オジサマ王子と初々しく

ともとし

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第七話

まだまだ青い

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 悪い言い方をすれば「ボロクソ」、可愛い言い方をするとなると「ケチョンケチョン」に言われたヘルメスの心はぼろぼろだ。別に貶されているわけではないのに、ボロボロなのである。
 容姿に関しては他の令嬢に比べて大分劣っている(と自身が思い込んでいる)彼女は、城下町にいる人々がマリセウスの妻となる人物像があまりにも完璧な存在かつ実物とかけ離れてしまっていることに対して申し訳なさを感じ、当日自分を見たらガッカリされるという未来が鮮明に見えてしまった。もう泣きたい、マラソン競争で負けた時ぐらいに泣きたい。そのげんなり具合はキリコのみならずシグルドも酷く心配するほどである。

 「い、いやいや!城下町の人らってのはああいう感じでさ!無駄に想像を盛りぎみなんだよ!?ちょっと浮かれているせいだからさ、ね?ヘルメスちゃん!」
 「そうですよ!私なんてシグルド様はどんな美丈夫かめちゃくちゃ想像していましたよ?実際はイメージとかけ離れてまくって『まぁこんなもんか』となりましたし!」
 「俺そんなにガッカリされてたの!?」
 「やっぱりガッカリされるじゃない……。」

 下手に慰めてしまって余計に傷つくヘルメスは、母親の手に引かれる小さな女の子が「もうすぐおひめさまにあえるー!」とニコニコしているのを見て、ああ子供の夢までぶち壊すのかとさらに追い討ちをかけられてしまった。

 「で、でもさヘルメスちゃん?マリセウスはめちゃくちゃヘルメスちゃん大好き野郎だぞ?俺、あいつに呼ばれて今回の件を聞いたとき凄かったしよ!」
 「凄かったとは?」
 「要件が1に対して惚気が9の値で一時間も拘束されて話を聞かされた。」
 「え、怖いですね。」

 思わず引くキリコ。だがなんとなくその想いはわからなくもない。手を握っただけでも茹で上がったエビのように真っ赤になる上、ドレスに着替えたヘルメスを見て美しさと愛らしさのあまりに卒倒するほどに入れ込んでいるのだ。
 それだけではなく、マリセウスはちゃんと長所と短所を見つけており、それらを含めて「ヘルメス」という人物を愛してくれる寛大な心を持っている。そんな彼と恋に落ちたのだから、本当に運命の何かなのだろうとキリコは信じた。
 しかし、キリコの主はご覧の有り様だ。マリセウスは素敵な殿方なのもわかる、物腰柔らかい紳士で学生時代は異性に対して良い印象がなかったヘルメスにとって、その狭い視野を一気に広げてくれた恩人でもある。その紳士と同じく純情、それに加えて素直すぎて、裏表のない少女だ。ただ謙虚……というよりかは過小評価が酷すぎる。以前よりかはマシにはなってきたが、やはりコンプレックスというのは簡単には乗り越えられないものだ。
 キリコはどうか、そんな後ろ向きなまま結婚して欲しくはない。だから少し、厳しいことを申し上げねばなるまいと。

 「……お嬢様。確かにお嬢様は集中力もないせいで座学は残念なところもありますし、容姿も特別美しいとか愛らしいとかはありません。」
 「ぐへっ!!」

 ……容姿に関しては男女問わず、このようにストレートに言うのはやはり気が引ける。言われた方にもダメージが入るから。

 「ですが、お嬢様がどんなに自分を卑下しようとも、良いところも悪いところも、マリセウス殿下はお嬢様を愛しておられるのですよ?」
 「ぅ……そ、それはそうだけど……。」
 「それとも、殿下を信用出来ないのですか?」
 「そんなわけないじゃない。ただ……みんなが私の容姿に期待をしているから、応えられないと思うと。」
 「期待、というよりかは道ゆく人々は飽くまで『イメージ』しているだけですよ。今大切なのは、今されている噂に応えるべきではありません。胸を張って自分は自分!それから王太子妃としての務めを果たすための努力が大切なのです。」

 キリコはドヤァと言わんばかりに力説をすると、「すごいドヤ顔……」と言いたげな気持ちもあったがヘルメスは自分が流されてしまっていた事に気がついた。
 改めて外の声を聞くと、
 「殿下夫妻がどのような政をしてくれるかな」
 「明日の生活が良くなるといいね」など。
 王太子妃となる令嬢の話も多少なりあったが、今後の国の行先も気掛かりになる声も出ていた。
 ああそうだ、今は自分のコンプレックスなんかよりも国民が安心して暮らせるように努力するべきなんだ。これからの生涯はこの国を支えて生きていかなきゃいけないのに、それ以上のプレッシャーなんてあるわけがない。
 それに、今の自分の目標は夫となる彼を支えていく事。ゆくゆくは国政を担えるような強い人間にならねばだ。

 「……ありがとうキリコ。私、ちょっと流されていたみたい。」
 「ちょっと所ではありませんでしたよ。お元気になられて私も嬉しいです。」
 「ふふっ、本当に調子がいいんだから。」

 自分の出番がなかったシグルドは、立ち直れたヘルメスを見て安心した。
 マリセウスの周囲は本人を中心にしてかなり忙しい。もはや国王陛下と並ぶほどの仕事量を常にこなしている。近々外交関連の執務も始めるかもしれない、今以上に忙しくなる。
 それを支えてくれる妃も彼同様のスペックを求められてしまうだろうが、教育が行き届いてない状態で戦場の如き目まぐるしいそこに放り出すわけにはいかない。その基礎を作るメンタルが最も大事なのだ。
 自分の容姿にあれこれ噂が立ってへこんでしまっても、無事に立ち直れる心。気心知れる相手に激励を受けたが、己ひとりでも立ち直らねばいけない時も来るだろう。シグルドは口にはせず、「頑張れ」と小さく応援した。

 がたんっ。馬車が少し大きく揺れると、宮殿へ向かう緩やかながら長い坂道を登っていく。

 「へ?水流式の昇降運河に乗るんじゃないの?」
 「あー……すまねぇ、あれは馬車ごと乗せられないし見学客用だから。」
 「えーーーっ!!!!」

 ……ショックの大声と共に激しく落胆したヘルメス。
 まずはこの自分の欲と感情に正直な部分を抑える教育が先だろうなと、シグルドはそう思った。
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