亡国の少年は平凡に暮らしたい

くー

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想い

少女は気持ちを確かめた

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 唇はすぐ離された。いつかの風邪で、薬を飲ませたり飲ませてもらったりしたときの方が長いくらいだった。でも、あの時とは意味が違う。



 ——いや、意味ってなんなの? こういうのって、好きな人にしか、しないよね? ロムは、そうなの? なぜ? いつから?



 混乱して、冷静に考えられなくなっていた。ただ、嬉しくて涙があふれた。それを見て、ロムがうろたえた。

「ご……ごめん……嫌だった?」

 答える事ができず、首を横に振った。嬉しいんだと言いたかったけれど、声にならなかった。だから、彼の胸に顔を押し付けて背中に手を回した。

 ロムの手も、アイラスの背に回された。抱きしめられ、胸が苦しくなるほど嬉しかった。

「ごめん、アイラス……ずっと、好きだった……」
「なんで、謝るノ……?」
「だって……なんだか、悪い事をしているみたいで……」
「そんなわけ、ないじゃない。私も、同じ気持ち、なんだから……」

 抱きしめる手に力が込められた。首筋に顔をうずめられ、くすぐったくて身をよじった。
 そこは、以前押し倒された時に口づけられた場所だった。あの時のロムは、風邪をひいて正気じゃなかったと思っていた。そうじゃなかったのかもしれない。あの時から彼は、今と同じ気持ちだったんだろうか。
 その場所に、今また同じように口づけられて、身体が震えた。

「ちょっ……ちょっと……! 首は、ダメ。くすぐったい……」

 名残惜しそうに、身体が離れた。ロムの顔を見上げると、彼も真っすぐ見つめていて目があった。視線がそらせなかった。その手が延ばされて、アイラスの頬に触れた。

 以前にも似た事があった。あれは確か、絵に行き詰まり、ヒントを求めて城から墓場へ移動している時だった。あの時から彼は、今と同じ気持ちだったんだろうか。

 彼の気持ちが全然わからないと思っていた。でもそれは、自分が鈍感なだけだった。彼はいつも気持ちに正直だった。
 触れられた手は首の後ろに回され、引き寄せられた。再び重なった唇を感じながら、自分のバカさ加減に呆れていた。



 ぱっと、ロムが離れた。あわてた様子で後ろを振り返っている。その視線の先に、蒼く光る双眸があった。
 トールが頭を上げて、こちらを見ていた。ロムの視線に気づき、あわててまた丸くなった。

「今更寝たふりしても、遅いよ……」
「ホントだよネ」

 二人で顔を見合わせ、くすくすと笑いあった。



 ロムがゆっくりとベッドのふちに移動して、そこに腰かけた。

「寝るノ?」
「うん……でも、全然眠くない……」
「私も……」

 アイラスも移動して、彼の隣に腰かけた。少し迷ってから、その肩に頭を預けるようにもたれかかった。もう少し、このまま話がしたかった。



「この前、ここで三人で寝た時さ……夜中にトールと話してた?」
「あ、うん。……あの時、起きてたノ?」
「うん……盗み聞きして、ごめん」

 あの時は何を話したっけ。自分の悩みを打ち明けただけで、ロムに関係あるような事を話した覚えはない。

 ……いや、あった。あの時に初めて、自分の想いを口にした。自分でも顔が赤くなるのがわかった。ロムの肩の触れてない方の頬を、自分の手で隠した。

「じゃ……じゃあロムは、私の気持ち、知ってたノ?」
「いや、あの……俺、あれは夢かと思ってて……だから」
「……だから?」
「今回も、明日の朝……目が覚めたら、また夢じゃないかって……思いそうで……」

 申し訳なさそうな声はどんどん小さくなって、最後は消え入りそうだった。どんだけ自分に自信がないのか。
 でもそれはとても彼らしくて、微笑ましかった。

「じゃあ、明日の朝、起きたら、合図するネ」
「合図?」

 もたれかかっていた身体を起こし、アイラスの方を向いたロムの頬に、人差し指を当てた。

「ここに、ちゅってするから」
「う、うん……」

 自分で提案したけれど、想像すると恥ずかしくなってきた。本当にそれをするのか。
 でも今日の出来事が夢として片づけられるのは嫌だった。



「じゃあ、明日の朝を楽しみにして、寝る」
「た、楽しみにしなくていいヨ……」

 ロムは立ち上がり、アイラスを振り返った。



「おやすみ」

 その笑顔を見て、今日は良い夢が見られそうだと思った。
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