公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】

あくの

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領地の日々

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 ヴィクトリアは自宅にいる時と違い生き生きとしている。兄とおそろいの男性と同じ冒険者の恰好だった。チュニックに鹿皮のスパッツに足首にを補強する形のブーツだ。
 サイラスも同じような恰好で領地の森の中にいる。

「今日は青角鹿を狙う。トリアは麻痺矢で鹿を狙ってくれ。俺とポールは斧と剣で止めを刺す」

サイラスを中心とした三人パーティで森で狩りをするのは領地にいる時の恒例の訓練であった。サヴェージが冒険者になれたのもサイラスとのこういう訓練を子供の時からしていたからだ。
 サヴェージは娘もこういう訓練を一緒に受けているとは夢にも思っていなかった。ポールもヴィクトリアも既に鹿くらいなら自分で捌ける。

「お祖母様が好きな鹿肉の煮込みを作れますね」

ポールがまだ狩れてもいない鹿の使用用途を決める。





 「あらあら。汚れちゃって。大物が手に入りましたね」

鹿と黒野牛を乗せた箱型の台車を数人の下男がひいている。

「黒牛は罠の方だ」

クマよけの罠にかかっていたとサイラスは説明する。

「今日、明日は忙しいですね。食べないお肉はさっと燻製にしましょう」

既に燻製小屋からは煙が上がっている。祖母ユリアも楽しみにしていたようだ。

サラアレの結婚式も終わったしサヴェージが来る前に狩れたのは良かった」

サイラスがくすっと笑う。サヴェージもそろそろ来るらしいと知ってヴィクトリアは顔を顰めた。

「そんな表情かおをしては美人が台無しですよ。さて、皆で手分けして肉を捌いていきましょうか」

 ユリアは皆に指示を出す。とても『具合が悪いお祖母様』には見えない。



 翌日の朝食には昨日の端肉を叩いて細長いパテにし、小麦粉とそば粉でそれぞれ薄焼きの皮を作り野菜と共に巻いた物が出る。

「あら、嬉しい」

ヴィクトリアが喜ぶ。おつきのミリエルが領地に来る前に本屋併設のカフェでレシピを聞いてきたのだ。味はスパイシーにしてあるのはユリアの好みに合わせている。

「これはいいわね」

ユリアも嬉しそうに食べている。ユリアとヴィクトリアのクレープ巻きはサイラスとポールよりも数が少ない。サイラスとポールはよく食べるのでヴィクトリア達の倍の数が皿に乗っている。

「今日からトリアは淑女の時間ね」

「お父様と会話せずに済むようにお願いします、お祖母様」

「では貴女のお嫁入の為のレースを編みましょう。『だめよ、今はレースを編んでますからね。邪魔したら目を間違えるわ』って言ってあげる」

ユリアはいたずらっぽく笑う。

「私は『弱ったお祖母様』をやります。ほんと、干し肉の指示も昨日で終わって良かったわ」


 食事が終わりユリアは部屋で緩やかなホームウェアに着替える。そしてシェーズ・ロングに緩やかに横たわる。

「病人らしく見える?」

ユリアはお茶目な顔をしている。

「今はお祖母様、お可愛らしいですわ」

「あらトリアに可愛いなんて言われては祖母としての威厳が」

と言いながら笑っている。トリアが集中し始めた頃にサヴェージが部屋に先ぶれもなく入って来た。

「サヴェージ、ノック位しなさい」

「……トリアが逃げるかと思って」

「そんなことをするからトリアが嫌がってるんです。貴方、横暴すぎますよ。皆でお茶の時間をとりますからその時までお待ちなさい」

ユリアはヴィクトリアに向かって言う。

「嫌な事は済ませてしまいましょう。こちらにいる時間が無駄ですからね。サヴェージもさっさと出て行って下さる?療養中の母親を慮れない子供なんていらないし、私」

そう言って犬でも追いやるかのようにしっしっと手を振る。

「私は手順も守れない男を紳士とは認めません」

ユリアはサヴェージに対しツンとした顔で手のひらを上にして扉を示した。
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