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第四十四話
レモネードとラリアート
しおりを挟む場面は切り替わり、マリセウスとグレイの二人はヘルメス達が歩いていた道を男ふたりで歩いていた。なお、キングサイズのレモネードを片手に……もとい両手に。
中に入っていた氷もほぼ溶けて飲みやすいぬるさになっており、しかしながらこの量のレモンを摂取したら腹はどうなるのかが少しばかり不安ではあるが、「そんなの動いてしまえばどうという事はありませんよ」と義弟は言い切った。……おかしい、何故か妹のように見えてきた。
それにしても人通りが多い。国会議事堂のあるサンラン国の首都ウラーべでもここまでではなかったが、やはり大きな国は違うようだ。王太子殿下の婚礼というイベントがあるのも相乗効果として高いのだろう。
……確かに、この状態で結婚式は中止となれば経済損失はかなりのものだ。サンラン国なんて簡単に消し飛んでしまうだろうし地図からあっけなく消えてしまう。末恐ろしいことを未遂で済ませたのは言うまでもないが、まだ『未遂』にすらなっていない。
(結婚指輪、どうやって渡せばいいのやら……。)
眉間に皺、両手にレモネードを抱えてストローで限界まで吸い尽くしているグレイの姿を見てもしかして味が濃すぎたか?などと不安になるマリセウス。ちなみに自身はもう飲み切っているので味には問題なかったが、好みが違ったか?と義兄の心に察することなくいらない心配をするのであった。
「あ、そうそう。この間立て替えてくれてありがとうね~。」
はっきりとした声で人混みの向こう側にいる二人組の女性の一人がカバンから財布を取り出そうとしていた。別にその人が知り合いというわけではないが、そんな歩きながらやる事じゃなかろうに……などと年寄りみたいに苦言でも溢しそうになる。
そう目を離そうとした瞬間だった。
「きゃぁ!!」
女性たちの間に乱暴に通ろうとした男がいたが、なんとカバンごと財布を引ったくったらしく彼女らは突き飛ばされてしまい、思い切り倒れてしまい悲鳴をあげると同時に泥棒!と叫ぶ。まるでそれが合図かのようにすぐに引ったくり男は走り出した。
叫び声と共に彼女らに注視する周囲だったが、肝心の盗みを働いた男にまで視線は行かない。しかし引ったくった瞬間を見ていたグレイは視線で男を追っており、しかしながら人混みのせい……いいや、自分の体力のなさを考慮してだ。もしここで走り出せばバテてしまうのは目に見えている。逆にここで追跡などして倒れてしまえば余計な手間がかかるだろう、残念ながら追いかけるまでには至らなかった。だからせめて犯人の特徴を記憶しなければ……そう凝視していたが、隣の義弟が一言放った。
「心配する必要はなかったですね。」
「え?」
グレイが逃走する男から目を離して義弟に視線を変えると同時に、バァン!と衝撃音が響き渡った。
次に視線を音源に向けて見ると、大男が右腕を横に出した状態で立ちはだかっており、逃げた犯人の姿は見えなかった。その直後、周辺にいた憲兵らが大男の前までにやってきて何かを取り囲むように動いていた。そして一言、『確保!』の声があがるとグレイが目で追っていた犯人がなんとフラフラと立ち上がり、憲兵に連行されていったのである。
「あれ?あの人、どこかで……。」
「ええ。服装が違うから印象も異なるでしょう。」
人混みをかき分けてマリセウスは彼の元へと歩き出すと、グレイも懸命に追いかけた。
「ジライヤ、大活躍だな。」
「え……あぁっ!でんっ、いえエバ殿!」
私服姿の将軍、ジライヤ・ウィルソンは捕らえた引ったくり男から女性の鞄を取り戻すとすぐに持ち主に返した。婚活真っ最中の彼だから、その女性に『何かのご縁』とでも言うのかと思ったが何もアクションを起こさず渡し、面倒ではあるが憲兵からの調書を取る依頼を受けて欲しいと一礼して彼女らを見送ったのであった。事情を知っているマリセウスは意外だなと聞くと、
「そうでしょうか。これを機会にするのはまた何か違うかと思いますが。」
「はは、案外ロマンチストだな。」
「エバ殿ほどではありませんよ。」
義弟はロマンチストというより現実的な情熱家だろうなとグレイは思った。昨日の転覆事故も後先考えずに妹を助けに戻ったと聞くし、妹と婚約したときは現実を並べて諦めようとしていたとも聞いた。
行動力のあるのはヘルメスも同じだが、己が信じるもの以外に想い合う相手のために動いている情熱はロマンなんかの一言では片付けられない。
(……そうなんだよ。だから認めているし、それを伝えなきゃいけないのに。)
下げた鞄に入っている指輪の入った箱を撫でながら、度胸のない自分を悔やむしか今は出来ない。それすら歯痒くて自分を殴りたくなってきてしまう……。
「しかし、奥方とてっきりご一緒かと思いましたよ。」
「妻は独身最期の日だから友人らと遊んでいるそうだよ。」
「あぁ。だからソリスト副団長がいたのか。納得。」
「ん?」
「あっ!い、いえ!たまたまですよ!?たまたま奥方の行かれる場所とたまたま重なってしまってですよ!!?ちょっと後をつけて奥方を供給しようかなぁ~なんて思ってませんからね!?ついでに食べていたチュロスと同じのを食べようとか企んでませんからね!!」
「いや私、まだ何も聞いてないよ!?」
「……。」
だけども妹の周囲の人々はどうなのかと聞かれたら不安としか言えないグレイなのであった。
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