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7. お茶会目前

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 「まず、いらっしゃる方々ですが。メイソン侯爵夫人、ノアイユ侯爵夫人、ユージェニー第2側妃様、ラブノー侯爵夫人、ララベル公爵令嬢、それに僕の姉、アリスが来ます」

ディオンはアリスの名を聞いて嫌な顔になった。

「この方々とお茶会をしていただきます。元とはいえ婚約者の身内の方もいらっしゃいますが……失礼のないように。我々が最高のであり、マナーもちゃんとしているところを見せつけましょう。もちろん僕もメンバーとして、監督として参加します。お茶やお菓子の選定は任せてください」

ステファニーはなにか板に紙を挟んだものを持ってレイの後ろに立っている。相変わらず無表情だ。白いピンタックの入ったブラウスに濃紺のハイウエストのスカート、スカート丈はくるぶしより少しだけ上であった。緩やかなカーブを描く長い鳶色の髪は首筋当たりで一つにまとめられている。まとめているヘアアクセサリは琥珀であった。アンドレの中で琥珀がなにかを刺激している。
 ノエルは

「げぇ、姉様が来るのか」

と呟いている。ディオンも鬼より恐れる母親が来る上、不義理を働いたミレイの母親や殴りつけられたアリスが来るので眉間に皺をよせ片頬をひくつかせている。ユーリにしてもララベル公爵家、ノエルの従妹で養い子であるミシェルとの婚約が整っていた。ミシェルはアベイユ侯爵家の一人娘で成人後、アベイユ侯爵家を継ぐ予定であった。今現在アベイユ侯爵家は家令を中心に領地経営をしているが侯爵位は王家預かりとなっている。

 レイがお茶会について注意をしようとするとステファニーが小さな紙切れを渡す。レイはそれに目を通すとしゃきっと背中を伸ばす。すぅと深呼吸するとはっきりとした発音で皆に伝える。

「まず、今現在の貴方達のマナーを見たいのでお迎えするお客様を身内、と思わない。手を抜かないでください」

レイが貰ったメモはジョフロアからで『とりあえず今日はペナルティなどは無いので彼奴等の素のマナーを見たい。どのレベルまで鍛える必要があるかを見る為に』と書いてあった。


 集会が終わり、皆が部屋に戻る途中、アンドレはステファニーの腕をつかんだ。

「むやみと女性に触るものではないですわ」

冷静にステファニーは言う。

「あ、失礼:

アンドレは慌てて手を離した。

「あの、……その髪飾り」

ステファニーは表情を変えずじっとアンドレを見る。

「髪飾りがどうかしまして」

アンドレは口ごもる。何を言えばよいのか分からなかった。

「急いで支度した方がよろしくてよ?お手伝いの侍従はいないのだから」

くるりとステファニーは踵を返した。アンドレには聞こえなかった。

「やはり覚えておられなかった。もう、いいわ……、全部お返ししましょう」

ステファニーはそうつぶやいた。



 「なぁ、茶は俺達がいれるのか」
 
ノエルは着替えを終えてレイの所に来る。

「そう」

この質問に来たのはノエルだけであった。

「どうしたら……」

レイは坊ちゃんたちに呆れながらも自ら気が付いて聞きに来た事に免じて教える。

「メイドがティーポットを配ってくれるから一緒に来る砂時計をひっくりかえして、砂が全部落ちたら茶が飲み頃になる。で茶こし使って、各カップが均等の濃さになるように注ぐ、と。僕も詳しいわけではないから、100%とは言えないけど」

「知らないよりはましだと思う。茶は旨いほうが菓子がうまいからな」

ノエルはにかっと笑う。たくましい体つきとやや厳つい顔立ちだがこの男甘いものが好きなのだ。スィーツ好き男子として学園の女子とは基本誰とでも仲がよかった。

「君がアリシアとそういう仲だったのは意外だな」

「そうか?」

副会長ダヴー伯爵令嬢と仲良かったから婚約するかと思ってた」

ノエルはばつが悪そうに鼻の頭を掻いた。

「んー、卒業後そんな話は出たんだけど、マリエに『私、男女の事には基本的には寛容ですけど結婚以前から愛人がいる人とはちょっと』って見合いの席で言われてな。そっから芋づる式にちょっと家の金使い込んでたのがバレた」
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