。十代の頃は二時間連続で続けられたのになぁ。

 こりゃ、高齢の親父じゃ腰を痛めるはずだ。小型除雪機を買えばいいのに何故か人力にこだわるんだよなぁ。
 心の中で愚痴りつつ、さっさと作業を再開する。早く終わらせなければ宿泊客のチェックインやチェックアウトに影響しちまう。
 とりあえず、腕の悲鳴に耐えながらも続けられるのはダイエットのための筋トレのおかげだな。

 黙々とスピードを上げてなんとか玄関回りの雪かきは終わり、玄関横で一休みしていると受付の亜紀が来た。

「叔父さん、お疲れー。ほい、ホット蜂蜜レモンティー」
「おう、サンキュ。ちょうど、体が冷えて喉も乾いてたころだ」
「へっへぇ、気が利くっしょ」

 亜紀が満面の笑みでペットボトルを渡してくる。
 雪かきで防寒着の下はうっすら汗をかいているから、冷やさないためにも亜紀の心遣いはありがたい。
 一気に飲むと身体中に温かさが染み渡る。

 くぅ~、この甘酸っぱさが美味い。

「ねえ、叔父さん。ちょいと相談なんだけどさ。叔父さんって料理できたっけ?」
「いや、出来ねえよ。一人暮らしの時はもっぱら外食かコンビニ弁当だったし」
「アハハ、典型的な残念中年だねぇ」
「うるせぇ、経済に貢献してるって言ってくれ。それよりなんでだ?」
「厨房の佐藤さんが風邪をひいちゃったらしくてね。三日間は出てこれなさそうなのよ」
「あー、佐藤さんも年だもんなぁ」

 佐藤さんは俺が小さい頃から厨房に居たベテランだ。よく厨房で食事をコソッとつまみ食いさせてくれた。
 厨房スタッフはシフトギリギリで回しているはずだから、大ベテランの佐藤さんが抜けるのは痛いよなぁ。
 親父やお袋や姉貴は料理できるけど、従来の業務を疎かに出来ないし。

「誰か、料理できる人がいればいいんだけどねぇ」
「料理できる人か……。近所を当たれば見つかるだろうけど、厨房で料理をテキパキ作れるだけのプロ級の腕前を持つ人なんていないよなぁ」

 うーん、参ったな。このままじゃ、厨房スタッフの負担が半端ない。
 四条家であればお抱えのシェフが何人も居て問題ないんだろうけど、実家の都合でわざわざヘルプしてもらう訳にもいかないし。
 うーん……シェフとは言わないまでもプロに師事したことがある人。

 ……居た。師事とは言わないが、プロに料理を三年以上習っている子。

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