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Prologue
異世界情緒ーー⑥
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「それじゃあ、【透明幻想・錯綜少女基底】っていう物語については何か知らないかしら?」
それは目の前にいる真っ白な少女のことなのよ、ここに“始源拾弐機関”がいますよ、って言ってしまいたい。そう言えたらどんなに驚かせてあげられるかしら。
でも、きっとケヴィンみたいに笑われてしまう。わたしはまだ何も知らない夢見がちな子どもで、【透明幻想・錯綜少女基底】なんて、そんな他愛もない夢のひとつだと一笑されて、はい、おしまい、で片付けられてしまう。
「なんじゃそれは。その物語をどこで聞いたんじゃ? おとぎ話か? 小さな村の伝承か? それとも、古い子守唄か?」
「わたしにもどんな物語かわからないの。でも、わたしはそれだけを知っていて、それのことを知りたいの」
「ふむ……」
でも、おじいちゃんは、わたしの話を、子どもの戯言だと笑うことはなかった。おじいちゃんは何かを考えているようで、しわだらけの顔をさらにしわだらけにして目を瞑っていた。
「その言葉、その物語に意味があるかどうかは調べてみなければわからん」
なんだか、おじいちゃんのその言葉だけで、希薄だったわたしの存在が確かに認められたような気がして、身体の真ん中の奥の方がすっと軽くなったんだ。だって、まだわたしが空白だって決まったわけじゃないんだもん。
「しかし、この歳になってもまだ胸躍るとはわし自身も驚きじゃ。なあ、エルルカよ、無知とはこんなにワクワクするものなのじゃな!」
「この国で最高顧問を務めるおじいちゃんがそれ言っちゃう?」
ずっと眉間にしわを寄せて、ちびっこが見たら泣いちゃうような難しい顔をしておきながら、おじいちゃんの声は今日聞いた中で一番大きかった。
エルルカもそんなおじいちゃんの見慣れない様子に驚いているのか、呆れているのか、思わず苦笑い。ふふ、孫としても、いい歳したおじいちゃんがウキウキしてるのはなんだか微笑ましくて可笑しいよね。
「いくつか“始源拾弐機関”の在処に関する文献は知っておる。大まかな場所ならば教えてやれるぞ、ちょっと待っとれい」
「ありがとう! それなら、さっそくわたしはこの街から旅立つよ。“始源拾弐機関”を、【透明幻想・錯綜少女基底】という物語を探す、きっとこれはそんな物語なの!」
のんびりとした物語にしよう、と思っていても、どうしてもはやる気持ちだけは抑えきれず。おじいちゃんとエルルカが資料を集めてくれている間にも、今にもこの狭い部屋の窓から飛び出してしまいそうになるのを、その場でとことこ足踏みをしてなんとか誤魔化している。
「それじゃあ、陽が沈む前に街の外門前で集合しましょう。私も“始源拾弐機関”の【透明幻想・錯綜少女基底】っていう物語が気になってきちゃった」
「え!?」
「なによー、付いて行っちゃダメ?」上目遣い、悪戯っぽいエルルカの笑み。
「そんな! もちろんいいに決まってるじゃない! エルルカが一緒だなんて、ああ、なんて素敵なのかしら!」
そうして、帰り道はおじいちゃんがくれた古ぼけた鞄に資料をパンパンに詰めながら意気揚々と。……重くて途中でエルルカが持ってくれた。で、身軽になったわたしは、なんだったらスキップまでしちゃいながらお城から出ていく。
“始源拾弐機関”についての情報収集の成果はまずまずで、だけど、そっちよりも、わたしにとっては、これから素敵な仲間と冒険ができることの方がずっとずっとうれしかったんだ。
ーー ーー
それは目の前にいる真っ白な少女のことなのよ、ここに“始源拾弐機関”がいますよ、って言ってしまいたい。そう言えたらどんなに驚かせてあげられるかしら。
でも、きっとケヴィンみたいに笑われてしまう。わたしはまだ何も知らない夢見がちな子どもで、【透明幻想・錯綜少女基底】なんて、そんな他愛もない夢のひとつだと一笑されて、はい、おしまい、で片付けられてしまう。
「なんじゃそれは。その物語をどこで聞いたんじゃ? おとぎ話か? 小さな村の伝承か? それとも、古い子守唄か?」
「わたしにもどんな物語かわからないの。でも、わたしはそれだけを知っていて、それのことを知りたいの」
「ふむ……」
でも、おじいちゃんは、わたしの話を、子どもの戯言だと笑うことはなかった。おじいちゃんは何かを考えているようで、しわだらけの顔をさらにしわだらけにして目を瞑っていた。
「その言葉、その物語に意味があるかどうかは調べてみなければわからん」
なんだか、おじいちゃんのその言葉だけで、希薄だったわたしの存在が確かに認められたような気がして、身体の真ん中の奥の方がすっと軽くなったんだ。だって、まだわたしが空白だって決まったわけじゃないんだもん。
「しかし、この歳になってもまだ胸躍るとはわし自身も驚きじゃ。なあ、エルルカよ、無知とはこんなにワクワクするものなのじゃな!」
「この国で最高顧問を務めるおじいちゃんがそれ言っちゃう?」
ずっと眉間にしわを寄せて、ちびっこが見たら泣いちゃうような難しい顔をしておきながら、おじいちゃんの声は今日聞いた中で一番大きかった。
エルルカもそんなおじいちゃんの見慣れない様子に驚いているのか、呆れているのか、思わず苦笑い。ふふ、孫としても、いい歳したおじいちゃんがウキウキしてるのはなんだか微笑ましくて可笑しいよね。
「いくつか“始源拾弐機関”の在処に関する文献は知っておる。大まかな場所ならば教えてやれるぞ、ちょっと待っとれい」
「ありがとう! それなら、さっそくわたしはこの街から旅立つよ。“始源拾弐機関”を、【透明幻想・錯綜少女基底】という物語を探す、きっとこれはそんな物語なの!」
のんびりとした物語にしよう、と思っていても、どうしてもはやる気持ちだけは抑えきれず。おじいちゃんとエルルカが資料を集めてくれている間にも、今にもこの狭い部屋の窓から飛び出してしまいそうになるのを、その場でとことこ足踏みをしてなんとか誤魔化している。
「それじゃあ、陽が沈む前に街の外門前で集合しましょう。私も“始源拾弐機関”の【透明幻想・錯綜少女基底】っていう物語が気になってきちゃった」
「え!?」
「なによー、付いて行っちゃダメ?」上目遣い、悪戯っぽいエルルカの笑み。
「そんな! もちろんいいに決まってるじゃない! エルルカが一緒だなんて、ああ、なんて素敵なのかしら!」
そうして、帰り道はおじいちゃんがくれた古ぼけた鞄に資料をパンパンに詰めながら意気揚々と。……重くて途中でエルルカが持ってくれた。で、身軽になったわたしは、なんだったらスキップまでしちゃいながらお城から出ていく。
“始源拾弐機関”についての情報収集の成果はまずまずで、だけど、そっちよりも、わたしにとっては、これから素敵な仲間と冒険ができることの方がずっとずっとうれしかったんだ。
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