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28. リンゴのお菓子

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 「そうだ、もう少し火を弱めて。全力の強火でやらなくてもちゃんとキャラメリゼするから」

ノエルの言う通りにやると、今までの苦み走った香りではなく暖かいリンゴの芳香が辺りに漂い始めた。

「ステファニー嬢はお菓子は」

「作るのは得意じゃないです。食べる方が」

ステファニーは笑いながら言った。

「得意なのは野営をしながらダッチオーブンで獣肉を煮たりですね。小型のボアくらいまでなら捌けるんすよ。……母には嘆かわしいと泣かれますが」

「お菓子は分量と手順をきっちり守れば形になるからな」

ノエルはふと思いついたらしい。

「まだ材料とか残ってる?」

「わりと沢山」

ステファニーがリンゴや小麦粉バターなど沢山出してきた。

「ステファニー嬢はこっちの方が向くかもしれない」

とリンゴをステファニーに剥かせる。

「で、いちょう切りにして。砂糖を入れて混ぜて少しおく、と」

「何ができるんですか?」

ステファニーは鍋を覗き込む。

「あー、汁が浮いてきたら混ぜて、鍋を火にかけるとジャムになる。強火はダメだよ。ジャムなら病人でも口にしやすいだろ?」

ステファニーは目を輝かせた。

「ジャムは偶に作ります。領地の野生のベリーとか、はちみつと煮たりして」

「ここの庭にも黒スグリとかあったし、楽しめるんじゃない?春はストロベリーが市に沢山出るしな。この近郊の名産なんだよ、苺」

「ええ、昔お友達と屋台で飴がけした苺を食べたことありますわ」

「今の時期はリンゴ飴でてるよ。食べやすいように一口大に切って飴がけしてるのもあるしリンゴ丸ごとのやつもある。明後日の休養日、見に行かないか?」

「……ジョフロア伯父様の許可が取れたら行きたいです」

そんな話をしている間ノエルはザクザクと薄切りにしたリンゴにキャラメリゼした砂糖を絡ませる。

「それは?」

「こうするのさ」

ざっくり切ったパンの上に暖かいリンゴを乗せる。

「さ、ユーリレベルの茶は無理だけど普段飲みならいけるだろう」

ノエルはステファニーの前にお茶とリンゴのタルティーヌを置いた。

「そろそろ、リンゴの匂いをたっぷり嗅いだ欠食児童が釣れる」

そう言いながらノエルは人数分のお茶とタルティーヌを用意する。もちろんジョフロアと執事や下働きの下男下女、そのほかスタッフの分まで用意出来ていた。

「ステファニー嬢は食べたらそろそろ帰った方がいい。暗くなるからね」

「今日は伯父様と一緒なので」

ステファニーはそれもあってここの厨房を借りて明日のお見舞いの用意をしていたのだった。

「お母様とラブノー夫人とリリー様が今日は一緒に遊んでまして。其方に合流です」

「なら多少遅くてもあんしんだな」

ノエルがホッとした顔をした時にレイがオリバーと共に顔を出した。

「いい匂いですね」

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後2話で畳みたい所存
畳めるかなぁ?
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