公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】

あくの

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サヴェージが思っている事

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 「……ヴィクトリア、すまなかった」

「何の話ですか?」

「そのサラの……」

ヴィクトリアはお茶の席で冷たい顔になっている。ポールもサイラスもユリアも呆れている。サヴェージが余りに直截的だからだ。

「私は謝罪は受け入れますが、それだけです。……バイユ公爵はスポンサーなのでそれだけです。もちろん、私を追い出すなら御随意に。なんなら今すぐ出て行きますが」

「……貴族の暮らししか知らん15の小娘が何を」

サヴェージは最後まで言葉を発せなかった。隣にいたユリアがいい顔でサヴェージの開いた口に一口サイズのサンドイッチをほりこんだ。それを吐き出そうとするのでユリアは叱る。

「食べ物を無駄にしないで」

サヴェージは憮然と口の中のサンドイッチを食べると会話を続けようとする。

「お茶の熱さはどう?」

ユリアがにっこりと笑う。

「頭を冷やさないなら冷たいお茶をお飲みになる?」

ユリアは氷魔術の使いてであった。普段から物を凍らせたり冷やしたりに魔術を使う。貴族の間ではそういう生活に即した使い方は下の下であると下に見られているがユリアは平気で便利に使っている。ユリアの世代の貴族女性は特にその傾向が顕著だ。

「それとも直截頭を冷やしましょうか、サヴェージ」

それはサヴェージ達が子供の頃のお仕置きだった。頭の周りを本当に氷で冷やすのだ。サヴェージは兄達よりもこのお仕置きを良くされていた。悪いことをしても謝れないので都度都度ユリアにお仕置きをされてやっと家族や周りに謝る、そんな子供だったのだ。
 サヴェージは今でも謝るのは苦手であった。正直やりすぎた、と思ってもそこで謝ってリカバーが出来ない。それは仕事でもそうなので長期に同じ人間とは仕事が出来ない。王都の屋敷の使用人の顔ぶれが落ち着いたのはエリスが家内を取り仕切るようになってからであった。

「サヴェージ。お茶の後はちょっと私の所に来るんだ」

サイラスは有無を言わせなかった。



 サヴェージは一つ溜息を着いて父の執務室を開けた。

「ノック」

父親のジロリとサヴェージを見る。サヴェージの口が『あ』の形を取る。礼をしてから一度扉の外に出てやり直す。サヴェージが扉をノックすると、扉の前に構えていたメイドが扉を開けてくれた。

「おはいり」

サイラスの声にサヴェージは渋々したかった。

「まず、これはサヴェージが『養い子サラ』の不始末に対して支払うトリアへの慰謝料だ」

その書類には3年間の学費の保証、卒業後の進路に対する口出し無用、相応の1.5倍くらいの金額が書かれていた。一点を除いてサヴェージは同意する。

「卒業後の進路は家長が決めるものでしょう?」

「私が家長だった時になにか強制したか?この家を継ぐことも義姉と結婚する事も私は口出ししなかった」

サヴェージはムカッとして言い返す。

「でも親戚から護ってもくれませんでしたよね」

「儂はあやつらと親戚づきあいなぞしとらんぞ。……家に泊めた事もなかった。冒険者時代にあやつらと近づいたのはお前だろう」

サヴェージは思った。婚約者の家の手を借りただけだ、と。
 当時の婚約者は学生時代の交流会でしりあった女性だった。遠い遠い親戚だとその時に知った。子爵令嬢の彼女は親が王宮勤めの文官だった。冒険者登録をしてある程度落ち着いた時に彼女は父の部下の文官と出来上がっていた。

「家も継げない三男よりも彼の方が安定してる」

と婚約者には別れを告げられた。そして冒険者生活が安定しスティーヴンと妻のエリスとも仲良くなり充実した日々だった。王都で質の悪い流行病が蔓延してるとは聞いていた、そしてその病での兄二人の死亡だった。父親は衝撃で使い物にならず色々助けてくれてかつ『継ぐのは貴方しかいない』と背を押しまくったのは元の婚約者親子だった。
 元婚約者は出戻っていた。

『貴男が公爵になったらよりを戻してあげる』

サヴェージはそれを戯言だと思っていた。
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