風に溶けた詩

karon

文字の大きさ
上 下
16 / 18

破壊

しおりを挟む
 メイフェザーは唐突に表れた少女をしばらく見つめていた。
 褐色の髪を肩のところで切りそろえた子供の着るエプロンドレスを身に着けた少女は歌っていた。
 あの歌は、あのタイプされた紙に記された歌だ。
「今度こそ、やっと」
 デイジーは小さな女の子だ、ちょっと脅せばいくらでもいうことを聞かせられる。
 だがいきなり複数の男女がデイジーの背後から湧き出した。
 その数はとても小さな女の子の背後に隠れきれる人数ではなかった。
 そしてその男女は歌い始めた。それはすでに滅びた民族の歌。滅びた言葉で歌われる歌。
 その歌う男女は徐々にメイフェザーに近づいてきた。
 メイフェザーはしばらくその男女を見ていた。
 それにようやくメイフェザーは身の危険を感じた。
 デイジーはただ歌い続けているだけだ。
 唐突に思い出す。
「デイジーまさかデイジーだと?」
 メイフェザーはとっさに離れようとした。しかし轟音とともに地面に投げ出された。
 倒れたメイフェザーにデイジーはゆっくりと近づいてきた。
「お前は、デイジーなのか」
 デイジーの姿がゆっくりと薄れていく。そして近づいてくるその背後にいる者たち。
 何かが崩れていくそれが何かわからない、しかしそれは破滅の音。

 バドコックの館でディアレストとリガードがその毛を逆立てた。
 しかし大騒ぎしている大人たちはそれに気づかない。それに目を止めたのはエイミーだけだった。
 エイミーは身体を丸くしてあたりを威嚇する猫を困ったように見ていた。
「何をしているのよ」
 メアリーが猫を見ているエイミーをつつく。
「猫にかまっている場合じゃないのよ」
 メアリーとエイミー以外の人間は文字通り右往左往している。
「森の中を探索しなければ」
 父親が頭抱えながら呻く。
「村から人手を集めてきてちょうだい」
 母親がヒステリックに叫んだ。
 アリスがメイフェザーに追いかけられて森に逃げ込んだ、それを見ていたエイミーがマティルダに伝えた後は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
 庭師がメイフェザーの連れの女の腕をつかんで逃げられないようにしている。
「私は何も知らないわ」
 女はただただそう繰り返すだけだ。メイフェザーがここまで暴走するとは思っていなかったのだ。
 そして唐突に地面が揺れた。
 唐突に始まった天変地異にその場にいた全員が悲鳴を上げた。
 とてつもない破壊音が耳をつんざき建物からかけらがパラパラと落ちた。
「アリス」
 母親は絶望したようにつぶやいた。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

伯爵様は色々と不器用なのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:135,930pt お気に入り:2,642

国家の危機は意外に身近にありました。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:77

陰と陽の物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:3

【完結】さよならのかわりに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,808pt お気に入り:4,431

闘えホワイト君

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:1

処理中です...