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世界観、導入
―― はじまりはじまり ーー②
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それでも、ケヴィンは【透明幻想・錯綜少女基底】という言葉に何か引っ掛かるものがあるのか少し無精髭が伸びた顎を右手でしきりにこすっている。きっと何かを考えているときの癖なのかな。
「うーん、それは、“始源拾弐機関”みたいだ」
「何それ?」
「ちょっとしたおとぎ話だよ」
そしてケヴィンは、ちょっとだけ天井を見つめてから話し始める。
「この世界には、世界の存在定義を司る“始源拾弐機関”という存在があってだな、たとえば【天変界位】は世界を変えてしまうとても大きな巨人のお話。そして、【論議主】というのはこの星を貫くように突き刺さっている伝説の槍のことらしい。この世界の生死を司っているのは最古のドライアドだといわれているし、遠くのどこかの国のお城に隠されているといわれている黒いハープのお話や、世界中を走り回る暴走列車、なんてお話もあるな」
矢継ぎ早に“始源拾弐機関”のことを話すケヴィンはとても楽しげで。その横でリイサはやれやれと苦笑している。
そんなふたりの笑顔につられて、わたしも思わず笑みを浮かべてしまう。だって、こんなにもワクワクする物語達があるなんて信じられる? わたしの創った世界も捨てたもんじゃないわね! ね!?
「それでそれで? それらはどんなお話なのかしら? 他のお話は? 12のお話があるんじゃないの? もったいぶらないで聞かせてちょうだい! わたし、気になります!」
ついついぐいっと身を乗り出してケヴィンに詰め寄ってしまう。
不本意ながらおでこ同士がぶつかってしまいそうな距離感、ケヴィンは少し仰け反って何故だか赤面しながら、キラキラと好奇心に輝くわたしの虹色の瞳から顔を逸らす。……ん? その突き刺すようなリイサの冷たい眼差しは、な、何?
「ま、まあ、オレは考古学者じゃないからな、いくつかの話は忘れちまってるよ。いや、もしかしたらはじめから存在しないのかもな」
「ワタシもさっぱり。というか、むしろケヴィンは詳しい方よ」
「そうなの?」
「こんなに名前を知ってるなんてよほどの物好きよ。あ、そういえば、小さいとき、もしかしたら最古のドライアドがこの囁き森にいるかも、って探しに行って迷子になったことがあったわよね」
「と、とにかく、この世界は“始源拾弐機関”によって創られた、そんなむかしむかしのおとぎ話だよ」
……“始源拾弐機関”。一体何なんだろう、それは。
よくわからないそれらのおとぎ話が、わたしが創った世界だからわたしと似たような名前なのか、もしくはわたしと同じようにこの世界と関係があるのか。
なんとなくそれを知らなくちゃいけないような気がした。
世界の秘密を解き明かす物語、まるでドキドキワクワクの冒険譚みたいで、うん、そんなお話も悪くないわね。
「そうだ、キティ、君にあてがなくて、そして、何者か思い出せないなら、このおとぎ話を調べてみるのもいいんじゃないか? 王立魔法図書館なら何か見つかるかもしれないぞ」
「図書館?」
「そう、世界中の本がたくさん集まっているところさ。そこに行けば大抵のことはわかるよ」
本が集まる場所か。ラフィーナだって、真っ白な本なんてありはしない、って言ってたし、きっと、わたし、という存在の白紙を埋めてくれるヒントがあるかもしれない。
それに、この胸の高鳴りからするに、ふふ、どうやらわたしも本を読むことには興味があるみたいだった。
だって、本なんて読んだこともないし、まだ行ったこともない図書館なのに、思いを馳せてちょっとワクワクしてるもの。
「ねえ、ワタシ達でキティちゃんを連れて行ってあげましょうよ。女の子の不慣れな森の独り歩きは危険だし」
「それはそうだけど村のみんなが心配だな」
「心配ないわよ、最近は魔物も少ないし」
「うーん」
「ケヴィンだって、空から降ってきた不思議な少女、キティちゃんとの運命の出会いにワクワクしてるんでしょ?」
「でも、まだ魔物は近くにいるんだ、明日すぐってわけにはいかないぞ?」
そんなふたりの茶番を沈んでいく思考の中でぽーっと聞き流しながら、わたしはいつの間にか完全に意識を手放していた。実はこれが初めての睡眠だと気付いたのは次の日のことだった。
ーーEvery adventure requires a first step.
「うーん、それは、“始源拾弐機関”みたいだ」
「何それ?」
「ちょっとしたおとぎ話だよ」
そしてケヴィンは、ちょっとだけ天井を見つめてから話し始める。
「この世界には、世界の存在定義を司る“始源拾弐機関”という存在があってだな、たとえば【天変界位】は世界を変えてしまうとても大きな巨人のお話。そして、【論議主】というのはこの星を貫くように突き刺さっている伝説の槍のことらしい。この世界の生死を司っているのは最古のドライアドだといわれているし、遠くのどこかの国のお城に隠されているといわれている黒いハープのお話や、世界中を走り回る暴走列車、なんてお話もあるな」
矢継ぎ早に“始源拾弐機関”のことを話すケヴィンはとても楽しげで。その横でリイサはやれやれと苦笑している。
そんなふたりの笑顔につられて、わたしも思わず笑みを浮かべてしまう。だって、こんなにもワクワクする物語達があるなんて信じられる? わたしの創った世界も捨てたもんじゃないわね! ね!?
「それでそれで? それらはどんなお話なのかしら? 他のお話は? 12のお話があるんじゃないの? もったいぶらないで聞かせてちょうだい! わたし、気になります!」
ついついぐいっと身を乗り出してケヴィンに詰め寄ってしまう。
不本意ながらおでこ同士がぶつかってしまいそうな距離感、ケヴィンは少し仰け反って何故だか赤面しながら、キラキラと好奇心に輝くわたしの虹色の瞳から顔を逸らす。……ん? その突き刺すようなリイサの冷たい眼差しは、な、何?
「ま、まあ、オレは考古学者じゃないからな、いくつかの話は忘れちまってるよ。いや、もしかしたらはじめから存在しないのかもな」
「ワタシもさっぱり。というか、むしろケヴィンは詳しい方よ」
「そうなの?」
「こんなに名前を知ってるなんてよほどの物好きよ。あ、そういえば、小さいとき、もしかしたら最古のドライアドがこの囁き森にいるかも、って探しに行って迷子になったことがあったわよね」
「と、とにかく、この世界は“始源拾弐機関”によって創られた、そんなむかしむかしのおとぎ話だよ」
……“始源拾弐機関”。一体何なんだろう、それは。
よくわからないそれらのおとぎ話が、わたしが創った世界だからわたしと似たような名前なのか、もしくはわたしと同じようにこの世界と関係があるのか。
なんとなくそれを知らなくちゃいけないような気がした。
世界の秘密を解き明かす物語、まるでドキドキワクワクの冒険譚みたいで、うん、そんなお話も悪くないわね。
「そうだ、キティ、君にあてがなくて、そして、何者か思い出せないなら、このおとぎ話を調べてみるのもいいんじゃないか? 王立魔法図書館なら何か見つかるかもしれないぞ」
「図書館?」
「そう、世界中の本がたくさん集まっているところさ。そこに行けば大抵のことはわかるよ」
本が集まる場所か。ラフィーナだって、真っ白な本なんてありはしない、って言ってたし、きっと、わたし、という存在の白紙を埋めてくれるヒントがあるかもしれない。
それに、この胸の高鳴りからするに、ふふ、どうやらわたしも本を読むことには興味があるみたいだった。
だって、本なんて読んだこともないし、まだ行ったこともない図書館なのに、思いを馳せてちょっとワクワクしてるもの。
「ねえ、ワタシ達でキティちゃんを連れて行ってあげましょうよ。女の子の不慣れな森の独り歩きは危険だし」
「それはそうだけど村のみんなが心配だな」
「心配ないわよ、最近は魔物も少ないし」
「うーん」
「ケヴィンだって、空から降ってきた不思議な少女、キティちゃんとの運命の出会いにワクワクしてるんでしょ?」
「でも、まだ魔物は近くにいるんだ、明日すぐってわけにはいかないぞ?」
そんなふたりの茶番を沈んでいく思考の中でぽーっと聞き流しながら、わたしはいつの間にか完全に意識を手放していた。実はこれが初めての睡眠だと気付いたのは次の日のことだった。
ーーEvery adventure requires a first step.
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