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19. 裏の人達

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 「今日は襲撃なしかな」

オディロンがのんびり言う。

「あれだけ煽っといて、モンテロー夫人が我慢できるわけないでしょう」

ジョフロアが呆れたように言う。
 最高級の肉厚のシルクのシャツに目の色と合わせた裏地の黒いベスト。細身の体のボディラインがわかる下半身にピッタリしたものをはく。お茶の香りを邪魔しない程度のほのかな柑橘系ベースの香り。年を重ねても損なわれていない美貌を撫でつけた前髪が引き立てる。男ですら一瞬ぼーっとなる程度には色気が溢れていた。オディロンはモンテロー夫人の隣に位置しユーリと共にご婦人方をもてなしていた。
 王妃様は熱心にユーリを揶揄っていた。他の夫人も毛並みが良くマナーも丁寧なユーリは気に入られたようだった。二人程の夫人にこの店を辞めたら連絡をくれたら悪い様にはしないと言われていた。

「師匠、女性って……」

「ま、そう言うところも含めて女性ですよ。貴女が入れ挙げた女性はもっと怖いでしょ
う?」

オディロンの言葉にユーリはしゅん、となった。ユーリはアリシアには何度も『お父さんに紹介してよ』と言われていたが宰相のスケジュールが忙しすぎて実現できていなかった。
 ジョフロアとオディロンはその危機一髪の状況に顔を見合わせた。ユーリは自覚がないのか自分が踏み台にされかけていた事に気が付いていなかった。
 その情報と共に、とある高位貴族男性が新しく娼館から年若い少女を手に入れて郊外に囲っていると噂が立った。その後、ノアイユの下働きの少女が辞めたとノアイユ侯爵夫人から連絡があった。既に少女はレイの家の暗部からチェックされ、どの屋敷に雇われたかもわかっている。少女は囲われた少女、アリシアの家に入っていったがどこかを通して雇われているという情報は無かった。
 そろそろ仕掛けるか、となった時に少年達はアリシアに魅了の魔法をかけられているのでこれ以上アリシアの案件に晒したくないという事でジョフロアの妻、リリーを引っ張り出したのであった。

 「私の出番はありそうかしら」

ユージェニー側妃、ディオンの母親であった。王家の暗部、「影」の女性部統括で魔草のルートを追う闇の魔法を使う魔術師の一人でもあった。

「直接はないかな。あの青い石から成分抽出で魅了薬を作ってくれただけでも大大大大活躍なのに」

「んふふ、うちのバカ息子の後始末よ。魔草の出先も隣国だったし、オディロン様の時の子も隣国繋がりだったし」

いつもなら嫋やかなユージェニー側妃は今は長い髪は一つに編んで頭に巻き付けている。

「貴女が最初のお茶会の後から動いてるからなにかあったとは思ったけど」

オディロンの言葉にユージェニーは笑う。

「あら、側妃のわがまま旅行よ?」

「表向きはね」

ジョフロアもにやり、としている。ディオンはまだ知らないが王家の影の統括はオディロンでジョフロアはそのサポートである。順当にいけばディオンが次代の影の統括であったが今回の事とそれ以前のマナーが身についていない、王子教育の行き届いてなさで影は任せられないと判断されている、王太子は王妃が外国の姫であることもあって現国王の母、前の王妃も自重したのだが3人いる側妃の最初の男児は全員前王妃の宮で育てられている。その中でも特に甘やかされたのが容姿の良かったディオンであった。また、ユーリもアンドレも「祖母」にどろどろに甘やかされているのでその世代も調査中である。

 外ではがたがたと音がしてる。

「捕り物は二組ってところだな」

ジョフロアが言い、オディロンはふふんと笑う。

「モンテロー夫婦が別々に動いたか」

ユージェニーが唇に指を当てて考える。青い石のありかを流したのはレイの付き人、オリバーであった。うまく、お茶会を開くタイミングを計ったのもこの男であった。

うちで雇いたいくらいだわ。あのオリバーって子」

「というかレイの所の暗部が良く訓練されてる。暗部ごと全部欲しいくらいだ」

ユージェニーの言葉にオディロンも完全に同意した。

「ま、幹部が魅了にかかった事が大きなマイナスだけどね」

ジョフロアは溜息をついた。

「まずは一組捕まったかな」

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