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第6章
選択の儀~第1世代~2
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人人人、どこまでも続く人の群れ、クリムゾン王国はこんなに大きな国だっただろうか……、10数年ぶりに外に出たシェルミーユは感慨に耽った。
眼前に広がる群衆は、すべてライアナが率いる民なのだ。
「手でも振ってやったらどうだ?」
「手を……」
シェルミーユはおずおずと民衆に手を振った。すると次の瞬間大歓声が沸き立つ。
「大人気だな」
驚くシェルミーユに、ライアナはからかうように片方の眉を上げて言った。
「この内の6割がお前を欲し、3割がお前を恐れ、1割がお前を妬む……」
「それはどういう……」
「今お前が民衆のもとに姿を曝け出したら起こりうる割合だ。男にしろ女にしろ、力のある者はお前を欲するだろう。後はお前を恐れ崇め奉ろうとする者達、嫉妬する愚かな者達……お前にはそんな魅力がある」
シェルミーユは少し怖くなって、俯きながらライアナの王服の袖を掴んだ。
「買い被り過ぎだ」
(まさか、私ごときにそんなはずは――)
シェルミーユは気丈に振る舞おうと顔を上げ、ほんの少しだけ引きつった笑みを浮かべた。
「信じていないみたいだな、だが真実だ」
ライアナはシェルミーユをまっすぐに見据えた。
「下へ降りてみるか……?」
そう言って手を差し出すライアナに、シェルミーユは息をのむ。
(有り得ないことだ。そんなこと……だが――)
シェルミーユはいまだに、自分にそんな価値があるとは、思うことが出来なかった。
しかし、閉鎖的な世界で人生の大半を過ごしてきた彼には、何が真実なのか軽率に答えを出すことは躊躇われた。
(……いや、しかし……もしも……いや、まさか……)
ライアナの言っていることが本当ならば、この場は一瞬で血の海と化すだろう。
ここはクリムゾン王国、欲望に忠実な強者の集まりなのだから――
口籠るシェルミーユにライアナは静かに微笑んだ。
「冗談だ」
ライアナはそう言うと、差し出したままになっていた手をシェルミーユの腰に添える。
「今はただ、己の価値を自覚すればいい。美しき我が最愛の王妃、シェルミーユよ」
(己の……価値……)
シェルミーユはライアナの言葉を心の中で反芻する。
ライアナは、思い耽るシェルミーユのベールを少しだけ捲ると、わざとリップ音をたててシェルミーユに口づけをした。
(言ったそばから後悔する戯言など言うべきではない)
ライアナは本心では無かったとはいえ、己の吐いた言葉に呆れた。
(下へ降りてみるか……? よく言えたものだ。今この時ですら俺は嫉妬に狂いそうだというのに、お前を民衆の手の届くところまでなぞ……、到底連れて行ける訳がない)
ライアナは改めて自分のシェルミーユに対する狭量さをひしひしと感じ、苦笑するしかなかった。
(俺はこの先、この身が朽ち果てようとも、お前に対する狭量さは変わらぬのだろう。……俺はお前が己の価値を自覚したとしても、この手を緩めることなど出来はしないのだから――……)
ライアナの顔に僅かに憂いの影が差す。その僅かな異変に気付いたシェルミーユがライアナの顔を気遣わしげに見ると、ライアナはシェルミーユの背中に手を回し、軽く抱きしめて言った。
「安心しろ、俺がお前を手放しはしないから」
「ライんんっ――」
シェルミーユの言葉を遮るように、ライアナはシェルミーユに深々と口づけを繰り返す。今この時、彼から拒絶の言葉を聞きたくなかったのだ。しばらくしてライアナが唇を放すと、シェルミーユは息を切らしながら言った。
「っはぁ、……お前は、本当に、加減というものを、知らん」
呼吸を整えたシェルミーユが、上気した頬はそのままに不満そうに口を尖らせると、ライアナは優しい微笑みを彼に向ける。
そこには先程シェルミーユが感じた影はなく、シェルミーユは無意識にほっと胸を撫で下ろした。
眼前に広がる群衆は、すべてライアナが率いる民なのだ。
「手でも振ってやったらどうだ?」
「手を……」
シェルミーユはおずおずと民衆に手を振った。すると次の瞬間大歓声が沸き立つ。
「大人気だな」
驚くシェルミーユに、ライアナはからかうように片方の眉を上げて言った。
「この内の6割がお前を欲し、3割がお前を恐れ、1割がお前を妬む……」
「それはどういう……」
「今お前が民衆のもとに姿を曝け出したら起こりうる割合だ。男にしろ女にしろ、力のある者はお前を欲するだろう。後はお前を恐れ崇め奉ろうとする者達、嫉妬する愚かな者達……お前にはそんな魅力がある」
シェルミーユは少し怖くなって、俯きながらライアナの王服の袖を掴んだ。
「買い被り過ぎだ」
(まさか、私ごときにそんなはずは――)
シェルミーユは気丈に振る舞おうと顔を上げ、ほんの少しだけ引きつった笑みを浮かべた。
「信じていないみたいだな、だが真実だ」
ライアナはシェルミーユをまっすぐに見据えた。
「下へ降りてみるか……?」
そう言って手を差し出すライアナに、シェルミーユは息をのむ。
(有り得ないことだ。そんなこと……だが――)
シェルミーユはいまだに、自分にそんな価値があるとは、思うことが出来なかった。
しかし、閉鎖的な世界で人生の大半を過ごしてきた彼には、何が真実なのか軽率に答えを出すことは躊躇われた。
(……いや、しかし……もしも……いや、まさか……)
ライアナの言っていることが本当ならば、この場は一瞬で血の海と化すだろう。
ここはクリムゾン王国、欲望に忠実な強者の集まりなのだから――
口籠るシェルミーユにライアナは静かに微笑んだ。
「冗談だ」
ライアナはそう言うと、差し出したままになっていた手をシェルミーユの腰に添える。
「今はただ、己の価値を自覚すればいい。美しき我が最愛の王妃、シェルミーユよ」
(己の……価値……)
シェルミーユはライアナの言葉を心の中で反芻する。
ライアナは、思い耽るシェルミーユのベールを少しだけ捲ると、わざとリップ音をたててシェルミーユに口づけをした。
(言ったそばから後悔する戯言など言うべきではない)
ライアナは本心では無かったとはいえ、己の吐いた言葉に呆れた。
(下へ降りてみるか……? よく言えたものだ。今この時ですら俺は嫉妬に狂いそうだというのに、お前を民衆の手の届くところまでなぞ……、到底連れて行ける訳がない)
ライアナは改めて自分のシェルミーユに対する狭量さをひしひしと感じ、苦笑するしかなかった。
(俺はこの先、この身が朽ち果てようとも、お前に対する狭量さは変わらぬのだろう。……俺はお前が己の価値を自覚したとしても、この手を緩めることなど出来はしないのだから――……)
ライアナの顔に僅かに憂いの影が差す。その僅かな異変に気付いたシェルミーユがライアナの顔を気遣わしげに見ると、ライアナはシェルミーユの背中に手を回し、軽く抱きしめて言った。
「安心しろ、俺がお前を手放しはしないから」
「ライんんっ――」
シェルミーユの言葉を遮るように、ライアナはシェルミーユに深々と口づけを繰り返す。今この時、彼から拒絶の言葉を聞きたくなかったのだ。しばらくしてライアナが唇を放すと、シェルミーユは息を切らしながら言った。
「っはぁ、……お前は、本当に、加減というものを、知らん」
呼吸を整えたシェルミーユが、上気した頬はそのままに不満そうに口を尖らせると、ライアナは優しい微笑みを彼に向ける。
そこには先程シェルミーユが感じた影はなく、シェルミーユは無意識にほっと胸を撫で下ろした。
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