オジサマ王子と初々しく

ともとし

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第七話

不器用たちの再会

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 その声を聞いた、玉座に座るデュランは「通しなさい」と澄み切った声を通す。近衛兵ふたりが両扉を同時に開くと、頭を下げている婚約者の姿が目に入る。

 (ヘルメス……。)

 扉が完全に開かれると、頭を上げて真っ直ぐにこちらへと歩いてくる。
 この謁見の間の大理石や柱には大小様々な魔法石片が散りばめられていて、僅かな光も反射して煌めいて見える仕様となっている。これを知ったらきっと彼女はそれらに釘付けになるだろう。早く教えてあげたいが、今はそれどころではない。
 デュランの右隣には王妃であるテレサが座り、反対側で階段一段下にはマリセウスが後ろで腕を組んで背筋を伸ばして立っている。今歩いて来ている彼女は真っ直ぐに両親を見据えている。まるでこちらに何もいないように、本当に真っ直ぐな視線で。
 表情は緊張を帯びているかと思っていたが、凛然としている。いつもの自由で愛らしい顔つきとは違って、程よい緊張感も少なからずあるだろうが、それでもその姿は美しく……『姫君』の名を表しているかの如く、己の立場を理解してはいるが、敢えてこう例えよう。『まるで自分よりも尊い身分の女性がやってきた』かのような錯覚すら起こした。マリセウスがまたヘルメスに魅入られた瞬間だった。
 そんな心は今は封じないといけない、なんせ今は『執務』の最中だ。ヘルメスに恋焦がれるマリセウスは、どんな彼女を見ても顔にすぐに出てしまう。仕事人間として切り替えて……いや、維持しないといけない。そうこう脳内で私情を表に出さないように理性で取り押さえている間に、ヘルメスは玉座の前にまでやって来て王族に対してとてもベストな距離感を保った状態で歩みを止めてスカートの裾を摘み、片膝を曲げて。

 「お初目にかかります、スミス国王陛下・スミス王妃殿下。サンラン国より王命をお受けし参上しました、カートン伯爵の長女のヘルメス・カートンを申し上げます。」

 「ああ、よく来てくれたヘルメス・カートン嬢。どうか面を上げて楽にしてくれ。」
 「遠路はるばる、見知らぬ土地であるにも関わらずようこそいらっしゃいました。」

 父に次いで母もそう労う。マリセウスも何か声をかけてあげたいが、謁見や公式の場では王の許可なく発する事はできない。
 デュランはそこまで硬くは考えてはいないが、しきたりや礼儀を重んじる息子の頑固さをよく知っているから何も声をかけないのだろうと横目で彼を見ると、表情こそは見れないが安堵の息を小さく吐いているのを察した。僅かながらの感情も表に出さない人間ではあったが、「相当入れ込んでいる」と親ながらわかった。この場にいる近衛兵達はさすがに些細なその動作には気がつかないだろう。
 テレサは面を上げたヘルメスをまじまじと見つめつつ、優しく声をかけた。

 「王太子殿下から貴女のお話は聞いております。なんでも魔法石に詳しくて快活な女性だそうですね。」

 「はい。詳しいと申しても、論文に目を通して自ら魔法石を手に取って見つめている程度ではございますが、とても好きです。」

 「まぁまぁ。それはとても素晴らしいことよ。」
 「そうだとも。我が国では魔法石を採掘して、その力で国を豊かにしている公共事業が数多くてな。そなたの情熱を是非生かしてほしいと思っている。そうだろう、マリセウス?」

 デュランは妻のナイスなアシストによって、上手くマリセウスに発言の許可をこれでもかというほど自然に振れた。
 いつもは堅苦しい仕事バカの息子がどんな気の利いた事が言えるのかも気になる。さてさて、どんな甘いことを言うのだろうか。

 「ええ。これ以上にない頼もしい有識者です。」

 …………。

 「いやお前、そこはもっとなんか気の利いた事を言えないか?」
 「?いえ、事実です。少なくともカートン嬢は我々のどの身近な人間よりも魔法石の知識は豊富ですし。」

 違うよ仕事バカ。とデュランは少し呆れてしまい、さらにテレサは頭を抱えて深いため息を吐く始末。しかし公共事業やら何やらと話題を振ってしまったから……まぁ、「仕事」というカテゴリーの発言としては百点満点な回答だろう。
 こんな息子で申し訳なく思ったデュランは視線をヘルメスに戻して「すまない、執務ばかりしている男で気の利いた事も言えずに」と一言入れようとしたが、マリセウスを見て驚きを隠せない表情をしている。……そうだろうな、甘い言葉ひとつも吐けないから驚くよなとデュランは思っていた。が、

 「ま……マリス様!?いらしたのですか!!」

 「ふぁっ!!?」
 「そっち!?」

 ヘルメスはあまりにも不敬な発言をしてしまった事により、通路脇に控えている近衛兵があまりの事に身構えた。
 その動きを確認したマリセウスは(変な声を出してしまったから咳払いをしつつ)それらを制して、

 「いや、私最初からいたよ?背景と同化してた!?」

 「す、すみません!決して悪気がなかったのですが思わず……。」

 「え?あのカートン嬢、さすがにこんな大きなおっさんいたら気がつくとお思うのですが、どうして気が付かなかったのでしょうか?」
 「大きなおっさんって私ですか王妃?」

 母からのちょっと悲しい言われように思わずつっこみを入れずにはいられなかった。
 しかしヘルメスの返答次第では不敬罪となり、捕縛されてしまう可能性はある。庇ってあげたいが、法を遵守しなければ臣下や国民に示しがつかない。
 その気配をヘルメスも感じて少し怯えているのか、顔を両手で覆って表情を隠している。しかし答えねばいけない状況、マリセウスは息を呑んでその理由を聞かなければいけない。

 「そ、その……。あまり緊張しないよう、真っ直ぐに歩こうと思って、玉座の後ろの壁を一点集中して見つめて歩いていたので……マリセウス王太子殿下に気がつかず。」

 「……壁、見てたの?」

 「はい。」

 ……近衛兵を含むその場にいた全員は思わず「子供かっ!」と発しそうになるも、さすがに本人なりに頑張ったのだろうと察したのでそれは封じることにした。確かに立ち位置からして見れば、辛うじて見えるか見えないかの位置ではある。
 よく見れば怯えているというより、恥ずかしさのあまりに震えている様子だともわかる。そうだな、恥ずかしいよな、大声で婚約者がその場にいたのに気が付かなかったって言ってしまったものな。近衛兵数人も、わからんでもないと小さく頷き同情した。
 なんだか大物がうちに来たなとテレサと顔を見合わせるデュランであったが、「うっ!」と声が聞こえた。

 「殿下っ!?」

 デュランが一段下にいるマリセウスを見やると、膝をついて胸を押さえ込んでいる。もしかして、気がついてもらえなかったショックで胸を凄まじく痛めてしまったのであろうか、たまらず玉座から立ち上がり側に寄った。
 あまりの事態に近衛兵数人も寄り、その様子を伺う。
 苦しみながらポツポツと何か呟いている……容態が悪いのかなんと言っているかわからない。集中して耳を傾ける……。

 「ぅっ……うっ、恥ずかしそうに、顔を隠して……なにあれ可愛い……っ!緊張、しないように、壁しか見てなかったって……もっ、それ、罪……なんという、罪深い愛らしさ……!尊いっ!いっぱいすき……!!」

 ……なんか悶えてた。
 自分の息子なのにとてもキモかった。こんな事を言うような男だったかと同時に引いた。恋はここまで狂わせてしまうものだろうか?
 眉間に皺を寄せてそんな事を思っていたが、その狂わせている相手が困惑している。下手に王族に近寄ったり触れたり出来ない立場なので、心配しても直様寄り添えないのが歯痒いのもあって不安そうな表情をしている。
 さすがにここまで来ると可哀想になってきたので、悶えるマリセウスの背中を摩りながら、「ちょっと息子の様子を見てもらってもいい?」とデュランは声をかけた。

 「ま、マリス様!ごめんなさい、そんなに胸を痛めるほど傷つけてしまって……!」
 (胸を痛めているけれど、傷ついてはいないんだよなぁ……。)

 それにしても、好きな相手の可愛い一面を知っただけでこんなにも悶え苦しむものだろうか?さすがの異常な空気に周囲がざわつき始めた……鉄の男・マリセウスが胸キュンで悶えているのだ、ざわつくのは当然だろう。
 しかしその鉄の男も悶えすぎるあまり、変な汗も浮かび上がってきている。
 ヘルメスは本当に体調が優れてないと心配になり、ポケットからハンカチを取り出してマリセウスに差し出そうと思ったが、未だに苦しんでいるのを見かねて自らの手で額の汗を優しく拭った。

 「大丈夫ですか!?ご無理なさらず、安静になさったほうが、」
 「ぅ……。」

 ばっちり目が合った。
 自分を心配そうにしている不安そうな表情、揺れる空色の瞳、優しくて小さな手が顔に触れている。
 不謹慎ながらもマリセウスは思った。
 『めちゃくちゃ可愛い』と。

 改めて気がつかされて愛しさが爆発寸前と、そんな邪な気持ちを持ち合わせてしまった事の申し訳なさで、その姿勢そのままに勢いよくヘルメスに向かって土下座した。
 あまりの勢いで額を床にぶつけて鈍い音が大きかったのと、その突然のアクションでヘルメスは驚いてしまい、小さく悲鳴をあげてしまった。

 「ま、マリス様……!?」

 「…………、結婚!してくださいっ!!!」

 「結婚するから来たんですよ!?」

 色んな感情が混ざり合って、何故かまたプロポーズをしてしまったマリセウスであった。
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