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第二章

解呪 1

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 「よし、左終わり」

聖水を飲んだ前神官長は先ほどより元気そうに最期の彫りこまれた陣を描き写す。

「良い資料が出来た」

「また禁書、増やすおつもりですね」

「資料じゃよ、資料」

エリクと前神官長は分けのわからないやり取りをしている。前神官長がうねる紙束を持って部屋を出た。

「ジェラール君も聖水を飲んで」

ジェラールは恐る恐るアイスペールから聖水を飲んだ。

「俺が聖水を飲むタイミングでジェラールも飲んで」

エリクに言われ、ジェラールは頷くしかなかった。ジェラールが恐る恐る口にした聖水はまさに無味無臭でジェラールには不思議であった。

 エリクが力を使うたび、金の光が前公爵の周りにまとわりつき消える。

「魔草の影響が酷いな」

エリクは溜息をひとつつき聖水を飲む。あわててジェラールも飲む。

「なぁ、この聖水飲む理由は」

ジェラールがエリクに訊ねる。

「ああ、いわゆるところの呪い除け。解呪で外に出てくる呪に影響されない為だな」

エリクはジェラールの方に視線をずらさずに答える。

「健康ならほぼ影響ないけど、万が一、自覚もなく体が壊れてたらそこから蝕まれる可能性はゼロとは言い難いからね」



 夜半までかかったが前公爵の体の修復は終わった。

「心はまだわからん。魔草の影響を抜くのが先だ。ゆっくり口から物を食べられるようになってもらうのが先決だな」

エリクは持ってこられた夜食を元気よく平らげている。時折、厨房で作らせたポタージュを前公爵の唇に塗っている。唇に塗っているスープを舐める様になるまではかなり時間がかかった。長い間食べてない前公爵の体は食べる事を忘れている様にも見える。

「今日は俺は伯父上の横で寝るよ。……あっちはこれからが本番だな」

「あっち?」

ジェラールの問いにエリクは答える。

「伯父上の愛人の死体がおいてある家」



 昼間は人気がなかった家にぽぅと青白い光がともる。グランサニュー公爵、ドニ前神官長、ルカ、ウージェーヌは騎士団が隠密行動をするときに使う姿隠しのケープを身に着けている。と言っても現代で言うところの森で使う迷彩の生地のフード付きマントであった。騎士団が用意してkれていたようだった。

「これ、魔獣退治の時に使ったら間違って事故増えそうだな」

ウージェーヌがぞっとした、という顔になる。

「事故で死なれると賠償がなー」

ウージェーヌはあくまで現実的な事に恐怖している。

「ウジェらしい」

ルカが少しだけ呆れ気味で笑う。ここにいる騎士団は神殿付きでこういう案件に慣れているというものの薄気味悪さは感じているようだが、ウージェーヌはそういうことは感じないようだった。

「ウジェは怖くないのか?」

グランサニュー公爵に訊ねられてウージェーヌは頷いた、

「こういうのは怖くないな」

「何なら怖い?」

前神官長が部屋の中の青い灯りを見つめたままウージェーヌに訊ねる。

「そうだな、……人の執着心、かな」

ウージェーヌは少しぼかしたが前神官長にもグランサニュー公爵にもなんの事を言っている
のは理解できた。

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