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第四十二話
女子たちの散策
しおりを挟むヘルメスの小恥ずかしい過去をアレコレと披露され、さらに何を隠しているのかも尋問されかけたが「時間が勿体無いから!」と盛大に話しを逸らして城下町を散策し始めることと、強引に事を勧めた。まぁ尋問などお茶をするときにでも根掘り葉掘り聞けばいいか……女子三人はそう思い、さっさと歩くヘルメスの後ろをついていくのであった。
「妃殿下、そう先陣を切って歩かれますが行く当てはありますの?」
「…………ないです。」
恥ずかしくて逃げ出したように歩いていたが、よくよく考えたらここ一帯は無知がすぎる。さすがに揶揄いすぎたと思ったターニャは提案をする。
「でしたらまず、私が懇意しておりますお店に行かれますか?」
「ターニャ様の?」
ハンクスの公爵家令嬢御用達のお店。つまり、淑女が必要とするものばかりを取り揃えていそうな気配だ。
以前のヘルメスなら煌びやかなものは苦手で牽制しがちではあったが、妃教育とターニャのスパルタもあり多少なりとも自分で受け入れ始めてはいる。しかしまだ初心者なのは拭えない。きっとこれは遠回しに『脱初心者』を促されているに違いない。……そう確信した。
「ここから近いのですか?」
「ええ、目と鼻の先ですわ。」
そういうと地上三階建ての建物を手で示し、如何にも格式高い……というわけではなくて、とても入り易そうな店である。さながらサンラン国の学園都市の学生街、しかしそれに比べたら幼さはまるで感じさせないような佇まい。この類の語彙はまるで存在しないヘルメスは無難に「なんだかシンプルですね」とだけ述べた。……戻ったらまた何か勉強させられそうではある。
「ええ。こちらの方が私は入りやすいとは思いますの。そんな所も気に入っていますのよ。」
「あら。デニー様は自ら店に足を運ぶのですか?」
「そうですの。そちらの方が手直しもしてくれるのが早くて助かりますから。」
公爵令嬢ほどならば、商人くらい呼び寄せて自身の邸宅で調度品の品定めをするのが普通なのだが、どうやらターニャはそのような事はあまり好きではないらしい。職人がいるとしたら確かに勝手知った作業場でしてもらったほうが完成度も高いだろうし、ある意味それは粋な計らいとも思える。
手直し、という事は衣服や装飾品の店であろうか。ヘルメスはやれあの生地は夏向きだの、あのフリルはお茶会には適してないだのと色々とターニャを始めとした講師に指導されてきており……まさかここにきて抜き打ちテストかと身震いした。
そんな緊張を察したのか、ターニャはヘルメスに「きっと妃殿下も気に入って下さいますわ。」とニコリと答えた。……この笑顔はどちらなのだろう?ものの数日しか知り合えてないはずなのに、一年以上も付き合っているかのような理解度の深さが脳裏をよぎる。
「御免くださいな。」
ソニアが扉を引き、ターニャが彼女らを引率するように先に入店した。
中にいた店員と思われるらしき女性がそれに反応してターニャに挨拶をしてくる。『らしき』、というのは……まぁ野生児な令嬢ヘルメスでも少しだけ格式高い店には脚を運ぶが、その際の従業員は店の制服で滅多に露出しないような服装で、それはそれは礼儀正しく接してくれる。のだが、ここはどうやら違う。
「あら!ターニャ様、いらっしゃいませ!先日のウエイトはどうでしたか?」
「ええ。あれを着込んで歩くだけでも良き負荷がかかって筋肉量も増えましたのよ。」
「それはよかった。しかし重さにこだわり過ぎるとお身体を壊してしまいますから、『少しだけ重く感じる』程度にまで留めておいて下さいね?」
「はい、ありがとうございます。」
それに加えて、貴族令嬢の口かららしからぬ単語が飛び出てくる上にヘルメスにとってはあまりにも馴染み深い言葉である。共にいたレイチェルとベティベルは小首を傾げてはいるが、店内を見渡して何気なく気がついたらしく、二人は口を揃えた。
「なんだか……ヘルメスちゃんらしい雰囲気のあるお店だね。」
「そうですわね。」
「え?」
その時ようやくヘルメスも店内を見渡せた。
販売されている衣類の見本として使用しているトルソーにはいつも朝使っている運動着によく似た……いや、肩の部分が露出しているものが飾られており、並べられた靴はしっかりとした革靴や可愛らしいストラップのついたものではなく走りやすそうなもの、初めて見るが柔軟性があるのは確かだと一目でわかった。
「……あの、ターニャ様。このお店はもしや?」
「ええ。私たちの命、とも言い切れる女性アスリート専門店ですわ!」
上品に、しかしながら力強く答えた。
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