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23 青葉様と雅ちゃんの婚約が秒読みって、本当でしたのね……

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「……最近一条家のご令嬢と仲がよろしいみたいですね」
「ああ、瑠璃ちゃん? そうね、親しくさせて貰ってるわね」


 自分でも随分仲良くなった気でいたけれど。誰かからそう言われると、本当にそうだと言われているみたいで嬉しくなるな。


「……雅ちゃんの1番の親友はわたくしであること、忘れないで下さいね!」
「ふふ、そうね。ありがとう桜子ちゃん」


 自他ともに認める私の親友桜子ちゃんは、どうやら瑠璃ちゃんに少し嫉妬しているようだ。

 もちろん、人間が出来ている桜子ちゃんは気に食わないからと言って意地悪をしたりするような幼稚な子ではないけれど。こうして私にかまってちゃんをするくらいには寂しい思いをしているらしい。

 ふふ、可愛いなあ。瑠璃ちゃんも好きだけど、桜子ちゃんも大好きだから安心して欲しい。


「桜子は本当嫉妬深いよね……」
「想いが強いと言ってくださいません!?」
「あんまりしつこくすると、雅に嫌われるわよ」
「ひどいわ葵ちゃん!!」


 「そんなことありませんよね!?」と涙目になって私にすがりつく様子がこれまた可愛らしくて思わずクスクス笑ってしまった。


「瑠璃ちゃんは将来的に妹になるかもしれないし、親しくしておきたいのよねー」
「えっ」
「やっぱり雅って……」


 突然2人以外にも、教室にいたクラスメイト達がざわめく。えっ、みんな聞いてたの!? そして、何故そんなにみんな驚いているんだ!?


「青葉様と雅ちゃんの婚約が秒読みって、本当でしたのね……」
「雅は恋愛結婚するんだと思ってた」
「ええ!? どうしてそういう話に!?」


 確かに私と青葉が結婚したら、将来的に瑠璃ちゃんが私の妹になるけども! そういう意味で言ったつもりはなかった。最近やっと眠れるようになってきたのに、そんな恐ろしいこと言わないで欲しい。また眠れなくなったらどうするおつもりですか!


「そうではなくて! ……わたくし赤也は瑠璃ちゃんのこと好きだと思うのよ」
「は?」
「え……」


 今度は違うざわめきがうまれる。皆さん私達の話に聞き耳たててないで、ご自分の話をして下さって結構ですからね?


 こんなに注目されると恥ずかしいじゃないですか!


「わたくしとしても、瑠璃ちゃんなら赤也を任せられると思うのよね」
「ちょっと待って雅……それは赤也くんがそう言ってたの?」
「……? いいえ。でも赤也の姉であるわたくしにはわかるわ! わたくしに迷惑をかけるなと、よく瑠璃ちゃんに注意してはいるけれど、それは素直になれないだけなのだと」


 瑠璃ちゃんには全く伝わってないみたいだけど。大丈夫だよ赤也。お姉様にはちゃんと伝わってるから!


「ぜっったい雅の勘違いだと思うわよ、私は。それに赤也くんには絶対雅よ! たとえあの一条家のご令嬢でも、これだけは譲れない」
「わたくしは雅ちゃんと釣り合うような、雅ちゃんくらい素敵な方でしたら、どんな方でも応援しますわ。青葉様でも黄泉様でも、もちろん赤也くんでも」


 それからクラス中を巻き込んで、私には誰がふさわしいか、はたまた恋愛結婚より婚約すべきか議論になった。

 いや、本当に、私の相手が誰がいいかなんて、わざわざクラス全員で話すことでもないからね!?



***



 放課後帰る前に、ハンカチがないことに気がついた。最後に使った記憶があるのは確かお昼休み。

 もしかしたら、4人で座って話していたテラスに置き忘れたのかもしれない。

 あのハンカチはお兄様から頂いたものだから絶対になくしたくないのに!

 急いでテラスへ向かっている途中、不自然に1人を取り囲む集団を見かけた。……こんな人通りのない場所で、何の話をしているのだろう。


「君みたいな奴が何故ここにいるんだ?」
「……えっと、それは……」
「聞こえなかったか? この学園から出ていけと言っているんだ。君みたいな奴がいるとこの学園の品位が下がる」


 1人対3人の時点で嫌な予感はしたけれど。どうやらその予感は的中してしまったらしい。囲まれている男の子は明らかに怯えているし、どう見ても友人という感じでもなさそうね。


「大した家柄でもないくせに俺たちと同じだと思うな、この成金が」
「ああ、だからか。元々庶民だから、臭うんだよ貧乏臭さがさ」


 ……ひどい。どうしてここまで言われなきゃならないのだろう。

 自分が言われているわけではないのに、精神的には私も元庶民だからか、理不尽な扱いに憤りを禁じ得ない。

 あなた達に何の権利があって彼を糾弾しているんだ。そう叫びだしそうになるのをなんとか堪える。

 ……落ち着け、私。ここは私が飛び出すよりも、先生を呼んできて止めてもらう方が確実だし得策だと思う。

 職員室から少し遠いのが難点だけど、今すぐ走っていけば間に合うかもしれない。


 ──そう思い、走り出そうとした時だった。


「……お姉様?」


 彼女の声が聞こえたのは。


「探しました……もごっ」
「しっ! 瑠璃ちゃん黙って!」


 状況を理解していない瑠璃ちゃんの口を強引に手で抑える。すぐに状況を理解した彼女は血の気を失う。温室育ちのお嬢様が、こんな状況に耐えられるはずもないか。


「お、お姉様……わたくし達どうすれば」
「……わたくしがなんとかするわ。だから瑠璃ちゃんは安心して」


 今にも泣き出しそうに震える彼女を安心させようと、その場しのぎの言葉をかける。

 私がここに残って瑠璃ちゃんに先生を呼んできて貰おうと思ったけれど。瑠璃ちゃんはあまりの出来事に腰を抜かしてしまったのか、今すぐ動けそうにない。

 私が行けばいいのだろうけれど、こんなに震える彼女を独りにはしておけない。瑠璃ちゃんにはなんとかするなんて大口を叩いたけれど、どうすればいいのだろうか。

 すっかり困っていたら、彼らの内の1人が少年に手を上げようとしているのが見えた。

 そんな光景を前に、何もせずに見ていることなんてできなかった。



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