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第6章
選択の儀~第1世代~8【相異2】
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「ユリア!」
崖下へと舞い戻って来たサルメはユリアに駆け寄った。
「サルメ!? まだ登ってなかったの?」
少しほっとした様子のユリアに、サルメは罪悪感を感じずにはいられなかった。
「……戻ってきた」
「?」
「ほら、あんた達も散って!」
気まずさを紛らすようにサルメがユリアから目を逸らし男児達に指示を出すと、彼らは戸惑いを露にした。
「しかしっ、サラ様が――」
そのうちの1人がサラの名を出した瞬間、サルメは甲高い声で叫んだ。
「黙って!! 」
「……サラが関係してるの?」
怪訝そうなユリアの問いかけにサルメが口籠ると、ユリアはサルメの沈黙を肯定と取った。
「サラがこんな回りくどいやり方してくるとは思わなかった……」
「……ユリア……」
「……サルメも関係してるの?」
サルメはヒュッと音を立てて息をのんだ。頬は火照っているのにサルメの額は不思議なほど冷え、彼女の心臓は早鐘のように鳴り響き、その小さな胸に脈を刻み打ち続けている。
「関係してるんだね」
ユリアの瞳が細められるのを見て、サルメはユリアの優しさに縋る様な思いで口を開いた。
「…………実は――」
サルメはありのままの経緯をユリアに話した。
それは彼女にとってそうする事が彼に対しての誠意であり、愛の告白のようなものであったからだ。
彼女は罪悪感に苛まれながらも、内心まだ希望を抱いていたのかもしれない。
自分の気持ちを知ってユリアが微笑んでくれるのではないか……そんな淡い期待を――
しかし彼女にとって現実はそんなに甘いものではなくなっていた。
恋慕、執着という名の自我の芽生えが、抑え難いユリアの怒りを増幅させてゆく。
野心の無いかつてのユリアであれば笑って許してくれていただろうこの案件は、すでに囚われの身である彼には死活問題であった。
「――つまり、サルメの気持ちを知ったサラが僕の気持ちを知った上で、僕が1位通過するとサルメの望みが絶望的だから僕の邪魔をしたってこと?」
ユリアはサルメの自分に対する思いをあえて聞き流し、淡々と事実を確認する。
ユリアの声は酷く冷たく事務的なものだったがそれに気が付かないサルメは俯いて頷いた。
「ごめんなさ――ぐっ」
サルメは何者かに殴られふっ飛んだ。
サルメが体勢を立て直す間も無く何者かが再びサルメに歩み寄って来る。
サルメはチカチカする目を酷使し、その何者かに焦点を合わせるとそこにはいつもの優しげなユリアがいた。
いや、ユリアの皮を被った別人、サルメの瞳にはそう映った。
信じたくないという思いが目の前にいるユリアを全否定する。
警鐘の鳴り止まない脳内で、あの優しいユリアが……自分が思いを寄せるユリアが自分にこんな仕打ちをするはずが無いと感情が現実から目を曇らせる。
サルメは目の前のユリアを別人だと思いたかったのだ。
しかし、彼女にとって残酷にも今ここで起きている全ては紛れもなく現実だった。
サルメは見誤ったのだ。
サルメが崖下に舞い戻ってきた時、とうにユリアの妨害者に対する許容範囲は超えてしまっていたのである。
ユリアを失いたくなければサルメはたとえ信用を失っても貝のように固く口を閉ざすか、誇りを失っても、もっと頭を働かせて言い逃れのできる、もしくは責任転嫁のできる言い訳を、虚言を吐いてでも捻り出すべきだった。
間違っても真実など打ち明けるべきではなかったのだが……幼いサルメには対応する知恵も度胸も備わってはいなかった。
サルメは眼前に立つユリアのその冷え切った瞳から目を逸らすことが出来ない。
ヒリつく様なユリアの怒りを肌に感じ畏縮するサルメにユリアは優しい声音で話し掛ける。
「謝らなくてもいいよ、ただちょっと協力して欲しいんだ」
天使のような微笑みを浮かべながらそう言うと、ユリアはサルメの胸ぐらを掴んで殴り始めた。
崖下へと舞い戻って来たサルメはユリアに駆け寄った。
「サルメ!? まだ登ってなかったの?」
少しほっとした様子のユリアに、サルメは罪悪感を感じずにはいられなかった。
「……戻ってきた」
「?」
「ほら、あんた達も散って!」
気まずさを紛らすようにサルメがユリアから目を逸らし男児達に指示を出すと、彼らは戸惑いを露にした。
「しかしっ、サラ様が――」
そのうちの1人がサラの名を出した瞬間、サルメは甲高い声で叫んだ。
「黙って!! 」
「……サラが関係してるの?」
怪訝そうなユリアの問いかけにサルメが口籠ると、ユリアはサルメの沈黙を肯定と取った。
「サラがこんな回りくどいやり方してくるとは思わなかった……」
「……ユリア……」
「……サルメも関係してるの?」
サルメはヒュッと音を立てて息をのんだ。頬は火照っているのにサルメの額は不思議なほど冷え、彼女の心臓は早鐘のように鳴り響き、その小さな胸に脈を刻み打ち続けている。
「関係してるんだね」
ユリアの瞳が細められるのを見て、サルメはユリアの優しさに縋る様な思いで口を開いた。
「…………実は――」
サルメはありのままの経緯をユリアに話した。
それは彼女にとってそうする事が彼に対しての誠意であり、愛の告白のようなものであったからだ。
彼女は罪悪感に苛まれながらも、内心まだ希望を抱いていたのかもしれない。
自分の気持ちを知ってユリアが微笑んでくれるのではないか……そんな淡い期待を――
しかし彼女にとって現実はそんなに甘いものではなくなっていた。
恋慕、執着という名の自我の芽生えが、抑え難いユリアの怒りを増幅させてゆく。
野心の無いかつてのユリアであれば笑って許してくれていただろうこの案件は、すでに囚われの身である彼には死活問題であった。
「――つまり、サルメの気持ちを知ったサラが僕の気持ちを知った上で、僕が1位通過するとサルメの望みが絶望的だから僕の邪魔をしたってこと?」
ユリアはサルメの自分に対する思いをあえて聞き流し、淡々と事実を確認する。
ユリアの声は酷く冷たく事務的なものだったがそれに気が付かないサルメは俯いて頷いた。
「ごめんなさ――ぐっ」
サルメは何者かに殴られふっ飛んだ。
サルメが体勢を立て直す間も無く何者かが再びサルメに歩み寄って来る。
サルメはチカチカする目を酷使し、その何者かに焦点を合わせるとそこにはいつもの優しげなユリアがいた。
いや、ユリアの皮を被った別人、サルメの瞳にはそう映った。
信じたくないという思いが目の前にいるユリアを全否定する。
警鐘の鳴り止まない脳内で、あの優しいユリアが……自分が思いを寄せるユリアが自分にこんな仕打ちをするはずが無いと感情が現実から目を曇らせる。
サルメは目の前のユリアを別人だと思いたかったのだ。
しかし、彼女にとって残酷にも今ここで起きている全ては紛れもなく現実だった。
サルメは見誤ったのだ。
サルメが崖下に舞い戻ってきた時、とうにユリアの妨害者に対する許容範囲は超えてしまっていたのである。
ユリアを失いたくなければサルメはたとえ信用を失っても貝のように固く口を閉ざすか、誇りを失っても、もっと頭を働かせて言い逃れのできる、もしくは責任転嫁のできる言い訳を、虚言を吐いてでも捻り出すべきだった。
間違っても真実など打ち明けるべきではなかったのだが……幼いサルメには対応する知恵も度胸も備わってはいなかった。
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ヒリつく様なユリアの怒りを肌に感じ畏縮するサルメにユリアは優しい声音で話し掛ける。
「謝らなくてもいいよ、ただちょっと協力して欲しいんだ」
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