俺様αアイドルと歌で発情しちゃったΩ

弓葉

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もう、何も怖くない。

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 部屋に入って来たのは内海だった。

「えっ……」

 内海は驚いていた。そりゃ無理もないと思う。部屋に入るなり、僕が男とキスをしているのだから。だけど、内海はすぐに部屋を出て行こうとせずにドアの前に突っ立っていた。

「んぅ……」

 ちゅっと、リップ音を立てながらネオ様はキスをやめた。ゆっくりとネオ様は僕の身体から離れていく。ネオ様の盾が無くなって、僕は内海と向き合った。

「あ、えっとその……」

 キスの言い訳なんて、一度も説明したことがない。内海に向かって何を言えばいいのかわからなかった。内海も僕と同じように戸惑っているようで、あーとか、えっととか言葉の切れ端を口に出している。唯一、普通でいたのはネオ様だった。

「てめぇが俺のものに口を挟んだやつ?」

 ネオ様は威嚇するかのような低い声を出した。横目でネオ様の顔を見れば、目を鋭くして内海を睨みつけている。僕は隣にいるだけなのに、ゾクリと身震いをした。

「……そうですけど」

 内海も僕と同じくネオ様の威圧に負けたようで、若干声が裏返った。やはり、ネオ様は芸能界にいるだけあってオーラは凄まじい。ビリビリと細かな電流がネオ様がいる右半身から感じてくる。アルファの威圧オーラはオメガにはたまらなかった。

 ドクドク、と沸騰するかのように血が巡りだしまた身体が熱くなる。

「はぁっ……」

 我慢できなくなって息を吐き出せば、二人は同時に僕を見た。獣のような目に、僕はゴクリと息を飲みこむ。

「んっ……」

 気づけば僕はベッドに寝かされていた。いや、ネオ様が僕の身体を押し倒してキスをしてきた。

「おいっ……」

 内海が駆け寄ってくる足音が聞こえてくる。ベッドが軋んだので、内海がベッドにのったことが分かった。だけど、それ以上は何も起きない。

 ネオ様が唇を甘噛みするのをやめて、僕の視界がクリアになる。クリアになった世界で見えた内海は悔しそうに唇を噛みしめていた。

「これでわかったろ? こいつは俺のもんなんだよ」

 ネオ様は僕に首輪をするかのようにベッドへ手をついた。僕の視界はネオ様の細いけど筋肉質な腕で遮られる。遮られた視界の中でも内海の目線までは遮られず、ギラギラと野心がのぞき見える目を僕やネオ様に向けていた。

「なんだよ……ただの番遊びだろ。そこまでして、自分が狙ったオメガを横取りされんのが気にくわねぇの? 芸能界にいるアルファ様は必死だな」

 内海はバカにしたように悪態をつく。だが、表情を見るからにあまり余裕は無さそうだ。額から汗を流している。

「そりゃ必死になるさ。惚れたんだからな」

 ネオ様は内海の挑発に一切乗らなかった。足を組み、ベッドに腰掛けふんぞり返っている。堂々とした態度から自信が滲み出ていた。

「つうか、芸能界にいるアルファがみんな番遊びをしてるとか思うなよ。みんな必死になって芸を売ってんだ。よそ見する余裕なんかねーよ、ばか」

 最初は我慢していたみたいだけど、ネオ様はキレていた。ムッと、眉間に皺を寄せて内海を睨みつけている。

「わかったなら、さっさと出て行け! こいつと過ごす時間が無くなっちまうだろうが」

 ネオ様は近くにあったパイプイスを蹴飛ばした。ガシャンとパイプイスが内海の足下に倒れる。一応、当たらない加減はしていたみたいで安心した。まぁ、イスを蹴飛ばすのはよくないと思うけど。後で注意しよう。

 内海は何かを言いたそうに僕を見た。だけど、僕は聞きたくなくて目を背ける。逃げてしまったけど、内海に何を言われようとも僕はネオ様から離れたくはなかった。

「……そいつ泣かせたら許さねぇからな」

 内海は小さく呟くと、僕たちに背を向けた。内海の背中を見て、両親が亡くなった後、傍で支えてくれていたことを思い出す。僕が泣いていれば、隣に座って背中を撫でてくれた。僕が寂しくて電話をすれば、どんなに遅い時間でも電話に出てくれた。ご飯に行けば、内海は必ず奢ってくれようとした。

 他にも数え切れないほど、内海は僕のことを考えてくれた。ただ、あの夏フェスの時だけは傍にいなかった。飛行機に乗る直前、内海は僕が話すネオ様の話題に対していちゃもんをつけてきた。僕は好きな人を否定されたような気がしてカッとなって怒ってしまった。空港で喧嘩になり、内海は一人で行けと僕に言って人混みに紛れた。それが、内海との初めての喧嘩だった。

 遠くなる内海の背中を見て、今思えばそれは嫉妬で僕を試すようなことをしていたのかもしれない。僕は内海を追いかけようと、ベッドから下りようとした。

「ッつ……」

 だけど、包丁で切った足に激痛が走る。僕は立つことさえままならなくて倒れそうになる。僕の身体を支えてくれたのはネオ様だった。

「あいつのこと追いかけたいのか?」

 ネオ様は不安げな顔で僕を見る。そんな顔をしたネオ様を置いて、内海を追いかけることはできなかった。僕はこれ以上、ネオ様を裏切りたくない。

「いえ、大丈夫です」

 何が大丈夫なんだろう。足をケガしていなかったら間違いなく内海を追いかけていただろう。いや、ケガをしているからと言い訳ができたのかもしれない。僕は卑怯だ。ネオ様のせいにして、内海を追いかけない選択肢をとった。

「よかった……お前、あいつのこと好きなんかと思って……」

 ネオ様は嬉しそうに僕を抱きしめてくれる。目の端からうっすらと涙がにじんでいた。僕はこぼれそうになった美しい涙を指で取る。

「あいつは、内海は僕のことをよく分かる友人です。後を追いかけなくたって縁は切れません」

 僕は涙をこぼさないように笑った。泣いたらまたネオ様に誤解されてしまう。そんなことはもうしたくなかった。涙をごまかすために、僕はネオ様に抱きついた。ネオ様は僕の身体を強く抱きしめ返してくれる。もう、何も怖くない。
  
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