この世界はわたしが創ったんだから、わたしが主人公ってことでいいんだよね!? ~異世界神話創世少女 vs 錯誤世界秩序機能~

儀仗空論・紙一重

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――    【飢餓之太刀・饗宴姫】     ――②

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「そんな!」

 ほとんど反射だった。叫ぶとともに思わず飛び出してしまう。対峙なんてしていられなかった。それが明らかに挑発で、敵の懐に飛び込むことがどんなに危険なのかも顧みずに。

 せっかく見つけたのに、また約束を果たせなかった。

 無造作に投げ捨てられる小さな身体。

 森の精霊、ドライアドの特徴である緑色に生い茂る植物の髪が、ところどころ茶色になっている。色とりどりの草花で作られていたであろうドレスが、今は色を失い始めている。そ、そんな、急速に生命が枯れている。

 覆いかぶさるように少女の身体を抱くと、ボロボロの少女は苦しそうに小さく呻いた。良かった、彼女はまだ生きている。ひどく傷付いてはいるけど、まだ、この子は、この森は死んでない。なんとか、なんとかして彼女を助けなきゃ。

 名無しの観測機が言っていたこの少女こそが。

 わたしが抱きかかえられほどに小さな、このドライアドの少女が【飢餓之太刀・饗宴姫】?

 転生者でなくても片手で縊られてしまいそうなほどに。

 あまりにも非力な、か弱き存在。

 そして、キッと睨み上げる視線の先には、そんな少女をいともたやすく殺してしまえる腐れ外道。

 少女を投げ捨てた何者かは、わたしを見下ろしたまま。

「なんだ、その機械の羽、天使の真似事でもしてんのか?」

 どうやら無意識に機構翼を展開していたみたいだ。腰の辺りからばさりと広がりわたし達を守る鋼の翼越しに聞いた、その嘲るような口調に覚えはなく、だけど、その声には聞き覚えがあった。

「そ、そんな、アヴァリス、アナタ、どうしてここに……」

 彼の正体は深くフードを被っていてこの位置で見上げなければわからなかった。あの爽やか青年気取りだった面影はまるでない。もはや、自身を取り繕う笑顔すら貼り付けていない。

 その表情は苦痛に歪んで、そして、そのまま元に戻らなくなってしまっている。乱れた金髪と顔中に刻まれた深い皺と、それに、自分で傷付けたのだろうか顔面の至る所に刃による無数の傷跡。あまりにも痛々しいその変貌に思わず、他人の空似を疑ってしまう。

「お前なんてどうだっていいんだよ、旧支配者の出来損ない」

 でも、あの列車での戦いを知っている彼は、紛れもなくアヴァリスだ。でも、あの時の彼とは全く違う。あの貴族の生まれだと言って高貴さを装っていた口調も剥がれ落ち、あの時に着ていたようなピシッとした青い礼服ではなく、筋肉質な裸の上半身に薄汚れた外套とボロボロの下衣だけを纏っている。そして、あれは……?

 この変わり様はあまりにも異常だ。元々の彼の姿がこっちで、笑顔の仮面が剥がれて本性が露出してしまったのか。あの轢死を逃れた彼に一体何があったというのか。

 凶行のアヴァリスに対してわたしは何も言えず、それでもかろうじて口を開こうとした瞬間、

「あら、彼女がこの世界の主人公なの? アヴァリス?」

 長身の彼に隠れていた、凛と響く薄いガラスの鈴のような声の主がふわり、軽やかに進み出る。

「ああそうだよ、メアリー。この世界はクソだ、オレもアンタもここじゃあ主人公じゃなかったんだよ」
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