ファントムレイド

高町 凪

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解明編

来栖 美雨の一日

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「じゃあね~、美雨ちゃん!」
「・・・ん、また明日」

秀東女学院付属の小学校の校門前で、お互い手を振りながら別れる美雨とその友人である高宮真智。
午後1時半、その日の授業を終えた美雨は表情にこそ出ないが、どことなく嬉しそうな雰囲気を出しながら帰宅していた。家に帰れば自分の大好きな義兄兼保護者りんがいるからだ。

別に学校が退屈なわけではない。基本自分から話しかけることはない、暗い印象を持たれがちな美雨だが、そんな彼女でも楽しそうに話しかけてくれる友人まちがいる。
だがそれでもやはり、過去自分を救ってくれて、育ててくれる凜と一緒にいる時間のほうが好きだから。毎日帰宅するときはこうして嬉しそうにしているのだ。
凜のほうも自分のことを可愛がってくれるし、大事にしてくれているというのが毎日伝わってくるのだ。大好きでいられないはずがない。

そんなことを思っていると、ふとその救ってくれたときのことを思い出す。

(・・・そういえば、あの時も心の底から嬉しそうな顔をしてたっけ。)



美雨が7歳の時、両親が彼女を捨てた。いくらまだ幼いとはいえ物心が付いていた美雨はすぐに察した。と同時に絶望した。元々両親の仲は良くなかった。毎日口喧嘩が絶えず、時には殴り合いにまで発展した。自分のこともあまり見てくれなかった。本当は二人ともっといろんなことをしたかったのに。もっと仲良くしたかったのに。

結局それらは最後の最後まで叶うことはなかったのだと。もう両親と会うことも叶わないのだと。

住んでた家も次の住居人が見つかったからと追い出され、雨の中行く当てもなく彷徨っていると、ふと雨が自分に当たらなくなったことに気づいた。上を見上げると黒い傘が見え、その持ち主を見ようと後ろを振り返る。

「雨の中傘をささずにどうしたの? 風邪ひくよ?」
「・・・・だれ?」

虚ろな目をしながらその人に聞く。

「ん、葉織凜っていうんだ。君は?」
「・・・・美雨。来栖美雨」
「美雨ちゃんか。可愛い名前だね」

自分と目線を合わせて優しい笑顔を見せながら凜が言った。

「それでどうしたの? 迷子とか?」
「・・・・違う」

少し逡巡した後再び口を開く。

「捨てられたの。お父さんとお母さんに」
「・・・・」
「・・・それで行く場所も、頼れる人も、いなくて」

言っているうちに自分の状況と心の内を改めて自覚していくと、次第に涙があふれてきた。

「・・・それでっ、どうしたらっ、いいかわからなくて。・・・ひっく。だから」
「・・・うん」
「だから・・・凜さん」

初対面で何もこの人のことは知らない。けど不思議と悪い人には思えなくて。この人ならという直感があって。
だから流れる涙を裾で拭きながら、凜の目を見て言う。

「―たすけて」
「うん。助けるよ。・・・よく言えたね」

美雨のお願いに即答した凜は、嬉しそうに、優しい顔のまま美雨の頭をなでる。

途端に安心した美雨は凜の胸に飛び込んで泣きじゃくった。人通りもそれなりの場所であったが、幸いにもその声は雨の音で掻き消えていた。

それから美雨は凜の家族となり、必然的に暁のことを知った美雨はこれに所属すると決意した。

あまり気乗りしてない凜だったが、美雨が10歳になると同時にアビリティを発動したことからやむなくといった様子で承諾したのだった。



「・・・ふふっ」

その時の凜の顔を思い出すと少しおかしくなり、ついつい笑ってしまった。



家に着いてかばんを自分の部屋に置くなり真っ先に凜の部屋に来た。

「・・・ただいま。凜」
「あ、おかえり。美雨」

家では基本和服姿の凜が書類の束とにらめっこしながら美雨に言った。

「・・・仕事?」
「そうなんだよ~。聞いてよ美雨。紅羽の奴がさ~・・・」

そうぶつぶつと文句垂れる凜に美雨がジト目で反す。

「・・・前にも言った気がするけど。だらしない凜が悪い」
「うぐぅ。 そ、そうかもだけどこの量はあんまりだよ~」

若干泣き顔を見せながらも着々と書類を片付けていく姿を見つつ、彼に近づいてはその膝の上に座る。

「ん。・・・なんかあった?」
「・・・ううん。ただ、さっき3年前のこと思い出してた」
「3年前? 美雨がうちに来たばかりのころ?」
「・・・うん。あの日も家に着くなり紅羽に『どこほっつき歩いてたんですか!!』って怒られて、『別にいいじゃんどこでも~。』って文句言ってた」
「ああ~。そうだっけ。あはは、俺ってあんま変わってないんだな」
「・・・いい。凜は凜のままのほうがいい」

凜の顔を見てそう言ってくれる美雨に、「そっか」と答えて再び書類を片付ける。


「と、そういえば。今日はどうだった? 学校」

仕事を終えた凜が美雨に尋ねる。

「・・・ん、あのね・・・・」

凜の体に寄りかかりながら、美雨はその日の出来事を話すのだった。
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