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第三章

父と子の再会

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 陛下は何も言わずアルを抱きしめた。

「とりあえず、樹の所にいるぞ。気が済んだら出てこい』

グランサニュー公爵がそう言ってフロランと外に出た。

「うちや側妃宮の樹よりはかわいらしいな」

銀の葉の樹を公爵は撫でる。

「マダムエマの魔法には驚きました。気が付くと樹が大きくなってるって感じで」

「魔石やダイヤモンドの原石の利用もするのだよ。一般の農家や植物に関する魔法を使う人間はそこまで出来ないというのもあるな」

「魔法も色々あるんですね。俺ら、魔法と相性わるいから」

フロランは銀の葉の元に設えられた椅子とテーブルに公爵を案内した。

「閣下はおひとりで?」

「ああ、打合せもあるしな。ほっといてもらえるとありがたい」

フロランはアルの時と同じように少し離れた位置に立つ。公爵家の騎士が鳴れた手つきでお茶をいれ、テーブルに小菓子をセッティングする。ふわふわと小さな守護者が出てきてテーブルの小菓子をつついている。

 フロランは遠くからそれを見て薄っすらと笑っている。小さな守護者を見ていると小妖精を連想するのだ。そこに陛下とアルマンが複数人の騎士を連れて歩いてきた。アルは多少憮然としているようだった。フロランに妖精が伝えてくるには父親、陛下に子供扱いされて機嫌が悪いだけだと。3人が着席すると騎士に紛れていたメイドがあれこれと用意している。

「……茶は入れなおせ。薬がしこまれている。そこのメイドをひったててな」

陛下が物騒な事をいいだしたがその場にいた陛下たちとフロランには理由が伝わっていた。今お茶を入れた陛下が連れて来たメイドがアルマンが陛下を狙って媚薬を茶に仕込んだらしい。グランジエ家には預かり知らぬ話であり内々で処理すると守護者が言っている。

 陛下がお茶の入ったポットに手を当てて暫くすると掌に青い結晶が握られていた。

「ふむ、ちゃんと出来たかは魔法師団長の分析次第だな」

陛下は呟く。魔法師団長に習ったところの魔法で色々な薬物を対象から抽出する魔法であった。陛下自身はわかっていないが陛下の魔法センスは高く、魔法陣を脳内に正確に描きだせるのでいちいち羊皮紙に描きださなくても魔法が使えるのだ。
 多分移動魔法も使えあるのだがそれだけはつかわないで欲しいと子供の時に守護者との誓約であった。『万が一に間違えて手と足と頭がばらばらに違うところに飛んでいったらいくら我でも治せぬからな』とさらっと言われて子供の陛下は恐怖した。

『グランジエ家の陞爵は難しいぞ』

守護者がいると陛下、公爵、アルの間でも思念で会話が交わせる。これも王太子の条件、王位を継げる証であるがこれは守護者だけが知っていることだった。そう考えると公爵にはまだ『王位』になにかあった時の備えのが残っているという事であった。 

 『少し前に爵位をあげた所だからな。マドレーヌ嬢に直接爵位をと提案したら断られたな。どうもあの娘はどう扱っていいか……』

陛下が遠い目になる。美しい女性に対する対応をとってもなんというか暖簾に腕押しなのだ。

『無理ですよ。それこそ5才の時のレアよりもそう言う面では幼いです』

『……人の事いえんだろう、アルは』

アルの思念に公爵が突っ込む。

『女性に対する手ほどきはした方がよさそうだな。……閨だけではなく、対女性の扱いも含めてな』

陛下がきっぱりと申し渡す。



 守護者の枝を一枝持って屋敷に戻る。その枝があるなら枝のある部屋の中の話はちゃんと聞き取れるので、と守護者が言ったのだ。陛下の胸に銀の葉が揺れている。
 媚薬を盛ったメイドは陛下かアルの閨に忍び込みたかったと言う。王族の子供を身ごもれば一生安泰だから、と。下級貴族の娘でもあるメイドの狙いはアルであろうと尋問した騎士は言った。

「殿下は婚約者もおられないのであわよくば、と考えたらしいです」

陛下は暫く考えていた。ウージェーヌがさらっと言い切る。

「ま、暫くは我が家で拘束ですかね」

「いや。拘束するならベルティエの家だな。あそこは色々堅牢な上に……罠も張り巡らせているから」

グランサニュー公爵が口を挟む。

「ああ、ネイサン王子が餌ですか」

「そういうこと。アルノー伯爵本人がアランの謝罪にベルティエ公爵家に日参してる。その上でバスチエの小娘をロクサーヌ嬢のメイド見習いで雇ってるよ」

ウージェーヌが王都から離れている間の出来事を公爵が伝えた。
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