オジサマ王子と初々しく

ともとし

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第二十二話

ガラスの騎士

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 朝食後、ヘルメスは王太子妃付きのメイド達に目一杯おめかしされていた。おめかし、とは言っても例の坂道を登るので動きやすくて堅苦しくない程度の服装となった。普段着から少しオシャレしたくらいのが動きやすい、ちょっとフランクな服装にしようと義両親と交えて決めたのだ。それなら実家家族も無理に気を遣わないでありのまま過ごせると思ってくれた配慮……だけどもデュランが『堅苦しいのは苦手』なだけなのだとあとでわかった。
 履き慣れた靴ではなくて新しい革靴を履くこととなったが、とても履き心地がいい。靴擦れする覚悟だったのに、通気性も動きやすさもまるで学生時代に履き潰した運動靴のように軽い。
 聞けばこれは『ドレスシューズ』と呼ばれるもので、マリセウスが懇意している靴屋が作った最新作だとの事。これを見たときにヘルメスに向いていると直ぐに思い、オーダーメイドで何足か作ったもらったのだ。あの衣装部屋にある靴は踵のあるもの以外はほぼドレスシューズだと言っていた。これにはオシャレに疎いヘルメスはとても喜んだ。……だが何故ここまで足のサイズなどを把握しているのだろうとキリコは少し怖くなったが口にはしなかった。
 ツバの広い貴婦人がよく被る帽子も被せてもらい、ヘルメスは外の馬車へと向かうことにした。

 新しい靴にご機嫌で楽しげに石畳で舗装されている馬車の停留所に降り立つと、自分が乗る馬車に数名の騎士らしい人々、それとマリセウスともう一人初めて見る人物が目に入った。赤いマントに羽がひとつ刺された帽子、とても派手……にしてはあまり目が痛くならない。どちらかというと華がある、と言えばしっくりくるのだろう。
 会話のタイミングを見計らってヘルメスは声をかけた。

 「マリス……マリセウス殿下、お待たせしました。」

 「やぁヘルメス。準備は大丈夫そうだね。彼が今朝話したベルドナルド・ダイヤー近衞騎士団団長だよ。」

 まだ今朝と同じシャツとサスペンダー姿のマリセウス、そのラフさが新鮮でその格好のままでいてくれてたのが少しだけ嬉しかったのは内緒だ。嬉しい理由は、身体のラインがよくわかるという下心なのはもっと内緒なのだが。
 マリセウスに紹介された華のある隣の人物がヘルメスの方へ体を向け直す。彼女はその時、初めて彼の顔を見ることとなった。
 口髭の先端が少しばかり上向きにカーブしており、オシャレな髭なものだから『きっとオシャレさんだ』と第一印象を受けた。目は切れ目で鋭いはずなのに、どこか柔らかな雰囲気がある。
 目前にいる近衞騎士は帽子を取り、ヘルメスに一礼をすると明快に自己紹介を始めた。

 「お初目にかかります。私はベルドナルド・ダイヤー。神海騎士団が近衞騎士団長を勤めております。本日は王太子妃殿下の護衛に就かせていただいております故、どうぞご安心なさって下さいませ。」

 にこやかにハキハキとキラキラと、すごく眩しい。
 ハンクスに来てから色んな人と出会ったけれど、華もある爽やかさもある、とにかく全部持ってそうな人間は今まで出会わなかった。

 そもそも近衞騎士・近衛兵は王族を護る役目があり、王族が公務による外遊は彼らが付いてくれる。その為、王族と隣り合う事も多々あるので装備だけではなく振る舞いも上品さを求められる騎士兵なのだ。目の前にいるベルドナルドはそれを絵に描いたような、『近衞騎士たるものの理想像』そのものである。ヘルメスも彼を見てかっこいいと純粋に思った、マリセウスの次の次の次くらいにはかっこいいと。

 「彼女が先程話した婚約者のヘルメスだ。」
 「初めまして、ヘルメス・カートンと申します。本日一日よろしくお願いします。」

 今はまだ籍を入れてないからと謙虚に、ヘルメスはカーテシーをして挨拶をする。これにはとても驚かれてしまい、止められてしまった。

 「ひ、妃殿下。私のような下の者に頭を下げないでくだされ。」

 「おいおい、そんなに狼狽えなくともいいじゃないか。」
 「……あの、私達まだ籍を入れていませんので、現状では一番身分が下なのは私ですし、そんなに気を遣わなくてもいいのですよ?」

 と、ここでピタリとベルドナルドの動きは止まった。
 そこでマリセウスは彼の先程までの振る舞いをふと振り返り、少し笑いながらそれを指摘した。

 「ベルドナルド。私は『婚約者』とは言ったけれど、『妻』や『妃』とはまだ言っていないよ。」

 つまり早合点。だが気持ちはわからなくもない。式を上げる前に宮殿入りしたのだから、籍を入れたと勘違いされても当然だ。きっと彼以外にもそう思っている人間はいるのだろうとここまで思った。
 ヘルメスもマリセウスと同じで、それは無理もないと考えている。自分だって同じ状況だったら彼と似たような振る舞いをするだろうし。

 固まっていたベルドナルドは王太子の話を聞き終わると、一拍だけ間を置いて膝から崩れ落ちた。それを見た二人は大変驚いて声をかけようとするのだが、その隙を与えずに石畳に頭突きをせんばかりに頭を下げて……いや、実際に頭突きをしている。鈍い音が何度もしているのだから。

 「私と、私としたことがっ!なんという、大変な!ご無礼をしてしまいまして!誠に、本当にっ!!誠にっ申し訳ありませんでしたっ!!」

 ……先程までの紳士さと華麗な騎士の出立からはかけ離れた言動を、すごい速いリズムを刻むように繰り返している。
 ガンガン!という音からパリン、バキ!という音に変化している……かなり危ない。
 周囲にいた数名の近衞騎士が彼に駆け寄り、なんとか宥めて高速土下座を止めさせた……さぞかし酷い傷が、と思ったが顔も頭も無傷だった。何か加護でもあるのか?とちょっと引いていた二人はそう思ったのだった。

 「申し訳ありません。ダイヤー団長は些細な失敗でも責任感を凄まじく感じてしまう人でして……。」

 あー……とハモったヘルメスとマリセウス。彼の家の背景を考えれば、どんな細やかな失敗やうっかりは致命的ではあろうと少しだけ同情出来てしまった。ある意味脆い忠義ではあるが、彼に対しては皆の信頼を寄せているので笑って許せる範囲ではある。

 「全く、大袈裟なリアクションだよ。」
 「ちょっと前のマリス様みたいでしたね。」
 「え?」

 ……本当は婚約者の可愛らしいワンピース姿に悶えたくてたまらなかったが、ベルドナルドの行動を見て自粛することを覚えたマリセウスだったのである。
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