闘えホワイト君

学校ではクラブより所属

　位置エネルギーはある。そう塔のてっぺんから落とした小石が当たっただけで人は死ぬのだ。
　当たり前だが塔のてっぺんから落ちてもやっぱり人は死ぬ。
　そう高いところは危険なのだ。ましてや高速飛行。これは死ぬ確実に死ぬ。
　僕は今迫り来る死の予感におびえていた。
　このまま部屋に引きこもっていたいのだがそれでも今までの生活の習慣でせっかく合格した学校に行く準備を始めていた。
　制服に着替えネクタイを締めた。
　パンとミルクだけの朝食を口にした。
　現在学校に行く準備をしているだけで偉いと思ってほしい。とてもじゃないが手の込んだ料理を作る気力はない。
　長方形の敷地いっぱいに建った家は道路に面した場所に玄関があり、鍵型に曲がった形になって開いた空間に小さな庭がある。
　一階は台所と浴室やトイレなどの水回りが集中したや場所と小さな部屋が二つ。
　二階には僕の寝室兼勉強部屋にしている部屋が一つだけ。
　僕一人で使うには贅沢すぎる空間。
　玄関で戸締りをしていると臨家の奥様が挨拶をしてくれた。
　ゆるいウエーブのかかった髪を後ろでまとめている。
　ややぽっちゃりとして、笑顔になると目が細く糸のようになる。
　穏やかな笑顔に見送られて僕も軽く会釈して学校に急いだ。
　港から離れ少し高台になった場所に学校があった。思ったより大きな建物だ。赤茶色の煉瓦造りの校舎に僕は向かって行く。
　僕は途中編入という形になっていた。担当教諭だという人物に紹介を受け教室に案内された。
　がっちりとした体格に後ろで結わえた長い黒髪。がっちりと下あご。すべてががっちりという言葉で表せる人だった。
　笑いさざめく少女たちの声が聞こえた。僕の入る教室からだろうか。だが教師が扉を開けると途端に静かになった。
「転入生のラリー・ホワイト君だ」
　教師がそう僕の名前を黒板に書き記す。
「先生、ラリー君の所属は決まったんですか」
　クラブ活動のことだろうか。
　僕が怪訝に思っていると教師が僕の腕をつかんだ。そして僕の腕にはまっているブレスレットを確認する。
　そして、ブレスレットにはまっている石の色を確認した。
　ブレスレットは白っぽい色合いの金属だ、波打つような曲線で飾られている。白っぽい金属に白い石は目立たないので最初にはその石の存在に気づかなかった。
「航空隊だな」
　僕が怪訝そうな顔をしているので教師は教えてくれた。
「白兵戦隊は黒、海兵隊は青、航空隊は白、そして砲兵は赤の石がはまっているんだ」
　お隣の奥様は赤い医師のブレスレットをつけていたらしい。ブレスレットの存在はわかっていたが石は見えなかった。
「ああ、うちもそうだよ」
　栗色の髪を二つに分けて結んだくりくりした目の少女がうれしそうに言った。
「ああ、そんな感じだよな、航空隊って細い奴が多いし」
　口々にそう言っている同級生たち。当然すでに実践経験者だ。
　あの時僕が何もできずその場に立ち尽くしていた時も彼らは戦っていいたんだろう。
　この街を離れることはできない。死ぬか誰か身代わりを立てるまで。僕は腕のブレスレットを呪いのように見た。