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伯爵家からの密告
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アメリアのもとに思いもかけない客人が現れた。
その見事な胸、そしてけだるげなたれ目、まごうことなきデレイン。
何故デレインがと思ったが、アメリアはそのまま家に入れた。
デレインはきょろきょろと周囲を物珍しげに眺めている。
「どうしたの?」
アメリアの私室に招いてお茶を出してやる。
ティーポットを下ろしてアメリアはデレインの様子を見る。
顔は別にやつれていない。それにデレインはエルダー伯爵家との縁談が進んでいるはずだ。
「あのね、婚礼の日取りは決まったの、二度目だから親族だけしか呼ばないこじんまりとした式でということになったんだけど」
「それはおめでとう」
成果を話しに来たんだろうかと思ったがそういうわけではないらしい。デレインの顔に晴れやかさはない。
「もしかして、この国、戦争になるの」
とぎれとぎれでためらいがちな発言にアメリアは目をむいた。
「どっからそんな話になったの?」
デレインはすでにエルダー伯爵家に引き取られ、まとまった手切れ金で家族と縁を切ったというか切られたというかとにかく音信不通になっているそうだ。
デレインが家族と会うとそのお金を返さなければならないためデレインが希望しても家族と会えないらしい。
それは結構なことなのだが、デレインの懸念は別のところにあった。
「ほら、王太子と二人の王子って母親が違うでしょう」
それは公式の設定なのでアメリアも異存はない。
「それぞれの王妃の出身国がどっちが王位継承するかで口を出してきているって話を聞いたの」
アメリアはカップを持っていなくてよかったと心から思った。
持っていたら確実に取り落としていた。このカップ母親が特注で作らせたお気に入りなのだ。
「それで戦争?」
デレインは眉を寄せた。
「私は馬鹿だから、あんまり状況判断ってできないけど、二つの国がこんな風に国政に介入しようとすると、この国だってその抵抗があるもんじゃないの?」
アメリアはそんなことないよと笑い飛ばしたかった。だが、わずかでも信憑性がある以上笑い飛ばすことはできなかった。
普通の貴族女性ならそこまで逸脱はしなかったろうが、転生者としてテレビや新聞で見た知識がそれなりに役に立っているらしい。
「あの、それって」
どうやら王太子のもとにウエンステラの人間が頻繁に出入りするようになってきているらしい。どうしてそれに気が付いたかというと、エルダー伯爵家は税関のような公務についている親族が多いかららしい。
「でも、いや、このタイミングではないか」
きな臭いのはアメリアも同意する。
「エンダイブは?」
「今のところ動きはないけど、ウエンステラの動きが活発化すればいずれは来るんじゃないかな」
「ま、そうだね」
ずきずきと痛み始めたこめかみをもんだ。
どうして普通の男爵令嬢のもとにこんな厄介ごとの種が舞い込んでくるんだ。
「私はユーフェミアに服従する形で安全を図っているわけよ」
アメリアはそう言って、そこまで言ってため息をつく。
それが何の役に立つのか、ユーフェミアとて公爵令嬢に過ぎない。この問題は荷が勝ちすぎるはずだ。
「でもそれ以外打つ手がないな」
アメリアは自国の地図と自分の領地の位置関係を思い出してみた。
国境ぎりぎりではない。国の真ん中よりちょっと外側に出ているが、外国に行くにはかなりかかる立地だ。そしてブラウン領はそっちよりややウエンステラ寄りだが、かなり険しい山を越えなければならないので、二つともあまり戦火を浴びる土地ではないだろう。
だが、無関係でもない、そういう土地に疎開してくるような人間も多い。そして人が増えればトラブルも起きる。そうしたトラブルは領主、つまり父親が被るのだ。
「起きないといいな」
希望的観測だが、それがかなえられる可能性はちょっと低かった。
その見事な胸、そしてけだるげなたれ目、まごうことなきデレイン。
何故デレインがと思ったが、アメリアはそのまま家に入れた。
デレインはきょろきょろと周囲を物珍しげに眺めている。
「どうしたの?」
アメリアの私室に招いてお茶を出してやる。
ティーポットを下ろしてアメリアはデレインの様子を見る。
顔は別にやつれていない。それにデレインはエルダー伯爵家との縁談が進んでいるはずだ。
「あのね、婚礼の日取りは決まったの、二度目だから親族だけしか呼ばないこじんまりとした式でということになったんだけど」
「それはおめでとう」
成果を話しに来たんだろうかと思ったがそういうわけではないらしい。デレインの顔に晴れやかさはない。
「もしかして、この国、戦争になるの」
とぎれとぎれでためらいがちな発言にアメリアは目をむいた。
「どっからそんな話になったの?」
デレインはすでにエルダー伯爵家に引き取られ、まとまった手切れ金で家族と縁を切ったというか切られたというかとにかく音信不通になっているそうだ。
デレインが家族と会うとそのお金を返さなければならないためデレインが希望しても家族と会えないらしい。
それは結構なことなのだが、デレインの懸念は別のところにあった。
「ほら、王太子と二人の王子って母親が違うでしょう」
それは公式の設定なのでアメリアも異存はない。
「それぞれの王妃の出身国がどっちが王位継承するかで口を出してきているって話を聞いたの」
アメリアはカップを持っていなくてよかったと心から思った。
持っていたら確実に取り落としていた。このカップ母親が特注で作らせたお気に入りなのだ。
「それで戦争?」
デレインは眉を寄せた。
「私は馬鹿だから、あんまり状況判断ってできないけど、二つの国がこんな風に国政に介入しようとすると、この国だってその抵抗があるもんじゃないの?」
アメリアはそんなことないよと笑い飛ばしたかった。だが、わずかでも信憑性がある以上笑い飛ばすことはできなかった。
普通の貴族女性ならそこまで逸脱はしなかったろうが、転生者としてテレビや新聞で見た知識がそれなりに役に立っているらしい。
「あの、それって」
どうやら王太子のもとにウエンステラの人間が頻繁に出入りするようになってきているらしい。どうしてそれに気が付いたかというと、エルダー伯爵家は税関のような公務についている親族が多いかららしい。
「でも、いや、このタイミングではないか」
きな臭いのはアメリアも同意する。
「エンダイブは?」
「今のところ動きはないけど、ウエンステラの動きが活発化すればいずれは来るんじゃないかな」
「ま、そうだね」
ずきずきと痛み始めたこめかみをもんだ。
どうして普通の男爵令嬢のもとにこんな厄介ごとの種が舞い込んでくるんだ。
「私はユーフェミアに服従する形で安全を図っているわけよ」
アメリアはそう言って、そこまで言ってため息をつく。
それが何の役に立つのか、ユーフェミアとて公爵令嬢に過ぎない。この問題は荷が勝ちすぎるはずだ。
「でもそれ以外打つ手がないな」
アメリアは自国の地図と自分の領地の位置関係を思い出してみた。
国境ぎりぎりではない。国の真ん中よりちょっと外側に出ているが、外国に行くにはかなりかかる立地だ。そしてブラウン領はそっちよりややウエンステラ寄りだが、かなり険しい山を越えなければならないので、二つともあまり戦火を浴びる土地ではないだろう。
だが、無関係でもない、そういう土地に疎開してくるような人間も多い。そして人が増えればトラブルも起きる。そうしたトラブルは領主、つまり父親が被るのだ。
「起きないといいな」
希望的観測だが、それがかなえられる可能性はちょっと低かった。
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