香水のせいにすればいい

弓葉

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懐かしい香り

犬の尻尾のような反応

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 帰宅して、冷蔵庫からビールとつまみを取り出す。香水斗に渡された小さなスプレーを部屋の電気にかざした。あの後、香水斗は待ち合わせ相手と合流した。くしくもその待ち合わせ相手は僕が匂いを嗅ごうとした黒髪オールバックのサラリーマンだった。

 黒髪オールバックの人が僕のことを思い出す前に、僕はいそいそとその場から離れる。これ以上、醜態をさらして傷つきたくはなかった。もはや人前で勃起してしまった以上、失うものはなにもないかもしれないけど今の僕には耐えられない。

「どうして勃つんだよ……!」

 すっかり大人しくなった陰茎を見てため息をつく。興奮が冷めてしまえば、しゅんと小さくなっていった。

「犬の尻尾みたいな反応をしやがって……こんな痴態を晒さなければもっとマシなルート通れただろ……」

 あわよくば、連絡先も交換できたかもしれない。人が多すぎる東京でまた香水斗と再会できるとは思えなかった。その悔しさから缶ビールをローテーブルに叩きつけるように置く。帰り際に言われたことを思い出してしまい、その恥ずかしさを紛らわすためにグビッと一気飲みした。

――もしかして、お前俺で興奮してんのか。

 香水斗に言われた言葉を思い出してしまい、また缶ビールを開けた。少しでも受けた傷を癒やそうとアルコールに僕は逃げた。

 ストレス発散といえば飲むことだけ。趣味も何もないし、愚痴る同僚もいない。仕事が終われば真っ直ぐ帰り、テレビを見ながら晩酌をするのが日課だった。明日は大事なプレゼンがあると分かってはいても飲まずにはいられない。

「あー!! ムカつく!! もう一本だ!!」

 ローテーブルには何本もの缶が積まれていき、頭がフラフラになってうとうとし始めた頃、その場に落ちるように寝た。そして、スマホの大音量アラームが僕を叩き起こす。

 身体を起こせばローテーブルに足がぶつかり、ガラガラと勢いよく缶が転がっていった。それを拾い上げていく途中でスマホに表示された『7』の数字を見て絶望する。

「やっばい……!! 遅刻する!!」

 いつもは7時26分の特急に乗って行くのに時刻はとっくに過ぎている。家から駅まで15分はかかるのに、今は7時40分。

「朝風呂する予定がっ……!」

 とりあえず、ハンガーにかけてあったシャツとズボンを引ったくる。

「ベルト、ベルト……あーもう! 昨日どこに置いたんだよっ!!」

 山積みになっている洗濯物の山に手を突っ込みベルトを探す。昨日こそ片付けようと思っていたのに出来なかった。自分のずぼらな性格を後悔した。

 異臭を放つ空っぽになった缶ビールの山も何とかしたかったけど、とにかく今は時間が無い。ベルトを装着し、床に転がっている鞄を持って玄関を飛び出し全速力で駅へ向かった。
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