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世界観、導入
―― むかしむかしあるところに ーー③
しおりを挟む「強盗だ! 誰か助けてくれ!」
突然わたし達の前方から初老の男の人の悲鳴。
命からがら、といったふうに一軒の大きな建物から転がり出た小太りのおじさん。そのあとに続くように、ぞろぞろと……ぞ、ぞろぞろと、絶対にいい人じゃなさそうな大勢の男達の群勢が、雑多な大通りへと繰り出していく。
おじさんと男達が出てきたその建物はどうやら宿屋らしい。けど、どう見ても彼らがこの宿屋をちゃんと利用したようには見えない、というか、おじさんが、ごうとう、って言ってたし。
無差別に周囲を破壊しながら大通りを駆ける男達。
男達の手には剣や槍に大槌、とにかく色んな物騒な物を持っていた。少しでも近づこうものならば直ちにその餌食になってしまう。
「人数が多すぎる! あれはただの強盗じゃない、もしかして盗賊団か!?」
今まで聞いたこともないケヴィンの怒号じみた叫び声に、これがただならない事態なんだと身構える。
「逃げるんだ、リイサ、キティ!」
え、な、何? 何が起きてるの!?
ケヴィンの叫び声に反して、突然の異常事態にわたしは訳もわからず大通りでつっ立ったまま。そんな間抜けなわたしを逃げる通行人は容赦なく突き飛ばす。「きゃっ」
さっきまで和やかに過ごしていたひと達が、今は恐慌に駆られて我先にと他人を押し退けて逃げ惑っている。混乱で大通りはパニック状態になっていた。
わたしのことなんて見ているはずもない群衆のその必死で殺気立ってすらいる目つきがわたしをさらに硬直させる。
「キティ!」
ケヴィンが叫び声を上げる。でも、ケヴィンはもうすでに他の男と剣を交えていて自分のことで手一杯。絶対に、やれやれ仕方ない、いっちょ退治してやるかな、なんて余裕のある雰囲気じゃない。
道のど真ん中で危機感なく間抜けにつっ立っていたのはわたしだけで、混乱する群衆に飲み込まれたリイサも激戦の中心地にいるわたしを助けに来れないでいた。
どうして動けないのかわからない、わたしはそこにしりもちをついているだけで怪我なんてしちゃいない、早くその場から逃げなくちゃいけないのに。逃げなきゃ、逃げなきゃ。
でも、でも、そんなわたしの意思に反して、どうしてかわたしの身体はちっとも動かない。男達がこっちに向かってくるのをただ見上げていることしかできなかった。
「あ、あ」喉はカラカラ、声も出せない。
その毛むくじゃらで大柄な男は、その場にへたり込んで動けないわたしを見下ろす。にやり、その伸ばし放題の髭の下で何か気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「へへ、おい、戦利品がもう一つ増えたぞ!」
「きゃッ」
男の腕が乱暴にわたしの右腕を掴む。まるで小枝でも掴むような男の手は大きくて、そして、わたしの腕はあまりにも細かった。
「い、いや」抵抗は虚しく。
「コイツは中々の上物だ、欲しがるヤツは多そうだ。その前におれらも楽しめそうだしな」
「い、いたい! や、やめ、」
右腕をがっしり掴まれて無理矢理引きずられる。いくらもがいても振りほどけやしない。痛い、この人、さっきからわたしを物か何かと勘違いしているの!?
「おい、抵抗するな、そのかわいいお顔がひどいことになるぞ」
「ひッ」
なおも暴れるわたしの頬をぐいっと強く掴む。右手は無抵抗に上げられて、男はその髭面をわたしに近づけた。生臭いイヤな息がわたしに吹きかけられて、わたしを物としか見ていない眼差しに射すくめられて、わたしの身体はびくりと硬直してしまう。
「冷たいな、お前。もしかして、スノーエルフか?」
髭面男はニヤニヤしながら、わたしの身体を軽々と持ち上げ肩に担ぐ。わたしの身体はホントに物になってしまったみたいになぜか全然動かなくて。それでも、ぽかぽかと男の肩をぶん殴って必死の抵抗。
「おとなしくしてろ、スノーエルフが街にいるなんて珍しいんだからよ」
「放して! わたし、違うわ!」
だけど、わたしの攻撃なんて、じたばた無駄な足掻きなだけでさっぱり全く効いちゃいない。助けて、こんなのまるっきりバッドエンドじゃない!
わたし、まだ何もしていないのに!
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