恋の無駄騒ぎ

karon

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大十五章

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「マーゴット。ちょっとビアトリスを呼んできてほしいの」
「かしこまりました」
 ヒローインはそうして少しだけ眉をひそめた。
 少々ためらいを感じないわけではない、しかし将来を考えればこれはビアトリスのためだ。自分にそう言い聞かせつつビアトリスは再び口を開いた。
「ビアトリスはペドロ様とクローディス様と一緒にいらっしゃると思うわ、そうしたら貴女の噂で持ち切りだと囁いておくれ」
 マーゴットは怪訝そうな顔をした。別にビアトリスに噂されるようなことなどなかったからだ。
「いいから言われたとおりにおっしゃいな、立ち聞きした噂だと」
 ヒローインは静かに威厳を装った。
 これから嫁ぐ身だ、騎士の妻になるということは威厳を持たねばならないということ。
「よいこと? ビアトリスには私の言うとおりにしてちょうだいビアトリスにどうしても言ってほしいことがあるの」
「あの、どういうことで?」
「ビアトリスに、中庭のあの美しいスイカズラのある場所に行くように言ってほしいのよ、そうしたらその噂の意味が分かるからと、とても重要なことだからどうあってもビアトリスは聞かなければならないの、わかった?」
「かしこまりました」
 マーゴットが立ち去るとヒローインはそっとため息をついた。
「アリシラ、ビアトリスが帰ってきたら私の言うとおりに言うのよ、べねディックさんの噂をしていてちょうだい。ベネディクトさんのことをとにかく褒めたたえてちょうだい。嘘でも本当でもいいからビアトリスに良く言い聞かせるの、わかった」
 アリシラは怪訝そうな顔をしていたが真剣なヒローインの顔を見て何とか頷いた。そしてヒローインは両手を胸で組んだ。
「友を偽ることになるけれど、でもこれは友の幸せのためだもの神様だって許してくださるわ、私たちは立派な夫を持って幸せになるの、二人ともね」
 そう自分に言い聞かせるように呟く。
「そうなるとよろしいですねえ」
 アリシラは何となく事情に見当がついた。成功するかどうかは別として初めてのたくらみごとに主は真剣に取り組んでいるようだった。

 ヒローインは耳をそばだてていた。
「ビアトリスの足音だわ、アリシラ、今よ」
「気をせいてはいけません、ヒローイン様落ち着いてください、狩りは冷静さを失ったら負けですよ」
 アリシラは流行る主を抑えた。
「獲物に気取られず確実に罠に落とし込む、一切の気を抜かずなおかつ普段通りにするのですよ」
「胸がどきどきしてきたわ」
「大丈夫、必ずや獲物に餌を加えさせて見せましょう」
「獲物に餌を加えさせるためにちょっと声を大きくしましょう、確実にあの人の耳に入るように」
 ヒローインはひそめていた声を少しだけ甲高くした。
「驚いたわねえあの人」
「ええ、まことに」
「まさかあの人があんなことを考えていたなんてアリシラは気が付いていた?」
「いいえ、まさかあまりに意外で」
「でも本当よ」
「ベネディクトさんがビアトリス様に愛をささげるつもりなんてちょっとどころではなく驚きですよ」
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