銀色の年代記(クロニクル)~番外編 アルファポリス版 AI校正ver

安倍由里子

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レイラに関するお話

①〈番外編─結婚狂騒曲 その1〉

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「レイラっ、俺たちと婚儀を挙げてくれっ!!」

事件は戦場ではなく、ボルガ王宮内で起こった。
それは、突然の頬を真っ赤に染めたミシュカの告白から始まった。

「はぁっ!?」
あまり唐突すぎたので、さすがのレイラも、これには驚いた。

ちょうど酒を飲みなおしていた所だったから、喉に詰まってむせ返った。
傍にいたマリーが、心配そうに、とんとんっとレイラの背を叩く。

「⋯⋯い、いっきなり、どうしたのよ?」
布で口を拭うレイラの前に、ミシュカの顔がぐぃっと近づく。

その距離の近さに、思わずレイラがたじろいだ。

「俺たちと婚儀を挙げろ! レイラっ!!」
2度目の口調は、命令にしか聞こえなかった。

ギルモア1世の戴冠式も終了し、1週間滞在した双子は、2日後に国へと帰ることになった。
今夜は送別会が華やかに開かれ、飲み足りないレイラが自室で酒を煽っていた時の事。
そこへ、双子が飛び込んできたのである。

「オレたちって⋯⋯あんたたち、2人で1人の、きさきって何かおかしくない? 
それにあたしの年、知ってるの!?」
レイラは息を呑んで、あきれたようにため息をついた。

元々『非常識きわまりない言動』のレイラにしては、もっともなご意見である。
それに全く動じることなく、ミシュカは話を続ける。

「でも、俺たち双子だろ? 女の好みも同じだし、昔から好きなものが同じなんだ。
あんたの男気にれたんだっ! 頼む、レイラッ!!」

「⋯⋯⋯?」
男気? 
そりゃあ、『女に見えない、偉丈夫いじょうふ』とか言われるけど、あたし一応女だし─と首をひねるレイラの前で、ラシュカも思いつめた表情で口を開いた。

「そうです。王妃として私たちに必要な器なのです。決して、不自由はさせません。
年の差なんて、愛の前では関係ありませんから」

ますます、変な話だ。
』と言っている。
それに年については、どこで調べたのか把握はあく済みらしい。

ちなみに、現在レイラは29歳。

双子は19歳。

なんと、10歳も差がある。

この世界の常識では、29歳と言えば、結婚適齢期を大幅に過ぎている。
平均寿命が短いので、婚期もかなり早い方だ。
29歳になれば早い女性なら、あと数年で成人を迎える子供を持っている人もいる、そんな世界。
(注、作者より:この世界の成人年齢は13歳の設定です)

「⋯⋯ちなみにさぁ。大臣たち、何て言ってるのぉ?」
レイラの問いに、ラシュカの目が泳ぐ。
ミシュカは、ふぃっと膨れたように横を向いた。
その表情にレイラは我が意を得たりとばかりに、力強くうなずいた。

「言ってないんでしょぉ? じょーしき (常識)を振りかざす大臣たちに、2人で1人の妃ってマズいんじゃない? 認めるはずないでしょ?」

「⋯⋯話はしたんですが、反対されまして」
目が泳ぎ続けるラシュカの前で、レイラの声に、ミシュカは膨れ顔のまま。

ラシュカは、のどに詰まったような声で、口を開いた。

「ほら、当たり前でしょ!!」
勝ち誇ったようなレイラの声の前で、彼はなおも顔を引きつらせたままだ。

「それが、その⋯⋯認めないなら王国は再建しない。王にはならないとミシュカが怒ったので、大臣たちが泡を吹いて卒倒しました。
婚儀は神の前で1人であると、神官長も⋯⋯」

思わず語尾が小さくなる。

ラシュカはどうやら、非常識であることに気がついていたらしい。
2人で話し合わなかったのだろうか。
それとも、言い出したら聞かない、兄を止められなかったのか⋯⋯?
あまり表情を変えるのを見られたことのないマリーも、少しだけ眉を動かした。

この世界では王は本人の度量で愛妾を何人でも持って良いが、正式な婚儀は正室1人だけである。
国王だから、置いて良い訳ではない。
愛妾だって囲うだけの経済力が無ければ、彼らだって手は出さない。

この世界には大中小、様々な国があるのだ。
懐事情は世界共通ではない。
公式には認められたことではないが、愛妾は、血が絶えないための暗黙の了解だ。
公式には正室との離婚は絶対に許されないし、1回の婚儀で2人の夫なんて、庶民の世界でも聞いたことが無い。

「それもそうよね。無理でしょ。どうする気?」
当たり前だとうなずいたレイラの問いに、焦ったようにミシュカがレイラの手を握りしめる。

手を取られて焦るレイラがとっさに引こうとするが、年下とは言え、さすが男である。
力が強く、男に負けない握力のレイラですら何故か引くことが出来ない。
困ったように、レイラはラシュカのほうをちらりと見た。

「⋯⋯あんたねぇ·····ラシュカ、説得してよ⋯⋯! まさか、あんたも!!」
ミシュカのワガママだろうから、ラシュカに頼めば何とかしてくれるだろうと思い込んでいた。
だが、ラシュカの頬を染めた態度を見てレイラは悟った。

(絶対に、ワガママではない。
2人とも、本気で自分と婚儀を挙げるつもりらしい。)

どんどん青ざめていくレイラを前に、頬を染めて幼げな表情でうなずくラシュカ。
大きなため息を吐くレイラを前に、コロコロとマリーが笑い声をあげた。

「ねぇ、レイラ。女当主で白髪しらがになるより、の方が断然、素敵じゃありませんこと?」

「マリー、あんた面白がってるだけでしょ!?」
じろりとにらむと、マリーはすました顔であっさりと同意する。

「それも、そうですわねぇ」
被せるように、ミシュカが叫び声をあげた。

「ともかく、一生大事にする! 女が当主なんて、苦労したんだろっ!?
でも、これからは俺たちが2人でお前を守るっ!!
愛するあんたを、俺たちなら絶対に泣かせたりしねぇ!! 頼むっ! レイラッ!! 一緒にナジウムに来てくれっ!!!」
真剣な瞳でレイラを食い入るように見つめ続ける。

手を握りしめたままのミシュカの前で、レイラの瞳がれた。
しばらくして、レイラが諦めたように口を開く。

「⋯⋯じゃ、どっちかマリーと婚儀を挙げて」

「えっ!? 挙げてくれんのか?」
顔を輝かせるミシュカの前で、ラシュカが目を白黒させながら、兄に対して恐る恐る話を切り出した。

「⋯⋯兄上、婚儀を挙げられるのは、やはり1人だけのようですよ」
それを聞いた途端、ミシュカの目から大粒の涙があふれだす。

「そんなぁ、俺はラシュカと2人で、レイラを」
ぐずぐずと泣き出したミシュカの前で、レイラがうっとおしいと舌打ちをした。

「愛されるのに2人の男はいいけど、のは1人だけでしょ。神官と大臣、どーすんのよ?」
⋯⋯と、言うことはやはり2人でレイラを愛してもいいらしいと、都合よく理解したミシュカの瞳が輝いた。

事実そう言うことなのだろうけど、自分たちのどちらかがレイラと婚儀を行う。
そうなると、ここに残る女性はマリーだけ。
残りはマリーと偽装婚しろ、と言われているのだろうか。
双子は思わず、マリーをじろじろと上から下まで眺めまわす。

「ですが、マリーさんはどうなるのですか?
愛してもいない男とだなんて、さすがに可哀そうではありませんか」
じろじろ見られても一向に表情の変わらないマリーの前で、ミシュカが『どちらかがマリーを相手に婚儀を挙げれば、レイラを2人で愛することが出来る』と勝手に解釈したらしい。

兄の輝いていく表情に、慌ててラシュカが助け舟を出す。
その前に、レイラはマリーと婚儀を挙げろとは言ったが、本人の同意は取っていない。
ラシュカ自身も、本心を隠してはいるがレイラと婚儀を挙げたくて、気が焦っているようだ。

まずマリーの気持ちを聞いていないし、神や大臣のことをすっかり忘れている。
この世界の神は、条件付きで一夫多妻は認めるようだが、一妻多夫いっさいたふは認めるなんて、聞いたこともない。

ちなみに、マリーの気持ちはどうなるのだろうか?

さすがにミシュカも早とちりに気がついたのだろう、妙な顔をして押し黙る。
その重苦しい沈黙を破ったのは、相変わらず表情の変わらないマリーだった。

「あら、わたくしがどちらかと婚儀を挙げればよろしいのでしょう、よろしくてよ?」
マリーのよく通る声が、その場を制した。

「さっすが、マリー!! よろしくねっ!」
レイラの明るい声に、ミシュカの顔が輝く。
レイラもさっきまで非常識と反対していたくせに、この変わりよう。

偽装婚儀を挙げてもいいのだろうか?
3人がまとまりそうになったので、一応、常識派のラシュカが再び異論の声を上げる。
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