銀色の年代記(クロニクル)~番外編 アルファポリス版 AI校正ver

安倍由里子

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レイラに関するお話

②〈番外編─花嫁の父 その2〉

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「あの時、母さんは日ごとに弱っていって。
この話はレガトゥス様か、ダートア様だけに話せって。
何の意味かはどうしても教えてくれなかったけど、あたしと2人っきりの時に必ず、『2 人一緒じゃダメ、1人ずつ話すのよ』って口を酸っぱくして言ってた」
(作者注:当時は、リアスタは長官の一人。長官は基本10人以上いるので、分かりやすいように姓+長官名で呼ぶか、名前の愛称で呼ばれる。
内部の人は、姓に様とつけて呼ぶこともある)

リアスタはその話を、レイラを射るように見つめて聞いている。
レイラは、居たたまれない。

「でも告解こっかいが済んだ途端、急に絶対にレガトゥス様だけにしてくれって。
ダートア様には絶対にダメだって、何度も何度も繰り返しながら死んでいったの」


その告白にリアスタが喉を鳴らして満足そうに笑ったが、レイラには何のことか分からない。

「何のこと?」

リアスタは思い出していた。
禁じられた過去を。
トゥーア(ダートアの愛称)がティナ(レイラの母)を愛していたことを。
そして、『フェルとエラ』は、ティナとリアスタの真名の愛称でもあることを。

真実の愛を誓った男女は、お互いの真名を交換することもあるのだ。
それをレイラに言うつもりなど、はなから無い。

一瞬、墓参りも頭をよぎったが、立場もある。
それに所詮、下働きの女だ。
墓もその辺の共同墓地。

遺体など大きな穴を掘ってそこに何体もまとめ、いっぱいになってから葬るのだ。
墓地の場所は知っているが、どの角度でどこに埋まっているかも分からない。

穴だってまとめて何個も掘るし、どの遺体をどこに埋めるかなんて、墓堀人だって把握せず、ただ投げ込んでいるだけだから。

トゥーアは猛反対していたが、ティナの立ち位置は、貴族の子供を産んだだけの、ただのいやしい使用人。
身分の差はくつがえせず、自分が出来るだけ口を利いても、結果は変えられなかった。
それでもトゥーアは、に対して、たまに祈りに行っていたようだが。

認知されていない以上、慣例上彼女は『貴族の若君を誘惑した下働き』と言う、この世界ではよくある酷い扱いだ。
たいていは、逆なのだが。

だから、ティナは子供の母親であっても、ハミルトン家とは全く関係のない存在。
普通は子供だって認知される確率は低く、母子共々、野垂れ死ぬ確率の方が高い。
男児でもないし。

ダートアはわざわざ下働きの女のために自分が父親だと名乗りを挙げ、愛していると宣言し、神殿に喜捨を続けた。

その結果、家財を傾けて万年貧乏であったと世間ではささやかれている、貴族としては変人の部類に入るのである。
年中貧乏だったのは喜捨だけではなく、本人の書巻好きとその収集癖にも理由があるのだが。

墓参りなど、バカバカしい。

トゥーアと違い、自分はになど、興味はない。

自分が欲するのは、ティナ。
ティナ・オーウェン、あの女の魂のみ。
リアスタは、過去とティナへの想いに、引き続きふける。
──ポセイドン神殿が人間の妄想でないことは銀の姫君の話で理解できたが、清らかなティナと違い、自分は裏で悪事に手を染めている自覚はある。
いや、表でもいろいろやっている。

そういえば、埋葬といえば余計なことを思い出した。
先の猊下、あいつ何て言ったか……そうだ、ジェラルド・ラ・ロルクだ。
酒と金が大好きだった。

ティナ親子をこっそり始末して隠し通し、トゥーアから金だけ喜捨させようとしてたんで、「お前の悪行をバラさない代わりに、ハミルトン様の言うことを聞くように」とおどしてやったことがあった。
その代わり、あいつはそれを根に持って嫌がらせでティナの埋葬は、共同墓地以外に認めなかった。

いくら身分が低くても、貴族の若様のお手付きだ。
コルデアは酷い男尊女卑だが、血統主義で直系優先。
女は嫌がられるが、男女問わず嫡出子を優先する原則だ。
基本は生まれた女児に現当主が婿を取って、そいつを当主とさせる。

その前に、あいつが死んでしまったから、現当主のレイラの許可がないと相手は婿になれないのだ。
それにトゥーアには、他に嫡出子がいなかったし、あいつん家には直近に近いやつも見当たらない。

だから、レイラは女と言えども許可さえあれば跡継ぎにだってなれる身分だ。
事実、毎年とんでもない喜捨の額に喜んだあいつがコルデアの国王に一筆書いたから、いろいろあったがレイラは女の身で当主になれた。

本当は自分の子だが、公式には、あいつの子の設定だしな。
レイラの豊満な体と、家柄だけは立派なハミルトン家の婿になりたいやつなんて山ほどいる。

だが、根が乙女だし、目的を見破ったあいつがのしてきた相手はごまんといるようだ。
コルデアの土地柄とあいつの気性じゃ、相当苦労しているようだが、おくびにも出さないのは褒めてやりたいと思う。

実際、あんな男尊女卑のきつい国で13年も当主をやれてるんだから、多少の才能はあるんだろう。

まぁ、誉めたりなんてすれば、あの阿呆が図に乗るから、黙ってはいるが。
その母親の埋葬地が、共同墓地ではやりきれない。
猊下が許可を出せば、家族墓地の片隅くらいには仕方なくと言った形で埋めてもらえる。

どんな卑しい身分でも、跡継ぎの母親だからな。
あいつ、先の猊下には、それくらいの権力はあったんだ。
それでも、自分への嫌がらせでそれをやらなかった。
それは『レイラが自分の子供で、亡くなった祖母から名前を取った』とバレたからだ。

あれは、一生の不覚だった。
だから埋葬の時に口は利いたけど、あいつに対して強くは出られなかった。
トゥーアが何とかするように強く迫ってきたが、謝るしかなかったのは苦い思い出だ。

入官(神官になる)後は、過去を全て捨て去る決まりなのに、それを破ったのは自分の弱さが原因なのだろう。

しかし、レイラは自分の子だ。

いくら神官とは言え、自分には『神のお導きで、男女の仲になった』フェル(ティナの真名)やレイラへの情を捨てることなど、自分には出来なかった。
その代わりにずっと隠し通し、祈り続けてきた。

だけど、今回銀の姫が現れて、墓場まで持っていく『真実』をとうとう話してしまった。
レイラに何故、最後まで隠さなかったのか?
それは、自分にも分からない。

俗世を捨てたくせに、縁を求めたのはやはり自分が弱い人間だからだろう。
だが、それは女人禁制の罪として、子供を作ったことを後悔しながら祈りはしない。

人を愛せた自分が、猊下としてこの世界に対して何が出来るか─と言うことだ。
万人への愛を説く、猊下として、弱い立場の人として、『愛』を捨てることなどはしたくない。

しかし、神官の決まりとして悪いことをしているのはお互い様だった。
お互いすねに傷がある身だから、先の猊下だって自分に嫌がらせくらいしか出来ない。
監察部にバレりゃあ、結局は双方生き埋めだ。
(作者注:神殿本部プライアスに属する各種省庁内にある部署の一つ。
神殿内部の警察みたいな感じ。
ちなみに、財政関係は監査部となる)

あいつは、酒と金。こっちは子供を作ったんだから、当たり前なのだろう。

こっちも墓地の腹いせに、「もし、バラしたらお前が神殿本部プライアスの金を使い込んで賭け事してることや、他にもいろいろ、悪行の全てをバラしてやる」と、脅し返してやったからお互い様か。

裏金作りも密告しないで、黙っていてやったんだ。
あの男は、自分に大きい借りがあるからな。
猊下の権限で自分に無実の罪を着せることも出来るが、それが出来ないほど裏であいつに協力してやったんだ。

だがここまで自分を怒らせた、あのじーさん。
多少ような気もするなぁ、あのじじぃ。

そんなわけで、「待つ」と言われても、全く善人ではない自分が神殿へ行けるのか。

その前に、ただの人間であるティナが神の神殿に居座っても大丈夫なのか。

いや、あの女ならやりかねん。
あれは、自分の愛する女なのだから。
そう─狂おしいほどの情熱を捧げたいのは、あの女だけ。

レイラが生まれてからは、他人のお手付きとなった(設定の)ティナとは、たまに視線を交わすのみになってしまった。

それでも同じ神殿と言う空間にいるだけで満足だったのに、残念ながら死と言う別れで、それが断ち切られてしまった。
ただそれだけで、今でも彼女を愛している。

自分の魂を捧げるほど愛している、あの女、フェル──その感傷を、レイラの呑気のんきな声が遮る。
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