オジサマ王子と初々しく

ともとし

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第四十二話

かしましく

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 それから小一時間。

 「そうそう!これくらいの靴底だとすぐに穴が開いちゃうんですよ!なのに今まで履いていたどの靴よりも弾力と、それなのにこの溝の深さは結構理想的でして!」
 「さすがは、お目が高い。こちらは王太子殿下が商会会頭として輸入してきて下さったゴムと呼ばれる素材から出来ております。」
 「まぁ、さすがは殿下……アスリートの気持ちがわかっていて素晴らしいです……!」

 「ヘルメス。新品の靴だからといって靴底を頬擦りするのはおやめなさい。」

 ベティベルから辛辣なツッコミを受けると、ついつい(ウヘヘ、と小さく笑っていた上)うっとり顔をしてしまっていたが目を覚ましてハッと靴から顔を離した。よほど恥ずかしかったのか、目を伏せながら「これ一足、いただきます……。」と店員にその靴を差し出したのであった。
 支払いは自分のお小遣いからとポシェットに手を入れるも、ターニャはそれを制してマクスエル公爵家名義で購入すると申し出た。さすがにそれは……と言おうとするも、

 「それは私からのご結婚祝いとして贈らせていただきたいのです。」

 などとクールに言われてしまったので、ここで断れば礼儀を欠いたこととなる。少しばかりモヤつくが、ヘルメスは甘んじて受けるのであった。

 「まぁ……ご結婚なさるのですか!おめでとうございます!」

 靴を受け取った店員はまるで我が事かのように喜んで祝いの言葉を送り、それにもヘルメスは嬉しそうにありがとうと返した。
 それでしたら可愛いラッピングにしませんとね!とハリキリながら店の奥へと消えていき、残された彼女らは店内の一角にある休憩スペースへ行き腰をかけて待つことにした。ターニャが懇意している店であるだけに、他の従業員らは彼女らにお茶などを提供し、ごゆっくりとだけ告げて去っていった。
 そういえば触れた事のない未知なるものに触れてから友人ふたりを待たせてしまっていたヘルメスはベティベルとレイチェルに先に詫びを入れ、しかしそれならばとベティベルは颯爽と切り出した。

 「そうですわね、お詫びとして先程濁したお話、して下さらない?」
 「ほぶぅっ!!?」

 一口入れたお茶を吹き出しそうになるも寸前で堪えた、のかは怪しいが驚きの声があまりにも不自然すぎる。

 「な、ななななぁーんの、話かなぁ~?にご、濁り?話?知らないなぁあ~??」

 物凄く逸らそうと必死になるも、この王太子妃……驚くほどに隠し事が下手くそだ。そして動揺を隠すのも下手くそが過ぎる。なんだったらカップをソーサーに置く時に小さく小刻みにカタカタカタと震わせて音を立てている。本来であれば減点もののマナーの悪さだが、逆に超高速でリズムを刻んでいるかのようにも錯覚してしまう。どこぞのドラム演奏者なら終演後、ドラムの横で倒れてしまうほどの激しいリズムを打ち鳴らしているだろうに。

 そして隠し通すつもりのヘルメスは脳裏にあの日の事を思い出していた。
 まだ初恋のままの状態を味わっていたくて少しばかり意地悪なことをしたら、キスのような真似事をされてくすぐったくて恥ずかしくて……気がついたら全力疾走で丘を駆け上がったあの日。
 実のところ、マリセウスの指の感触はほぼ忘れかけていた。なのに今日は突然脈絡もなく思い出してしまったのものだから、あの時唇に押し当てられた温もりや近いた顔が恐ろしいほど鮮明に蘇ってきたのだから動揺を隠せないのは無理もない。
 今のヘルメスは乙女だ、三年間ほど彼女の友人をしていたレイチェルとベティベルはそれは大変驚き、ターニャはその甘酸っぱい空気で何気なく察した。令嬢の間では色恋沙汰の話のほとんどは観劇した舞台や読物の感想ばかりで、家同士の結びつきのための結婚ばかりの貴族社会では恋愛結婚なんて四つ葉のクローバーが自生しているくらいには少ない故、このような恥じらう話は希少なのだ。

 「まさか……叔父様に何かされたのですか?」
 「!や、やややや……その、されたっていうか!しちゃったというか……っ。」
 「したの!?何を!?」
 「白状なさい!貴女は既に包囲されてますのよ!」
 「ひぃいい~!!」

 「お嬢様方。少々賑やかすぎます。」

 コホン、と小さく咳払いして尋問で騒がしくなった彼女らを制したのは護衛のソニアであった。彼女だけは着席せずに王太子妃の斜め後ろに控えており、職務を全うしていたが店内の客は彼女らだけではあるものの、品性が少々欠いてしまっているのにさすがに注意をせざる得ない。悪目立ちは避けるべきです、と辛辣な言葉をひとつ付け加えると全員がしょんぼりと顔を伏せてそれぞれ反省の意を示した「ごめんなさい」と一言謝罪をしたのだった。

 「ま、まぁ要にね?私とマリス様だけの思い出にしたいなってだけの話だから……ごめんね、話せなくて。」
 「私たちもごめんねヘルメスちゃん。」
 「そうですわよね……ヘルメスにも話せないことぐらいありますものね。失念していましたわ。」
 「いいっていいって。」
 「……お待ちになって?まさかと思いますが、ヘルメス妃殿下はなんでもかんでもお話してしまうのですか?」

 ターニャは先程の会話で途端に疑問と不安が芽生えた。
 そして妃教育を受けてきたヘルメスはギクリと顔色が変わった。

 「あ、はい。前日のお夕飯の話とか家であった出来事をたくさん話してくれますよ。」
 「レイチェル!!」

 目を見開き、平民の学友の言葉を遮ろうとするも時既に遅し。ベティベルはその行動で何かしらを察したのか、横目でチラリと王太子妃お目付役の公爵令嬢を見やる。
 目が笑っていないが口角は上がっている……あまりにも不自然すぎる笑顔、いやこれを笑顔と呼ぶには無理がある。砕けた言葉で表すなら『ブチギレて一周回って笑っちゃっている』の一言で十分だ。

 「妃殿下。まさかとお思いですが……簡単にご自身の日程や出来事などを他者には話しておられませんよね?」

 「…………よし。みんな、マリス様と何かあったお話ししよう。」

 「妃殿下ッ!!」

 豪快に話を逸らそうとすると、静かに怒りの雷が落とされヘルメスは短時間で濃厚にお叱りを受けたのであった。
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