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ユイ クラブでライブ
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しおりを挟むマデリカ二号店から徒歩十分弱。繁華街のど真ん中にあるそのクラブは、昭和の香りが漂うビルの地下にあった。
すでに地上の入口付近にはそれらしい格好をした人々がいて、地下から音も漏れている。
「うわぁ!緊張する・・・」
「大丈夫だよ。こういう夕方からのパーティーは子連れで来てる人も多いし、そこまで閉鎖的な雰囲気じゃないから。て、俺も最初来た時はビビりまくってたんだけどな。」
冬崎先輩の言う通り、子どもも結構いるな。よし、大丈夫だ!
お金を払おうと思ったら、なんとジュン様が四人ともゲストで入れるようにしてくださってるとの事!!
ジュンさんのゲストだよ?!すごくない??!!!
ドリンク代の五百円を払ってドリンクチケットをもらい、手の甲にスタンプを押されて中に入る。
でも、普通に払っても二千五百円でワンドリンク付きって安くない?って思って冬崎先輩に聞いてみたら、音楽重視のクラブで、特にメジャーな海外アーティストとかが出ないパーティーだとこんな感じなんだって。
無料のデイ パーティーも結構あるらしくて、どうやって経営が成り立ってるのか不思議に思った。
階段を降りるとかなり広い空間にテクノが鳴り響いていた。クラブだというのにステージがあって、その上でDJをしている人がいる。色とりどりの照明と、DJの後ろには、映画のような映像が流れていた。
それをじっと見ていると、映画の一場面と、違うシーンや景色、人物などが途切れ途切れに繋がれ、一つの作品となっているのが分かる。
これがVJか!!!
カットアップってヤツだな。すげぇ!!
DJの音にも合っている。音楽と映像が作り出す世界にすっかりハマってしまった俺は、音に合わせて体を揺らしながら、食い入るようにVJが繰り出す映像を眺めていた。
「はい!」
突然冷たい水のペットボトルを差し出されてびっくりした。冬崎先輩とシグだ。
兄は知り合いと話をしているらしい。
「すごく見入ってたね。やっぱりVJに興味あるんだ?」
「はい。凄いと思います。俺もやってみたい!」
「レンさんが紹介してくれるって言ってたじゃん。後で色々教えてもらいなよ。
あっ!そろそろジュンさんに代わる時間だよ。ほら!ジュンさん出て来た!」
あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!ジュン様だ!!生ジュン様!!!
ヤバいカッコ良すぎる。俺鼻血出そう・・・
興奮状態の俺に若干引き気味の冬崎先輩と、分かる分かると頷くシグ。
あれっ?俺ってシグと同類??!
そんな事はどうでもいい。生ジュン様だ、生ジュン様!!
ジュン様は、DJの人と二言三言話した後
、自分のパソコンと機材、ライブセットの前に立った。いよいよ始まる!!!
DJがかけていた曲が終わり、ブン、ブン、とアナログシンセの野太い音が響き渡る。そして、四つ打ちのテクノが展開され・・・えっ?このメロディって・・・ragじゃね??!!!
MAG初期の代表曲のrag だよ!!何これ??rag のテクノmix ??!!!
「冬崎先輩!これrag だよ!!」
「うん!そうだね。こんなバージョン初めて聞いた。カッコいいね!!」
ヤバいヤバいヤバいぃぃぃ!!!
踊るしかない!!!!!
もう、むちゃくちゃ踊った。踊り方なんて分からないから、ピョンピョン飛んだりとにかく本能のままに体を動かした。
フロアも大いに盛り上がっている。
あぁ、もうすぐサビの所だ。
そしたら・・・ジュン様が・・・マっ、マイクで、うっ嘘?!歌ってくださるのぉぉぉ??!!!
「rag rag rag ・・・・・」
あぁぁぁぁぁぁ~!!!!!
ほんのワンフレーズだけだけど、確かにジュン様が歌っている・・・
何この色気??!!!!!
この歌声に魅了されない人なんかいないだろっ??何て言うか・・魂が揺さぶられる歌声?魅惑の魔法をかけられたみたい。心が震えて涙が止まらないよ・・・
涙越しにジュン様をみれば、その後ろには初期から最近までのMAGのライブでの一コマと、ボロボロの服を着た外国(ロンドンかな?)のパンクスが交互に流れる映像。その合間にデザインされた「JUN」のロゴも入る。
あぁ、これだ。俺がしたいのはこういう事なんだ。
そう自覚した後は、ひたすら踊った。この空間にいる事がとにかく嬉しくて、rag のテクノmixがカッコ良すぎて、ジュン様の歌声が尊すぎて・・・
「rag rag rag ・・・・・」
拳を突き上げて、ジュン様と一緒に絶叫して、またひたすら踊った。
ふと横を見るとシグがいて、嬉しくなって抱きつくと、腰を抱いてよしよしと頬を撫でてくれた。
頭はセットが乱れるからな!
そんな気遣いも嬉しくて、ギュッとハグをする。
その後も、俺はひたすらジュン様と映像を見ながら踊り続けた。
この最高な音をレンさんが調整していると思うと、ますますテンションが上がる。
JUNのライブはいろんなセットがあって、デイ パーティーではアンビエントが多いって冬崎先輩が言ってたけど、今日はテクノ寄りだ。ちょっとノイズっぽい曲もあるが、基本踊れる選曲だ。
そしてこの曲・・・何だろう?水の音にゴウゴウとノイズが混じってる感じ?
これもベースは四つ打ちのキックで、引き続き踊れるようになっている。
けど・・何故か胸が締め付けられる。
VJが映す映像も、暗い水の中で何かが蠢いてるイメージ。
ちょっと不安になって、横にいるシグの手を握る。
そこから段々と浮上して行き、何かが水面から顔を出した瞬間、急に色の洪水が溢れ出す。いろんな色がグルグルまわって、一つの矢のようになり何かの元に吸収されて行く。そこに産まれたての赤ちゃんが一瞬映り、あぁそうか、お母さんのお腹の中から赤ちゃんが産まれたんだ。と、理解した。
あの矢はこの先の未来の可能性なんだ。
そこからは、様々な自由なイメージの映像が続く。鳥が空に向かって羽ばたいたり、イルカが海で遊んでいたり。草原を駆け巡るライオンもいた。
そこに、いきなりライブ中継なのかこのフロアが映る。
そうか、同じなんだ。
鳥もイルカもライオンも、このフロアで踊る俺たちも自由なんだ。好きに生きていいんだ。
何となくシグが横にいるって事実に安心しハグをする。シグも優しく抱きしめ返してくれた。
考え込んだのはそこまでで、後は自由にひたすら踊った・・・
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