彼女は呪われている

karon

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無造作な彼女

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 私は徒歩で駅まで歩くことを覚悟していた。
 私がそのまま歩きだそうとしたとき彼女の姿を見つけた。
 彼女はあの男をお供に引き連れていた。ここは結構屋敷の中からは裏手だ、どうしてこんな場所に彼女が来たのだろうか。
「ジュディ、これからお茶にしましょう、そちらも」
 彼女は邪気のない笑みを浮かべている。
 私はそろそろと後ずさった。
「申し訳ありませんが所用ができて帰らなければならなくなりまして」
 私は噓の口上を述べた。
 私はさっさとこの場所から、そして彼女から離れたい、本能的な何かに突き動かされつつそれを押し隠して笑って見せた。
 そして背後にはもう二人いた。
 犬の死骸を見つけた時あった夫婦だ。
 二人はどこか満ち足りた笑みを浮かべている。
「どうしたのよ」
 ジュディは顔を引きつらせて二人を見ていた。
「ねえ、二人とも」
 ジュディは二人に縋りついた。二人は笑みを浮かべたままジュディに話しかけた。
「やっとわかったんです」
 私はその顔がまるで笑みの形をかたどった仮面のように見えた。
「この人は素晴らしい、ずっと間違っていたのだと」
 夫人はそう言った。その言葉を信じて疑わない顔だった。
「何を言っているの、貴女の親戚の伯父さんが本来貴女に残すはずの財産を全部この女に残してしまって、ずっと怨んでいるって」
 ジュディは追い詰められた顔でその婦人を見ていた。
「だって、伯父様は正しい判断をしたのよ、彼女こそそれを受け取るにふさわしい」
「あんたのほうが乗り気だったじゃない。私が来る前に犬を殺したのもあんたと旦那でしょう」
「ええ、でもあの犬は彼女の物ではないわ、それはよかった」
 ああ、なるほどアリバイ工作。最初にジュディが留守にしている間に犬を共犯者が殺す、そして共犯者がアリバイを確保している間にジュディが猫を殺したというわけか。
 そして毒薬を確保して。
 そして私は周囲を見回す、これだけの財産だ。分け前も十分確保できただろう。
「お前のせいだ」
 ふと気が付いた。どうしてこの男はこの状況を黙って見ているのだ。
 私は彼女に連れられている男はどこか焦点のあっていない目をしてその場にいる。
 ジュディはぎりぎりと歯ぎしりすると両手をかぎづめのように捻じ曲げとびかかった。
「殺してやる」
 彼女の喉に手をかけようとしたときジュディはぴたりと止まる。
 そして見る見るうちに穏やかな笑みを浮かべた。
 私はその一部始終を見ていた。もしかしたら彼女の呪いとは。
 彼女に対して愛であれ憎悪であれ強い感情を持てばそのまま彼女に絡めとられる。
 ジュディは首を絞めかけたことを忘れたかのように心からの笑みを浮かべ彼女に謝罪する。
 私は足早にこの場を立ち去った。
 とにかく彼女から逃げなければ、彼女に絡めとられる前に。
 恐怖を押し殺す。彼女に対する恐怖すら彼女に対する力になる。
 悲鳴が聞こえる。彼女に取り込まれ死した後やっと正気に戻った。そんな考えが私の脳裏をよぎったがそんなことは考えない。
 だってこれは幻聴だから。
 疲労すら忘れて私は駅まで歩きぬいた。
 戻った後私は少しだけ彼女のことを調べた。彼女が最初に相続した財産は大したものではなかった。私の相続した財産より少ない。しかしそれなりに資産のある美女ということで彼女に興味を持つものは多かったらしい。
 彼女の力は呪い。周りも彼女自身も呪われている。彼女にとって周りの人間は餌食に過ぎない。彼女はまるで食虫植物のように無造作に餌食を食らう。
 だから私は彼女のことを考えない。

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