ETDの雑用係

とりい とうか

文字の大きさ
28 / 116
五章 ルサールカ

しおりを挟む
「それについては我々が答えてしんぜよう!」
「ちょっと声が大きいから静かにして」
「むぐぐぅ」

 己の生存戦略について思考していたノーイの目の前にぶら下がったのは掌大の蜘蛛。毒々しい桃色と紫色のそれは、ペインの一部。
 わはー! と能天気に騒ぎ始めたその牙の間に指を突っ込んで黙らせたノーイは、視線と共に彼女に命令する。爛々と輝く緑色の眼に見詰められたペインは、お手上げと言わんばかりに前肢を挙げてみせた。

「で、何についてって?」
「うむ、そもそもあやつらが先代魔王様を倒した後、どうなってたか知っておるか?」
「どうなってたか?」
「勇者は早々に国から出て、戦士長は騎士団長に復帰、大神官は修行の旅に出たらしくその後の消息は不明じゃが」
「……あぁまぁそういうことになるな?」
「ん?」
「いやこっちの話、大魔女は?」
「大魔女はな、庵から追放されたのじゃ」
「庵……?」
「ほれ、魔法使いたちは搭に集まるじゃろ。魔女たちは庵に集まるのじゃ」
「それは初耳だったな、あれ? 追放?」
「うむ、庵は元々権力者によって住み処を追われた女たちの集いでな。当代の大魔女のように国に囲われた者は追い出されるのじゃ。それに何より、大魔女は凄まじかったからの」
「何が?」
「男を食い散らかした数が」
「は!?」

 まさか勇者の仲間がそんな猟奇的な趣味を持っていたのかと戦慄したノーイであったが、もしかしてこれは比喩表現というものでは? と思い直す。

「何せ同じ時期に七人……いや、九人だったか? 兎に角沢山の男と爛れた付き合いをしておってなぁ」
「えー……何で?」
「まぁ、国の方針でもあったのだろうよ。王子までもが大魔女の餌にされていたからの……人間の雌は子どもさえこさえてしまえば縛りつけられるから」
「ペインは……あー、ペインちゃんはそうでもないもんな」
「そもそも我々は我々だけで繁殖できるからの」

 がちん、と鳴らされた牙に応じて呼び名を変えたノーイだが、納得できてなさそうな顔で首を傾げる。

「で、男を食い散らかして追放された大魔女が何でここにいるかって話は?」
「そうそう、それじゃった。あんまりにも放埒な大魔女を扱いあぐねた国が大魔女との婚約を破棄しての」
「国と人間が?」
「いやそこは人間同士じゃよ、誰だったか……公爵だったかの、そこの次男と婚約しておったが、流石にこのまま子どもが産まれたら色んな意味でヤバじゃなって話になって」
「あー、確かになー……」
「それで大魔女が、何を思ったか大神官に娶ってもらおうと思い立ったらしく」
「ほらー!! やっぱあいつが面倒の種じゃん!! ……あ? や、あいつあんなんだけど結婚とかって還俗しないと無理じゃなかった?」
「あんなん?」
「いや詳しくは知らないですけど……神官って結婚とかってできないって話じゃないですか……ていうか大神官に娶ってもらおうと思い立って何故ここに……?」

 墓穴を掘りかけたノーイである(ペインは未だシェムハザが大神官本人であることに気づいていない)。ペインは急に小声になったノーイを見上げて前肢を擦ったが、気にせず話し続けた。

「教会に搭から圧力をかけてもらって還俗させようとしておるのよ」
「ますますわかんなくなっちゃったな」
「それで搭に赴いたあやつに、搭はここの踏破を言いつけたらしくてな」
「もう全然わかんなくなっちゃった、何で?」
「まぁ、死刑宣告というものよ。庵も国も持て余した女を、己の手を汚さすに殺そうとした結果じゃ」
「うーんどうしようもなくなっちゃった人間の処理にウチを使わないでもらっても?」
「それは搭に言ってもらわねばなぁ」

 くひひ、と意地悪く笑ったペインの糸を切ろうとするノーイ。死ぬ死ぬ! と大慌てするペインを横目に、ノーイは大魔女へと向き直った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

処理中です...