23 / 43
23 王都の街
しおりを挟む「わぁ……!」
街並みを見た私は、思わず声をあげてしまった。
だって、街並みが異世界ファンタジーそのままなんだもの。
三角形の屋根に、カラフルな壁。広場の時計塔と丘の上のお城。
あーもうワクワクが止まらない!
中世の雰囲気が残るヨーロッパの街並みをスマホで見るのが好きだったけど、それに近いかな。
体が弱すぎて海外旅行なんて夢のまた夢だったし、こんな風景を直に見られるなんて思ってもみなかった。
さすが王都というべきか、大通りは道幅が広いうえに車道と歩道がちゃんと分けられてる。もちろん車道を走っているのは自動車じゃなくて馬車と馬だけど。
歩道は一段高くなっているし、センターラインがあるわけじゃないけど馬車や馬はどうやら右側通行と決まっているっぽい。すごい!
中世ヨーロッパは馬車や馬の事故が多かったと何かで読んだし、そういう対策がなされているってことだよね。
「聖……っと、お嬢様、紐を売っている雑貨屋はあちらになります」
「わかったわ」
私の前を歩くメイと、後ろからついてくる私服姿の護衛の聖騎士。
目立たないよう傍で護衛してくれるのは一人だけど、他に聖騎士数名が私服姿でついてきているらしい。
私は魔道具で髪の色を茶色に変えて、フードを被っている。
メイと一緒に雑貨屋に入ると、一気に物欲が刺激された。
紐だけでなくきれいな布、アクセサリー、かわいらしい小瓶、文房具と色々置いてある。
楽しいなー。こういうところに来ると、無意味に物を買っちゃうんだよね。
あちこち目移りしつつも紐を買い、外に出る。
広場に向かって通りを歩きながら、メイが街について色々説明してくれた。
「あの広場を中心に、毎年春と秋にお祭りが開かれるんです。春の花祭りは終わってしまいましたから、次は秋の豊穣祭ですね」
「そうなのね。行ってみたいわ」
「きっとお嬢様なら花祭りの“春の妖精”や豊穣祭の“豊穣の女神”に余裕で選ばれますよ!」
「妖精? 女神?」
「はい、そのお祭りで一番素敵な女性を選ぶんです。服装なども考慮されますから、みんな何か月もかけて衣装を用意するのです。春は若くて愛らしい女性が選ばれることが多いですが、秋は年齢や容姿がバラバラですね。衣装の加点が大きいのも秋です」
「へぇ、とっても楽しそう」
特に春はミスコンみたいなものかな、と思う。
まあ一生参加することはないだろう。聖女がミスコンに参加するわけにはいかない。
そもそも人前に立つのは死ぬほど苦手だし。
「冬の妖精を選ぶコンテストがあったら、ルシアンが優勝しそうね」
何気なくそう言うと、後ろの聖騎士が小さく吹き出した。
似合うと思うんだけどなあ、冬の妖精。
そういえばルシアンって神官服ばかりで、それ以外の服装を見たことがないや。
広場に着いて、ベンチに座る。
メイは最初私の隣に座るのをためらっていたけど、目立つから、と言うと座ってくれた。
「メイは中央神殿に来て日が浅いのに詳しいわね」
「元々は王都に住んでいたんです」
「そうなの?」
「はい。といっても、こんなに華やかな区域じゃなくて外れの方ですけど。父が商売に失敗したと同時に失踪して、母と二人、追われるように地方に引っ越すことになりました。その地方の神殿で下働きを募集していたので、そこで働き始めたんです」
「そうだったの……。苦労したのね」
「いえいえ、みんなこんなものですよ。それに体を売ることもなく、今こうしてお嬢様にお仕えできているんですから。とっても幸せです」
そんなにいい主というわけではないと思うんだけどなあ。
どうしてメイはいつも私をいい人扱いするんだろう?
「お嬢様、そろそろ暗くなり始める時間です」
ベンチの後ろに立つ聖騎士が声をかけてくる。
「そう。では戻りましょう」
振り返ってそう言うと、彼はあからさまにほっとした顔をする。
これはオリヴィアの外出に苦労させられた顔だわ。
三人で広場を抜け、馬車を目指す。
大通りから一本入ると、歩道はなくなり、代わりに馬車も見なくなった。このあたりは馬車が通行してはいけない場所だから歩道がないのだとか。
けれど、王都らしく道はきれいに整備されており、道幅は狭いというほどでもない。
衛兵も馬に乗ってゆっくりと巡回していて、治安維持に力を入れているのだな、と思った。
もうすぐ馬車を停めている場所に着く。
そう思ったその時、それは起こった。
111
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる