9 / 235
世界観、導入
―― はじまりはじまり ーー②
しおりを挟む
それでも、ケヴィンは【透明幻想・錯綜少女基底】という言葉に何か引っ掛かるものがあるのか少し無精髭が伸びた顎を右手でしきりにこすっている。きっと何かを考えているときの癖なのかな。
「うーん、それは、“始源拾弐機関”みたいだ」
「何それ?」
「ちょっとしたおとぎ話だよ」
そしてケヴィンは、ちょっとだけ天井を見つめてから話し始める。
「この世界には、世界の存在定義を司る“始源拾弐機関”という存在があってだな、たとえば【天変界位】は世界を変えてしまうとても大きな巨人のお話。そして、【論議主】というのはこの星を貫くように突き刺さっている伝説の槍のことらしい。この世界の生死を司っているのは最古のドライアドだといわれているし、遠くのどこかの国のお城に隠されているといわれている黒いハープのお話や、世界中を走り回る暴走列車、なんてお話もあるな」
矢継ぎ早に“始源拾弐機関”のことを話すケヴィンはとても楽しげで。その横でリイサはやれやれと苦笑している。
そんなふたりの笑顔につられて、わたしも思わず笑みを浮かべてしまう。だって、こんなにもワクワクする物語達があるなんて信じられる? わたしの創った世界も捨てたもんじゃないわね! ね!?
「それでそれで? それらはどんなお話なのかしら? 他のお話は? 12のお話があるんじゃないの? もったいぶらないで聞かせてちょうだい! わたし、気になります!」
ついついぐいっと身を乗り出してケヴィンに詰め寄ってしまう。
不本意ながらおでこ同士がぶつかってしまいそうな距離感、ケヴィンは少し仰け反って何故だか赤面しながら、キラキラと好奇心に輝くわたしの虹色の瞳から顔を逸らす。……ん? その突き刺すようなリイサの冷たい眼差しは、な、何?
「ま、まあ、オレは考古学者じゃないからな、いくつかの話は忘れちまってるよ。いや、もしかしたらはじめから存在しないのかもな」
「ワタシもさっぱり。というか、むしろケヴィンは詳しい方よ」
「そうなの?」
「こんなに名前を知ってるなんてよほどの物好きよ。あ、そういえば、小さいとき、もしかしたら最古のドライアドがこの囁き森にいるかも、って探しに行って迷子になったことがあったわよね」
「と、とにかく、この世界は“始源拾弐機関”によって創られた、そんなむかしむかしのおとぎ話だよ」
……“始源拾弐機関”。一体何なんだろう、それは。
よくわからないそれらのおとぎ話が、わたしが創った世界だからわたしと似たような名前なのか、もしくはわたしと同じようにこの世界と関係があるのか。
なんとなくそれを知らなくちゃいけないような気がした。
世界の秘密を解き明かす物語、まるでドキドキワクワクの冒険譚みたいで、うん、そんなお話も悪くないわね。
「そうだ、キティ、君にあてがなくて、そして、何者か思い出せないなら、このおとぎ話を調べてみるのもいいんじゃないか? 王立魔法図書館なら何か見つかるかもしれないぞ」
「図書館?」
「そう、世界中の本がたくさん集まっているところさ。そこに行けば大抵のことはわかるよ」
本が集まる場所か。ラフィーナだって、真っ白な本なんてありはしない、って言ってたし、きっと、わたし、という存在の白紙を埋めてくれるヒントがあるかもしれない。
それに、この胸の高鳴りからするに、ふふ、どうやらわたしも本を読むことには興味があるみたいだった。
だって、本なんて読んだこともないし、まだ行ったこともない図書館なのに、思いを馳せてちょっとワクワクしてるもの。
「ねえ、ワタシ達でキティちゃんを連れて行ってあげましょうよ。女の子の不慣れな森の独り歩きは危険だし」
「それはそうだけど村のみんなが心配だな」
「心配ないわよ、最近は魔物も少ないし」
「うーん」
「ケヴィンだって、空から降ってきた不思議な少女、キティちゃんとの運命の出会いにワクワクしてるんでしょ?」
「でも、まだ魔物は近くにいるんだ、明日すぐってわけにはいかないぞ?」
そんなふたりの茶番を沈んでいく思考の中でぽーっと聞き流しながら、わたしはいつの間にか完全に意識を手放していた。実はこれが初めての睡眠だと気付いたのは次の日のことだった。
ーーEvery adventure requires a first step.
「うーん、それは、“始源拾弐機関”みたいだ」
「何それ?」
「ちょっとしたおとぎ話だよ」
そしてケヴィンは、ちょっとだけ天井を見つめてから話し始める。
「この世界には、世界の存在定義を司る“始源拾弐機関”という存在があってだな、たとえば【天変界位】は世界を変えてしまうとても大きな巨人のお話。そして、【論議主】というのはこの星を貫くように突き刺さっている伝説の槍のことらしい。この世界の生死を司っているのは最古のドライアドだといわれているし、遠くのどこかの国のお城に隠されているといわれている黒いハープのお話や、世界中を走り回る暴走列車、なんてお話もあるな」
矢継ぎ早に“始源拾弐機関”のことを話すケヴィンはとても楽しげで。その横でリイサはやれやれと苦笑している。
そんなふたりの笑顔につられて、わたしも思わず笑みを浮かべてしまう。だって、こんなにもワクワクする物語達があるなんて信じられる? わたしの創った世界も捨てたもんじゃないわね! ね!?
「それでそれで? それらはどんなお話なのかしら? 他のお話は? 12のお話があるんじゃないの? もったいぶらないで聞かせてちょうだい! わたし、気になります!」
ついついぐいっと身を乗り出してケヴィンに詰め寄ってしまう。
不本意ながらおでこ同士がぶつかってしまいそうな距離感、ケヴィンは少し仰け反って何故だか赤面しながら、キラキラと好奇心に輝くわたしの虹色の瞳から顔を逸らす。……ん? その突き刺すようなリイサの冷たい眼差しは、な、何?
「ま、まあ、オレは考古学者じゃないからな、いくつかの話は忘れちまってるよ。いや、もしかしたらはじめから存在しないのかもな」
「ワタシもさっぱり。というか、むしろケヴィンは詳しい方よ」
「そうなの?」
「こんなに名前を知ってるなんてよほどの物好きよ。あ、そういえば、小さいとき、もしかしたら最古のドライアドがこの囁き森にいるかも、って探しに行って迷子になったことがあったわよね」
「と、とにかく、この世界は“始源拾弐機関”によって創られた、そんなむかしむかしのおとぎ話だよ」
……“始源拾弐機関”。一体何なんだろう、それは。
よくわからないそれらのおとぎ話が、わたしが創った世界だからわたしと似たような名前なのか、もしくはわたしと同じようにこの世界と関係があるのか。
なんとなくそれを知らなくちゃいけないような気がした。
世界の秘密を解き明かす物語、まるでドキドキワクワクの冒険譚みたいで、うん、そんなお話も悪くないわね。
「そうだ、キティ、君にあてがなくて、そして、何者か思い出せないなら、このおとぎ話を調べてみるのもいいんじゃないか? 王立魔法図書館なら何か見つかるかもしれないぞ」
「図書館?」
「そう、世界中の本がたくさん集まっているところさ。そこに行けば大抵のことはわかるよ」
本が集まる場所か。ラフィーナだって、真っ白な本なんてありはしない、って言ってたし、きっと、わたし、という存在の白紙を埋めてくれるヒントがあるかもしれない。
それに、この胸の高鳴りからするに、ふふ、どうやらわたしも本を読むことには興味があるみたいだった。
だって、本なんて読んだこともないし、まだ行ったこともない図書館なのに、思いを馳せてちょっとワクワクしてるもの。
「ねえ、ワタシ達でキティちゃんを連れて行ってあげましょうよ。女の子の不慣れな森の独り歩きは危険だし」
「それはそうだけど村のみんなが心配だな」
「心配ないわよ、最近は魔物も少ないし」
「うーん」
「ケヴィンだって、空から降ってきた不思議な少女、キティちゃんとの運命の出会いにワクワクしてるんでしょ?」
「でも、まだ魔物は近くにいるんだ、明日すぐってわけにはいかないぞ?」
そんなふたりの茶番を沈んでいく思考の中でぽーっと聞き流しながら、わたしはいつの間にか完全に意識を手放していた。実はこれが初めての睡眠だと気付いたのは次の日のことだった。
ーーEvery adventure requires a first step.
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる