銀色の年代記(クロニクル)~番外編 アルファポリス版 AI校正ver

安倍由里子

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バルーダ王国編

③〈番外編─その瞳に映るものは その1〉

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《作者注:バルーダ王国、元国王夫妻の処刑話です。残酷なんで、心臓の弱い方はご遠慮ください。》

ここは、バルーダ王国。
強権的な前王カリスタ3世が崩御ほうぎょし、その息子で王太子であるカル=レンシアが即位した。

レンシア6世である。

しかし、王には統治者として致命的な欠点があった。
生来の女装趣味である。
いや、その言い方には多少誤解があるだろう。

レンシア6世は男でありながら、生まれつき女性の心を持っていた。
王太子時代は、必死で周囲が隠していたので何とかなった。
それに、絶対的権力者である父王が、その身を保護してくれていたからだ。

しかし、王となっては隠せる場所や守ってくれる存在などあるはずもない。
我が身が権力であるはずだからだ。

彼は王太子殿下として甘やかされて育ち、よくあるワガママいっぱいの王族として成長した。
王族とは環境からそれが当たり前でもある。

そこで自覚をして王族や王たる器を作らなくてはいけないが、レンシア6世の場合、そこは上手くいかなかった。

幼く猜疑心さいぎしんの強い性格は、王になっても治る気配など、むろんあるわけもない。

女性としての心を持つ自分と、バルーダ王国の性質上、圧倒的な男性性を要求される現実との対比に押しつぶされ、彼は大臣に政治を任せて趣味に没頭することにしたのだった。

王妃アレイシアは何とか王に女性の心を持ったまま統治者としての自覚を持たせようと奔走ほんそうしたが、全くの無駄骨。

そんな王と大臣、貴族たちからの長年の圧政や重税に苦しみ続けた民衆は、とうとう反乱を起こし、貴族や王が支配するバルーダ王国の王制廃止を宣言。

農民・商人・庶民から無作為むさくいに代表を選んだ自治議会は、その3身分を中心とした『』の成立を宣言し、王を強制的に退位させた。

前王カリスタ3世の死から、ちょうど7か月目のことである。

大臣はもちろん、貴族階級、高貴とされた人々は殺されるか身の危険を感じ、次々と逃亡。
元王太子ヴォルフも脱出に成功し、逃亡。

ボルガ王国から、輿入こしいれの際についてきた、王妃付き女官メリル・ディ・ストライドも、何故か行方不明となった。

元王太子ヴォルフは国内のどこかに潜伏しているらしく、自治議会からは一級の指名手配犯として懸賞金をかけられている。
レンシア6世とアレイシア妃との間には子が無く、先王の亡弟の遺児であったヴォルフを王太子としていたのだった。

元々、人望の薄かったレンシア6世である。
とうとう近衛兵にも独立国への加担を宣言され、全てに見放された元国王夫妻は捕らえられたのだった。

議会の開いた裁判では、国をかたむけた罪として、1か月後に2人とも広場で斬首刑という判決が下った。

首を切られる──貴人の身分としては予想外のあり得ない判決。
判決の瞬間、『神から認められた王族である自分に対するこの上ない侮辱ぶじょくである』と、そう言って元国王は絶叫した。

それを気にする者など、誰もいない。

もう、レンシア6世は王でも貴人でもない。
退位したのだから、元国王夫妻は国民を苦しめた罪で斬首が相当だろうと言うのが、議会の判断だった。
傍らでそれを聞いていた、元王妃アレイシアは真っ青な顔で、黙って椅子に腰を掛けていた。

さて処刑当日──吐く息が白い。

12月と言えば、バルーダ王国では外に出した水が凍ってしまうほど。
ここで地上ならば雪がちらつくといいたいところだが、ここは海の中なので雪が降るような状況ではない。

街の中心の広場には、処刑台が設置されていた。
急遽きゅうきょ作られた、舞台のような形だ。木が貴重なので、木製ではない。

海藻で作ったプラスチックのような素材に金属の粉を入れた強化板を繋ぎ合わせて、その上に白い布が引いてある。
せめて、と願った元国王の願いは、叶わなかった。
そして、『王に対して卑しい身分の国民どもが反抗をした』という彼の考えも最後まで変わらなかった。

長かった髪を裁判後にばっさりと切られ、当日に丸坊主にされ、男装姿で刑場へと引き出される。
いや、元々男なので、その表現は不適切なのかもしれないが。

広場には元国王の処刑を見ようと、興味目的の人々が大勢集まっていた。

台の上には、議長、首切り役人、神官が2、3人、元国王夫妻、女官が2人。
そこまで広い台では無いので、議長と首切り役人以外は、用意された椅子に座って、恐々と元国王の絶叫を見つめている。

広場の皆も、わめいて暴れる王を嘲笑ちょうしょうしながら見守っていた。

その絶叫は、議長が読み上げる判決文が聞こえないほどだが、皆そんなことなど誰も気にはしていない。

「いやだぁぁっぁぁぁっぁ!!!」
議長が判決文を読み上げる手を思わず止めて、あきれたようにひとりごちる。

「てめぇ、最後くらい国王らしくしろよ」
だが、それが止まることなどは無い。

たくさんの首を切り、処刑を前に狼狽ろうばいする者を見慣れているはずの首切り役人ですら、戸惑いの表情を浮かべるほどの幼い言動だ。

「ぼ、僕はっ! 女なんだぁぁっ!! どうしてぇぇ、ボクには! その、自由がぁ、無いんだァぁっ!! か、神よぉ!! グファッ!!」
首置き台に3人がかりで押さえつけられ、背中に乗られ、天を仰いだレンシア6世の絶叫は猿ぐつわで中断された。

その下からも引き続き、何か分からない、くぐくもった声が漏れてくる。

喚わめき続ける王の傍らには、粗末な椅子に顔をこわばらせた元王妃と泣き出さんばかりの女官が2人、椅子に座らされている。
女官が眉をしかめて元王妃の表情を不安そうに横目でうかがうが、彼女の表情は変わらない。

ザクッ!!

グ、グガ、ガフゥゥゥ!!!!! 

1度目の、投擲とうてき
(作者注:おのを振り下ろすこと)

レンシア6世から断末魔の叫び声が漏れる。

首切り役人はわざと頭蓋骨にそのおのを振り下ろしたのだ。

民衆への娯楽とするため、まるでお祭りの見世物でもあるかのように。
その苦しみを娯楽でもあるかのように、民衆は嘲笑ちょうしょうしながら見守っている。

2度目は首へ軽く。
切れるわけがない、勢いで。

『民衆の苦しみを思い知れ』ということなのだろうか?

そうして、3度目にようやく元国王の首は体から離れることを許された。

頭蓋骨に損傷のあるポタポタと血の滴る首を持って、自治議会の議長サーリフが民衆の前で宣言する。
すでに処刑台の床は血浸しであるが、血の染み込んだ赤く染まった布を変えようとするものは誰もいない。

「バルーダは死んだっ! 我々の勝利だぁっ!!」
広場は歓喜と、罵声に包まれる。

「次はあんたの番だ、
元国王の首を、側にあった台にある盆の上に無造作に置いたサーリフが、元王妃の方を振り返った。

元国王夫妻は、レンシア6世がバルーダ、アレイシア王妃はバルーダ夫人と呼称を変えさせられていた。退位した以上、王族ではない。
庶民のように名前だけでもよいだろうという、議会からの命令だった。

ただし、話がややこしくなるので、このお話の上では、出来るだけ元国王、元王妃と書くことにしよう。

さて、元王妃であった時代とは考えもつかないほどみすぼらしい黒いドレスを身にまとった彼女は、毅然きぜんとした態度で立ち上がった。
側にいるお付きの女官など、気を失わんばかりだというのに。

長かった豊かな波打つ金髪は、逮捕された翌日にバッサリと耳の下で切られている。
実は切る際に、元王妃の髪にが、誰も気にもとめなかった。

本来ならば処刑当日に切られるのだが、元王妃の再三さいさんの要望により、監視付きで後ろ手にしばってならばと言うことで、許可が下りた結果だ。

当日も少し伸びていた髪を、斬首の為に切りそろえたばかりだった。
議会側は元王に対しては冷たかったが、元王妃に対してはその言動は比較的自由にさせてくれた。

外部と連絡を取る事以外は、滋養のつくものを差し入れする者もいたし、牢獄の中庭ならばと散歩も許可された。
飢えている民衆に対して逮捕直前まで元王妃が慈善活動をしていたことや、その情け深い言動を、国民は忘れていなかった。

むしろ、このような王の妃であることに同情する者は多かった。

『せめて、処刑当日までは』と珍しいことに、ほとんどの要望を聞いてくれた。
但し、王と一緒の寝室をという願いだけは、何度頼んでも許可は下りなかった。

サーリフの前へと進み出た元王妃の前に、紙とペンが突き出される。

そこには『離婚承諾書』という字が書かれた紙。

「これは⋯⋯?」
もちろん元王妃は字は読めるのだが、といった風情ふぜいで目を丸くしてつぶやいた。

「俺たちゃ、あんたの旦那には恨みはあるが、元々あんたには全くねぇ。
判決はああなったが、勘弁してくれ。神官どもをおどして書かせた。
署名するなら命は取らねぇ、さぁ書けっ!」

この議長サーリフは、元は行商から身を起こした商人だ。
そのせいか、丁寧な物言いは元々、苦手らしい。

サーリフが鼻先へと突き出した紙を横目に、ちらりと周囲を見ると、立ち合いの神官たちもニコニコと微笑んでこの光景を見守っている。

この世界の宗教は、離婚を認めるような教義は無い。
庶民の身分だと、教義に反して惚れた別れたも日常茶飯事だ。

しかし、それは『
基本、どのような状況、身分であろうと離婚など神が許すはずも無いとされている。

離婚は堂々とは許可されない。
特に身分が上になるにつれ、出来なくなる。

庶民だって正当な理由を作って、教会で承諾書を貰わないと離婚できない設定になっている。

まあ、守らないやつも多々いるのだが。

元王妃が周囲を窺うように目線だけ動かすと、珍しく神官たちは同じく目で署名をするように促してくる。

何と、神に仕える神官が、である。

女官たちの顔が輝き、広場中の民衆が固唾かたずを飲んで見守っている。

さぁ、元王妃はどんな選択をするのだろうか?
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