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第十四話
そういう子でした
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ヘルメスとマリセウスがマクスエル邸を出て小一時間ほど。
魔法石と稀少鉱石……所謂『宝石』を加工して装飾品にする店舗は数あれど、神海王国ハンクスのマクスエル領にある老舗店舗『魔宝飾店グッデンバーグ』はその中でも群を抜く。
創業者ブレンダ・グッデンバーグは当時、数多いる魔法石の加工職人の一人に過ぎず、飽くまで魔法石を道具として使えるようにしてきただけの人間であったが、次第に使えなくなった魔法石を削り遊ぶようにしたのが始まり。
それまでありきたりの金・銀・銅は勿論、ガラスなどを使った装飾品に『削り遊んだ、使えなくなった魔法石で彩を加えた』ことにより、一気にその世界で有名な職人となったのだ。
となれば、やはり同業である魔法石の加工職人は面白くないと思い、彼を模倣する輩も勿論現れた。が、グッデンバーグには遠く及ばずにその道を頓挫した者が多い。
ペンダントのように美しく優しい丸みのある研磨の技術は一見すると簡単に見えるが、石の色に囚われずに温かみのある存在感を出していた。ただ単に研磨していれば必ず出るものではない。
反対にネックレスの石は、夜会などの僅かな明かりにも輝きを与えるようなカットの仕方をしている。希少鉱石のダイヤモンドと呼ばれるそれを、如何にして輝かせるかを用いているカッティングを応用したものかと思われるが、使えなくなった魔法石といえどもそこまでの輝きを生み出せない。しかし、グッデンバーグの遊び心によってそれは可能となる。残念な事に、この技法は門外不出の技術として他所ではあまり知れ渡っていないようだ。
ちなみにだが、彼の数いる弟子の一人が彼の工房から独立してサンラン国で店をやり、その彼も弟子を取り技術を継承させながら細々と店を営んでいるとか。
そして彼が『花の魔術師』の異名を持つ突出した業がある。 宝石、魔法石、硬度に関係なく薄く切る業だ。
花に通ずる者がそれを目にしたとき、『まるで蕾の状態から満開に花が咲き誇ったような美しさ』と評された。
その薄く切ったそれをガラス細工に添えれば、類を見ない美しさ、唯一無二の存在感を知らしめる。彼が亡くなってからもその価値は崩れることなく、それらの作品は美術館や博物館に展示されており、常に警備が厳重に施されている。
「そしてここ、魔宝飾店グッデンバーグに隣接している博物館でも彼の作品を見ることが出来ます。一番の目玉は、やはりグッデンバーグが初めて薄切りにしたものが添えられている宝飾ですね。」
「ええ、あの奥に展示されていたものね。とても素晴らしくて枯れない花を見ているような不思議な気持ちになれたわ。」
「しかし、使えなくなった魔法石と聞くと……失礼だが宝石に比べると価値があまり無いように見えてしまうのだが、どうしてこのような価値観になったのだ?」
「いい質問ですね~。それは今と比べて、転移石が普及されていない、本物の原石を使用していたからなのですよ。」
光石を始め、家庭や公共施設で利用されている魔法石のほとんどは人工魔法石・転移石が使われている。グッデンバーグが若かりし頃は魔法石の大元、大魔岩から切り出されてさらに加工を施してから家庭に配布・普及させていた。しかし資源には限りがある。人工魔法石は寿命が来ると、色が抜けてしまい使い物にはならない。だが再装填すれば繰り返し使用は可能となる。
このように資源を大切にし、何より再使用も出来る転移石が低価格帯で購入出来るので、今となっては大魔岩から採取された魔法石を使用するのは極めて珍しいのだ。
なら今の宝飾に添えられている魔法石はまだ使用出来る転移石なのでは?と、ここまでの説明なら疑問に思うだろう。間違いなく大魔岩から採取されたものだ。
「大魔岩から採取された魔法石……これを私達は『原岩』と呼んでおります。で、その原岩は転移石とは違い、寿命がとてつもなく長いのです。例えば生まれたばかりの子がいる頃にそれを購入して使用しつづけていても、その子に伴侶が出来、子供が生まれてその子が孫を産み、ひ孫が出来て先に墓に行っても……その原岩は使用出来るほどの長い寿命を誇っております。」
「ほぉ~。具体的には何年ほどかな?」
「最も使われている魔法石、光石を基準とすると三世紀ですね。」
「三世紀?つまり……三百年!?」
「はい。『岩を手にするのは一国一城の主のみ』と、魔法石に携わる職種の間ではそんな風に揶揄されております。この国、神海王国ハンクスの王族が暮らすオラヴィラ宮殿も勿論原岩を使用しております。次回の交換は恐らくは二十年後と予想されてまして、魔法石マニアならびにオタクがその日をとても待ち侘びている一大イベントでもあるのですよ。」
つまり、原岩は歴史的価値も含めるとかなり高価な石なのだ。グッデンバーグが若き頃の時代は具体的な寿命など調べる者こそ少なく、またその寿命の長さをあまり重要視されていなかったわけで、偶然にも『使えなくなって捨てられた石を弄っていたら高級品になった』のだ。
遊び心が幸運を引き寄せ、新たな文化が芽吹いた歴史的瞬間とも呼べるだろう。
役目を終えた原岩は定められた機関、もしくは鑑定所に届けると鑑定され買取をされる。買い取ったそれを今度は魔宝飾の職人達が品定めをして買い取る。もしくはオークション形式での売買が行われる。大きさも勿論、重要なのは保っている色素によって値段も異なるため、僅かな色抜けや濃ゆさを見分ける目利きの技術も必要となる。
そして手にした魔法石は宝飾品などに再利用されて、美しく第二の生涯を歩むのだ。その筋を準えて、人生のひとつの節目を付けた人に魔法石を使った装飾品を贈る、などの祝いにも向いている。
「ちなみにオラヴィラ宮殿の使用済み魔法石は、国王陛下のクラウンや杖の装飾・王妃殿下のティアラにも使われていたり、王族の婚約者に贈る婚約指輪にも使われたりしてます。ですがなんせ使用していた数が多いこと。当然余るわけですので、一年に数回はチャリティーオークションにかけられております。」
「はぁー……。だから美しさ以外にもお値段が張る理由があるのですね。納得しましたわ。」
「はい、ご清聴ありがとうございます。」
「なるほど、だから祝い事に魔法石の装飾品を贈るのは縁起がいいのか。それなら、娘も喜ぶだろう。」
「娘さんに贈り物をするのですか?」
「そうなの!私達の娘、来月に結婚するのよ。だから何か贈りたくて。」
「まぁ……!それはおめでとうございます!」
「うむうむ。それで折角だから、見繕ってもらおうかと。」
「なるほど~。それじゃあ店員さんをお呼びしてきますね!お待ちください。」
「え?」
「え?」
「……え?」
魔宝飾店グッデンバーグに隣接している博物館の係員は実は店舗店員も兼ねている。そのため、展示品に感銘を受けてそのまま見繕ってもらい購入などと言う流れも自然に出来ている。
老夫婦は初めてここに訪れたが、その流れは事前に調べていて、もし機会があればそうして貰おうとしていたのだが……今の今まで熱心に解説してくれた女性が店員ではなかったのに驚いた。もしかしたら係員でもないかもしれない不安も考えをよぎった。
三人が固まっていると、その空気は本物の係員兼店員によって緩和されたのだった。
「お話の所失礼します。申し訳ありません、マリス・エバ様のお連れ様でしょうか?」
「え?あ、はい。そうですが……。」
「先程からエバ様が、ヘルメス様をお探しとの事でして……。」
「え?あ!いない!!いつの間に!?」
言われて初めて驚いたその女性は周囲を見渡すと、一緒にいたであろう連れの相手がいなくなっていることにようやく気がついたのだろう。そういえば彼女、老夫婦がどんな石なのだろうと疑問を口にしながら鑑賞していた所、親切に丁寧に説明してくれながら共に館内を回ってくれていた。……私達がある意味連れ回してしまったと思うと同時に、彼女に釣られて歩いてしまったのだとも思った。すると係員と彼女の後ろから誰かやってきた。
「ヘルメス、ここにいたのかい。」
「も、申し訳ありません……つい熱中してしまいまして。」
「いやいや。楽しんでくれていて何よりだよ。そちらの方々は?」
「あ、ああ申し訳ありません。彼女のお話が大変勉強になりまして、ついここまでお連れしてお話を伺っていた所なのですよ。」
「こちらこそ、勝手に御息女を連れ回してしまって大変失礼なことを……。」
御息女、と呼ばれた彼女は一瞬だけ複雑な表情をするも、隣にいた中年男性が和かにすぐにそれに答えた。
「いえ、彼女は私の婚約者でして。今月末に挙式を上げるのですよ。」
「え、あっ、なんと。それは大変失礼なことを……申し訳ありません。」
「いえいえ。これだけ歳の差があれば、間違えられても仕方ありませんよ。」
笑顔を崩さずに対応するその姿はまさに紳士的で、礼節が滲み出るような男性だったと後に老夫婦は語った。
それから二人とはまた少し談笑をしてから別れたが、係員はいやはやと頭をかく仕草をしていた。
言うには、係員が彼女を見かけたときにすぐに声をかけるつもりが、熱量と情報量がこもった説明をしている姿を見て声をかけるタイミングを逃してしまったという。
本来なら説明を引き継ぐつもりだったが、ベテラン案内係員でも説明が複雑な魔法石の知識を、わかりやすく説明していたため、「あれを引き継ぐのは無理だ」と悟ったのだとか。とんだスタッフ泣かせだと苦笑いをしてしまった。
「そういえば、あの子もご結婚なさるのね。」
「そうだったな。せめておめでとうの一言をかけてあげるべきだった。……また会えるといいのだが。」
そして老夫婦が王都に滞在中、王太子夫妻の結婚パレードを見学をして驚愕することとなるのは、もう少し先の事であった。
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