縁は縁でも腐ってる

長澤直流

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◆貳拾伍

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(躰が痛い……)
 目が覚めて第一に思うのがそれだった。
 所謂無茶な体勢による節々の痛みと筋肉痛だ。
 昼下がり、まだ陽が高いというのに美慶は総満が用意させたのだろう褥に、いつの間にか新しい着流しを着せられて、総満に後ろから抱きしめられるようにして二人して行儀良く並んで眠っていた。
 美慶は軽く溜息を吐くと、畳の目をぼうっと睨んで呟いた。
「本に、無駄玉を使いよる……」
「無駄玉では無い」
 美慶が驚き総満の方を向こうとすると、目を覚ました総満はそれを遮るように抱く腕に力を込め、美慶の首筋に顔を埋めて口端を上げて言った。
「気持ちよかろう?」
「――っ」
「俺は気持ち良い。この奥の誰よりも、お前の中が一番心地良い」
 美慶が呆れた顔で総満を見ると、総満は美慶の目を見ていつになく真面目に、そして穏やかな眼差しで言った。
「俺はお前の側にいるときが一番安心出来る。一番……心穏やかでいられる。故に、お前を手放してやれぬ。これは俺の業だ」
 美慶は目を見開き、口を閉ざした。
 常日頃、強引な面しか見せない総満のあまりにも予想外な思いを聞いてしまったからである。
 美慶は顔が熱くなるのを感じ、瞬時に総満から顔を逸らした。
 総満に執着を持たれ煩わしいはずなのに自分は特別であると言われているようで何故か悪い気がしない。
「なぁに、責務は果たしておる故、安心せい」
 戸惑う美慶をよそに総満はそう言って無邪気に笑い、美慶の頭を撫でた。


 総満には正室の美慶の他に五人の側室が居り、その全てが今や御腹様だ。しかもその全てが子を生すと決めてから一度の睦事、同時期のご懐妊である。側室達のご懐妊の知らせを聞いた美慶は、先代の野神家当主も子沢山だったことを思い出し、野神家の生殖能力に言葉を失い、さらに世代交代時に血を見てもお家が絶えない理由を垣間見た様な気がした。
 次期当主になりうる子を孕んでいるとなれば、皆慎重にならざるを得ない。流れでもしたら一大事、他の側室方に後れを取ってしまう。
 いくら仲が良さそうにしていても、その実、裏では睨み合いがあるのだ。
 美慶は奥入りする際に正室ながら子が出来ぬ身であると公言したため、世継ぎ問題には無害として側室達に見なされている。
 逆に取り入ろうとするとかえって総満の不興を買うため、藪蛇を避ける側室達は美慶に対して必要以上接触を持たず、差し障りのない程度に避けていた。早菜姫として籍を置いている美慶としては、不必要な接触が控えられるその傾向はありがたかった。


「他の者は今、腹に宿る子に夢中だ。暫くはお前一人に構い倒しても何の支障も無いだろう」
「……同じ時期に男の子が複数生まれては、後継者争いが起きてしまうのではございませぬか?」
「世代交代に血が流るるは一族の性だ。まあ、次世は俺が元気な内に時を見て直々に後を譲りさえすれば問題なかろう」
「は?」
「俺は早々に隠居して、お前と余生を楽しむつもりだ」
「そんな事、家臣が許すはずなぞ――」
「誰がに異を唱えられる?」
「…………側室達はどうするのです」
「後継以外の生母は実家に戻るか尼になってもらうかのう。……隠居先にはお前しか連れて行かぬ故……覚悟しろよ」
 総満のその言葉に美慶は急遽寝返りを打ち、正面から総満をじっと睨んだ。
「あり得ませぬっ。総満様のお相手を私一人でなぞ――、……私を殺す気でございますかっ 」
 絡む視線から目を逸らさずに己の目をじっと見てそう不平を漏らす美慶に、総満は顔をほころばせる。
「まさか、全力で愛でるまでよ」
 そう言って総満は幸せそうに満面の笑みを浮かべて美慶を力一杯抱きしめた。


 ――終――
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