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五章 ルサールカ
三
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「それについては我々が答えてしんぜよう!」
「ちょっと声が大きいから静かにして」
「むぐぐぅ」
己の生存戦略について思考していたノーイの目の前にぶら下がったのは掌大の蜘蛛。毒々しい桃色と紫色のそれは、ペインの一部。
わはー! と能天気に騒ぎ始めたその牙の間に指を突っ込んで黙らせたノーイは、視線と共に彼女に命令する。爛々と輝く緑色の眼に見詰められたペインは、お手上げと言わんばかりに前肢を挙げてみせた。
「で、何についてって?」
「うむ、そもそもあやつらが先代魔王様を倒した後、どうなってたか知っておるか?」
「どうなってたか?」
「勇者は早々に国から出て、戦士長は騎士団長に復帰、大神官は修行の旅に出たらしくその後の消息は不明じゃが」
「……あぁまぁそういうことになるな?」
「ん?」
「いやこっちの話、大魔女は?」
「大魔女はな、庵から追放されたのじゃ」
「庵……?」
「ほれ、魔法使いたちは搭に集まるじゃろ。魔女たちは庵に集まるのじゃ」
「それは初耳だったな、あれ? 追放?」
「うむ、庵は元々権力者によって住み処を追われた女たちの集いでな。当代の大魔女のように国に囲われた者は追い出されるのじゃ。それに何より、大魔女は凄まじかったからの」
「何が?」
「男を食い散らかした数が」
「は!?」
まさか勇者の仲間がそんな猟奇的な趣味を持っていたのかと戦慄したノーイであったが、もしかしてこれは比喩表現というものでは? と思い直す。
「何せ同じ時期に七人……いや、九人だったか? 兎に角沢山の男と爛れた付き合いをしておってなぁ」
「えー……何で?」
「まぁ、国の方針でもあったのだろうよ。王子までもが大魔女の餌にされていたからの……人間の雌は子どもさえこさえてしまえば縛りつけられるから」
「ペインは……あー、ペインちゃんはそうでもないもんな」
「そもそも我々は我々だけで繁殖できるからの」
がちん、と鳴らされた牙に応じて呼び名を変えたノーイだが、納得できてなさそうな顔で首を傾げる。
「で、男を食い散らかして追放された大魔女が何でここにいるかって話は?」
「そうそう、それじゃった。あんまりにも放埒な大魔女を扱いあぐねた国が大魔女との婚約を破棄しての」
「国と人間が?」
「いやそこは人間同士じゃよ、誰だったか……公爵だったかの、そこの次男と婚約しておったが、流石にこのまま子どもが産まれたら色んな意味でヤバじゃなって話になって」
「あー、確かになー……」
「それで大魔女が、何を思ったか大神官に娶ってもらおうと思い立ったらしく」
「ほらー!! やっぱあいつが面倒の種じゃん!! ……あ? や、あいつあんなんだけど結婚とかって還俗しないと無理じゃなかった?」
「あんなん?」
「いや詳しくは知らないですけど……神官って結婚とかってできないって話じゃないですか……ていうか大神官に娶ってもらおうと思い立って何故ここに……?」
墓穴を掘りかけたノーイである(ペインは未だシェムハザが大神官本人であることに気づいていない)。ペインは急に小声になったノーイを見上げて前肢を擦ったが、気にせず話し続けた。
「教会に搭から圧力をかけてもらって還俗させようとしておるのよ」
「ますますわかんなくなっちゃったな」
「それで搭に赴いたあやつに、搭はここの踏破を言いつけたらしくてな」
「もう全然わかんなくなっちゃった、何で?」
「まぁ、死刑宣告というものよ。庵も国も持て余した女を、己の手を汚さすに殺そうとした結果じゃ」
「うーんどうしようもなくなっちゃった人間の処理にウチを使わないでもらっても?」
「それは搭に言ってもらわねばなぁ」
くひひ、と意地悪く笑ったペインの糸を切ろうとするノーイ。死ぬ死ぬ! と大慌てするペインを横目に、ノーイは大魔女へと向き直った。
「ちょっと声が大きいから静かにして」
「むぐぐぅ」
己の生存戦略について思考していたノーイの目の前にぶら下がったのは掌大の蜘蛛。毒々しい桃色と紫色のそれは、ペインの一部。
わはー! と能天気に騒ぎ始めたその牙の間に指を突っ込んで黙らせたノーイは、視線と共に彼女に命令する。爛々と輝く緑色の眼に見詰められたペインは、お手上げと言わんばかりに前肢を挙げてみせた。
「で、何についてって?」
「うむ、そもそもあやつらが先代魔王様を倒した後、どうなってたか知っておるか?」
「どうなってたか?」
「勇者は早々に国から出て、戦士長は騎士団長に復帰、大神官は修行の旅に出たらしくその後の消息は不明じゃが」
「……あぁまぁそういうことになるな?」
「ん?」
「いやこっちの話、大魔女は?」
「大魔女はな、庵から追放されたのじゃ」
「庵……?」
「ほれ、魔法使いたちは搭に集まるじゃろ。魔女たちは庵に集まるのじゃ」
「それは初耳だったな、あれ? 追放?」
「うむ、庵は元々権力者によって住み処を追われた女たちの集いでな。当代の大魔女のように国に囲われた者は追い出されるのじゃ。それに何より、大魔女は凄まじかったからの」
「何が?」
「男を食い散らかした数が」
「は!?」
まさか勇者の仲間がそんな猟奇的な趣味を持っていたのかと戦慄したノーイであったが、もしかしてこれは比喩表現というものでは? と思い直す。
「何せ同じ時期に七人……いや、九人だったか? 兎に角沢山の男と爛れた付き合いをしておってなぁ」
「えー……何で?」
「まぁ、国の方針でもあったのだろうよ。王子までもが大魔女の餌にされていたからの……人間の雌は子どもさえこさえてしまえば縛りつけられるから」
「ペインは……あー、ペインちゃんはそうでもないもんな」
「そもそも我々は我々だけで繁殖できるからの」
がちん、と鳴らされた牙に応じて呼び名を変えたノーイだが、納得できてなさそうな顔で首を傾げる。
「で、男を食い散らかして追放された大魔女が何でここにいるかって話は?」
「そうそう、それじゃった。あんまりにも放埒な大魔女を扱いあぐねた国が大魔女との婚約を破棄しての」
「国と人間が?」
「いやそこは人間同士じゃよ、誰だったか……公爵だったかの、そこの次男と婚約しておったが、流石にこのまま子どもが産まれたら色んな意味でヤバじゃなって話になって」
「あー、確かになー……」
「それで大魔女が、何を思ったか大神官に娶ってもらおうと思い立ったらしく」
「ほらー!! やっぱあいつが面倒の種じゃん!! ……あ? や、あいつあんなんだけど結婚とかって還俗しないと無理じゃなかった?」
「あんなん?」
「いや詳しくは知らないですけど……神官って結婚とかってできないって話じゃないですか……ていうか大神官に娶ってもらおうと思い立って何故ここに……?」
墓穴を掘りかけたノーイである(ペインは未だシェムハザが大神官本人であることに気づいていない)。ペインは急に小声になったノーイを見上げて前肢を擦ったが、気にせず話し続けた。
「教会に搭から圧力をかけてもらって還俗させようとしておるのよ」
「ますますわかんなくなっちゃったな」
「それで搭に赴いたあやつに、搭はここの踏破を言いつけたらしくてな」
「もう全然わかんなくなっちゃった、何で?」
「まぁ、死刑宣告というものよ。庵も国も持て余した女を、己の手を汚さすに殺そうとした結果じゃ」
「うーんどうしようもなくなっちゃった人間の処理にウチを使わないでもらっても?」
「それは搭に言ってもらわねばなぁ」
くひひ、と意地悪く笑ったペインの糸を切ろうとするノーイ。死ぬ死ぬ! と大慌てするペインを横目に、ノーイは大魔女へと向き直った。
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