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事件発生
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アメリアはキャロルの冥福を祈るためメイドを連れて近所の宗教施設にいた。
雪のように真っ白な石を積み上げたその建物は、周囲の景色から浮き上がっている。
市街地に不釣り合いなほど濃い緑の木々に囲まれて堂々と鎮座する建物はアメリアの家何件分だろうとくるたびに思う。
別にこの世界の神様を信じているわけではないが。もともと日本の神仏にもそれほど敬虔な祈りをささげていたわけでもない。
かといってキリスト教徒でもない何となく教の信者という日本人にありがちな宗教間の持ち主だったので、神様はとりあえず拝んでおけというのが方針といういい加減さだった。
僧侶が何人かたたずんでいる。この宗派の僧侶は剃髪しているので日本の寺のような気がした。
いくばくかの献金を門前の僧侶に渡し、浮彫の施された祭壇前に膝をつき聖人像といわれるいかにも厳めしいスキンヘッドのおじいさんの像に向かって祈った。
周りには同じように祈っている娘たちが多い。
困ったときは神頼み。婚活祈願で若い娘はよく祈りに来るらしい。
アメリアが手を合わせ祈っていると、ガラスの割れる音がした。
その時とっさに身体を倒したのは無意識だった。
気が付くと床に身体を伏せていた。
周囲の娘たちが悲鳴を上げている。冷たい石造りの床の上でしばらく身じろいでいたが。ゆるゆると身体を起こしてあたりを見回す。
矢が落ちていた。
ガラスを突き破って飛んできたのはいいが、石壁に当たって跳ね返ったというところか。
矢が飛んできたことで周囲の娘たちは恐慌状態に陥っている。
そして駆けつけてきた僧侶たちも矢を見つけ、そして割れたガラス窓を見て右往左往しているだけだ。
アメリアは何やらわけのわからないことを叫んでいる僧侶の腕を引いた。
「ちょっと、どこかに通報しないの?」
この世界に警察はない、だとすれば騎士団あたりに通報するのだろうか。
犯罪に巻き込まれたことなど一度もないのでアメリアも自信がない。
そこに何だか屈強そうな僧侶がやってきた。
ふと歴史の授業で習った僧兵を思い出した。
どうやら宗教施設内で起きたことは宗教関係者が始末するらしい。
帯剣こそしていないが、殴られたら痛そうな棍棒を腰に差している。
アメリアとその他の娘達が個別に説明し、それを記した書類を見せられてこの通りで間違いないかと確認された。そして署名を求められる。
取り調べ書類に署名するのがこちらの流儀なのかと思いつつ、アメリアはガラスの割れる音と矢が落ちていたことしか見ていないという趣旨のことが書いてあるのを確認し署名した。
「お嬢様、大丈夫ですか」
真っ青になったマリーが駆けつけてきた。
「何だったのかしら一体」
アメリアは一気に物々しくなった周辺を見回す。
いかにも屈強そうな僧侶が矢を布袋に入れているのが見えた。
「これ、下手すれば無差別殺人なんじゃないかしら」
似たような背格好の娘たちが同じように膝をついて祈っている場所に矢を打ち込むなど、誰に当たってもおかしくない。
「恐ろしいことを言わないでください」
そんなことを言いながら、ドレスについたほこりを払う。
調書を取ったから帰っていいと僧侶に言われ、アメリアはその建物を出た。
雪のように真っ白な石を積み上げたその建物は、周囲の景色から浮き上がっている。
市街地に不釣り合いなほど濃い緑の木々に囲まれて堂々と鎮座する建物はアメリアの家何件分だろうとくるたびに思う。
別にこの世界の神様を信じているわけではないが。もともと日本の神仏にもそれほど敬虔な祈りをささげていたわけでもない。
かといってキリスト教徒でもない何となく教の信者という日本人にありがちな宗教間の持ち主だったので、神様はとりあえず拝んでおけというのが方針といういい加減さだった。
僧侶が何人かたたずんでいる。この宗派の僧侶は剃髪しているので日本の寺のような気がした。
いくばくかの献金を門前の僧侶に渡し、浮彫の施された祭壇前に膝をつき聖人像といわれるいかにも厳めしいスキンヘッドのおじいさんの像に向かって祈った。
周りには同じように祈っている娘たちが多い。
困ったときは神頼み。婚活祈願で若い娘はよく祈りに来るらしい。
アメリアが手を合わせ祈っていると、ガラスの割れる音がした。
その時とっさに身体を倒したのは無意識だった。
気が付くと床に身体を伏せていた。
周囲の娘たちが悲鳴を上げている。冷たい石造りの床の上でしばらく身じろいでいたが。ゆるゆると身体を起こしてあたりを見回す。
矢が落ちていた。
ガラスを突き破って飛んできたのはいいが、石壁に当たって跳ね返ったというところか。
矢が飛んできたことで周囲の娘たちは恐慌状態に陥っている。
そして駆けつけてきた僧侶たちも矢を見つけ、そして割れたガラス窓を見て右往左往しているだけだ。
アメリアは何やらわけのわからないことを叫んでいる僧侶の腕を引いた。
「ちょっと、どこかに通報しないの?」
この世界に警察はない、だとすれば騎士団あたりに通報するのだろうか。
犯罪に巻き込まれたことなど一度もないのでアメリアも自信がない。
そこに何だか屈強そうな僧侶がやってきた。
ふと歴史の授業で習った僧兵を思い出した。
どうやら宗教施設内で起きたことは宗教関係者が始末するらしい。
帯剣こそしていないが、殴られたら痛そうな棍棒を腰に差している。
アメリアとその他の娘達が個別に説明し、それを記した書類を見せられてこの通りで間違いないかと確認された。そして署名を求められる。
取り調べ書類に署名するのがこちらの流儀なのかと思いつつ、アメリアはガラスの割れる音と矢が落ちていたことしか見ていないという趣旨のことが書いてあるのを確認し署名した。
「お嬢様、大丈夫ですか」
真っ青になったマリーが駆けつけてきた。
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「これ、下手すれば無差別殺人なんじゃないかしら」
似たような背格好の娘たちが同じように膝をついて祈っている場所に矢を打ち込むなど、誰に当たってもおかしくない。
「恐ろしいことを言わないでください」
そんなことを言いながら、ドレスについたほこりを払う。
調書を取ったから帰っていいと僧侶に言われ、アメリアはその建物を出た。
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