オジサマ王子と初々しく

ともとし

文字の大きさ
218 / 227
第四十四話

レモネードとラリアート

しおりを挟む

 場面は切り替わり、マリセウスとグレイの二人はヘルメス達が歩いていた道を男ふたりで歩いていた。なお、キングサイズのレモネードを片手に……もとい両手に。
 中に入っていた氷もほぼ溶けて飲みやすいぬるさになっており、しかしながらこの量のレモンを摂取したら腹はどうなるのかが少しばかり不安ではあるが、「そんなの動いてしまえばどうという事はありませんよ」と義弟は言い切った。……おかしい、何故か妹のように見えてきた。

 それにしても人通りが多い。国会議事堂のあるサンラン国の首都ウラーべでもここまでではなかったが、やはり大きな国は違うようだ。王太子殿下の婚礼というイベントがあるのも相乗効果として高いのだろう。
 ……確かに、この状態で結婚式は中止となれば経済損失はかなりのものだ。サンラン国なんて簡単に消し飛んでしまうだろうし地図からあっけなく消えてしまう。末恐ろしいことを未遂で済ませたのは言うまでもないが、まだ『未遂』にすらなっていない。

 (結婚指輪、どうやって渡せばいいのやら……。)

 眉間に皺、両手にレモネードを抱えてストローで限界まで吸い尽くしているグレイの姿を見てもしかして味が濃すぎたか?などと不安になるマリセウス。ちなみに自身はもう飲み切っているので味には問題なかったが、好みが違ったか?と義兄の心に察することなくいらない心配をするのであった。

 「あ、そうそう。この間立て替えてくれてありがとうね~。」

 はっきりとした声で人混みの向こう側にいる二人組の女性の一人がカバンから財布を取り出そうとしていた。別にその人が知り合いというわけではないが、そんな歩きながらやる事じゃなかろうに……などと年寄りみたいに苦言でも溢しそうになる。
 そう目を離そうとした瞬間だった。

 「きゃぁ!!」

 女性たちの間に乱暴に通ろうとした男がいたが、なんとカバンごと財布を引ったくったらしく彼女らは突き飛ばされてしまい、思い切り倒れてしまい悲鳴をあげると同時に泥棒!と叫ぶ。まるでそれが合図かのようにすぐに引ったくり男は走り出した。
 叫び声と共に彼女らに注視する周囲だったが、肝心の盗みを働いた男にまで視線は行かない。しかし引ったくった瞬間を見ていたグレイは視線で男を追っており、しかしながら人混みのせい……いいや、自分の体力のなさを考慮してだ。もしここで走り出せばバテてしまうのは目に見えている。逆にここで追跡などして倒れてしまえば余計な手間がかかるだろう、残念ながら追いかけるまでには至らなかった。だからせめて犯人の特徴を記憶しなければ……そう凝視していたが、隣の義弟が一言放った。

 「心配する必要はなかったですね。」
 「え?」

 グレイが逃走する男から目を離して義弟に視線を変えると同時に、バァン!と衝撃音が響き渡った。
 次に視線を音源に向けて見ると、大男が右腕を横に出した状態で立ちはだかっており、逃げた犯人の姿は見えなかった。その直後、周辺にいた憲兵らが大男の前までにやってきて何かを取り囲むように動いていた。そして一言、『確保!』の声があがるとグレイが目で追っていた犯人がなんとフラフラと立ち上がり、憲兵に連行されていったのである。

 「あれ?あの人、どこかで……。」
 「ええ。服装が違うから印象も異なるでしょう。」

 人混みをかき分けてマリセウスは彼の元へと歩き出すと、グレイも懸命に追いかけた。

 「ジライヤ、大活躍だな。」

 「え……あぁっ!でんっ、いえエバ殿!」

 私服姿の将軍、ジライヤ・ウィルソンは捕らえた引ったくり男から女性の鞄を取り戻すとすぐに持ち主に返した。婚活真っ最中の彼だから、その女性に『何かのご縁』とでも言うのかと思ったが何もアクションを起こさず渡し、面倒ではあるが憲兵からの調書を取る依頼を受けて欲しいと一礼して彼女らを見送ったのであった。事情を知っているマリセウスは意外だなと聞くと、

 「そうでしょうか。これを機会にするのはまた何か違うかと思いますが。」
 「はは、案外ロマンチストだな。」
 「エバ殿ほどではありませんよ。」

 義弟はロマンチストというより現実的な情熱家だろうなとグレイは思った。昨日の転覆事故も後先考えずに妹を助けに戻ったと聞くし、妹と婚約したときは現実を並べて諦めようとしていたとも聞いた。
 行動力のあるのはヘルメスも同じだが、己が信じるもの以外に想い合う相手のために動いている情熱はロマンなんかの一言では片付けられない。

 (……そうなんだよ。だから認めているし、それを伝えなきゃいけないのに。)

 下げた鞄に入っている指輪の入った箱を撫でながら、度胸のない自分を悔やむしか今は出来ない。それすら歯痒くて自分を殴りたくなってきてしまう……。

 「しかし、奥方とてっきりご一緒かと思いましたよ。」
 「妻は独身最期の日だから友人らと遊んでいるそうだよ。」
 「あぁ。だからソリスト副団長がいたのか。納得。」
 「ん?」

 「あっ!い、いえ!たまたまですよ!?たまたま奥方の行かれる場所とたまたま重なってしまってですよ!!?ちょっと後をつけて奥方を供給しようかなぁ~なんて思ってませんからね!?ついでに食べていたチュロスと同じのを食べようとか企んでませんからね!!」

 「いや私、まだ何も聞いてないよ!?」

 「……。」

 だけども妹の周囲の人々はどうなのかと聞かれたら不安としか言えないグレイなのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

処理中です...