ジャグラック デリュージョン!

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4章 ジャグラック デリュージョン!

【第23話】10月10日 22時00分

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10月10日、夜の10時。俺はマリアの部屋に上がりこんで、今日も今日とて気が済むまでダダ絡みを続けている。
「サナサナー?」
「どした?」
「抱きしめて!」
足の間にマリアを挟んでテレビを見ていると、マリアが甘えたような声をだして俺を見上げる。
「しょーがねえなあ」
とか言いながら、俺は喜んで彼女の腰に両腕を回して抱きしめる。痛くない程度に力いっぱい抱きしめて、マリアの首元に顔を埋めた。くすぐったそうに身をよじらせながらマリアも俺の頭に頬擦りをする。
俺とマリアの交際は順風満帆そのものだった。マリアは前より素直に俺に甘えることを覚えて、俺も甘やかすことを覚えた。傍から見るとただのバカップルなんだろうが、俺たちはそれで幸せなのでそれでいい。
あれから結局、俺がエデンに永住することは叶わず現実とエデンを行ったり来たりしていた。
相変わらず、俺は現実でもエデンでも狂人扱いされている。死んだはずの、誰にも見えないマリアに熱を上げる哀れな男。
それでも、俺には相変わらずマリアは見えているし、マリアも日に日に人間らしい変化を遂げている。そんな姿を俺の妄想と片付けるには無理があると思った。
いや、もういっそ妄想でもいいのかもしれない。俺にとっての真実は俺の目からしか見えないし、他の誰かに全部伝わるわけがないのだ。俺が楽しくて、俺が信じ続けられるならそれでいい。
マリアの頬についばむようにキスを降らすと、はにかみながらキャッキャと笑う。唇を離すとお返しとばかりに今度はマリアからキスが返ってくる。
今日も俺のハニーは世界で一番可愛いわけです。
「ちなみに、今日は仲良しタイムはないんすか?」
冗談交じりに誘ってみると、マリアは含んだような笑みを浮かべて小さく囁く。
「待ってました」
「何その回答、可愛すぎか」
俺はマリアを抱き上げてそのままベッドに運ぶ。ベッドに降ろすと、軽くマリアがバウンドした。楽しそうにベッドに横たわるマリアの上に跨り、俺は早々にパーカーを脱ぐ。
マリアの頬や首にキスをすると、首にしがみつくような勢いで抱き寄せ急かすように唇を食んだ。
「今日は火継が現実の仕事忙しいらしいから、久しぶりにゆっくり出来るな」
「それは朗報じゃん」
キスの合間にマリアに言うと、彼女は嬉しそうに目を細める。
火継は当初言っていた通り、どう足掻いても俺をエデンで放置しておこうとはしないようだった。俺がエデンに行けば、どこから嗅ぎつけてくるのかすぐに追い出しに来る。なので、マリアとはちょくちょく顔を合わせてはいるが、じっくりデートをするとか、お楽しみするとかはあんまり機会がなかったりもした。
エデンに来ないとしたら、火継が結に掛かり切りの時とか、現実の仕事が忙しいとか、そういうタイミングだ。俺はマリアとデートする時間を確保するために、とにかく火継のスケジュールを把握することに心血を注いだ。
マリアと一緒に過ごす時間がなかったら、俺の人生の楽しみの八割がなくなってしまう。ドラッグまではいかんとも、現実で生きる人間たちも皆、仕事終わりに酒を飲んだり女と遊んだり、どっかに遊びに行くわけじゃん。俺だってエデンで彼女とデートしたい。
それがたとえ他人から俺の妄想の産物だと言われてもだ。思想の自由は法律で約束されてるんだろ。詳しくは知らんけど。
俺がマリアのパーカーの下に手を忍ばせると、不意にマリアが服の上からその手を止めた。
「バレたみたいだけど?」
「えー、アロマキャンドル炊いてないのに?」
顔を上げると、俺の言葉が早いか同時か、マリアの部屋の扉が爆風で吹き飛び、炎で焼かれて塵になる。もう慣れてしまった灼熱の風を一身に浴びながら、俺は溜息まじりに笑った。
扉があった場所には火継が立っている。相変わらず少し困ったような半笑いを浮かべて俺たちを見ていた。
火継の能力は熱源へのテレポートが可能だ。火の元には十分用心していたはずだが、今回はもう玄関から正面突破を選んだようだ。
「本当に咲凪は…何回ここを追い出されたら気が済むんだ?」
「兄貴こそ、何回この部屋焼いたら気が済むんだよ。エデンだからって簡単に壊すのやめてもらってよろしいか?」
エデンは人々の妄想が生み出す世界。マリアの部屋は何度でも壊されるが、何度でも直る。そのせいか、火継がここを燃やすのは恒例行事と化していた。
「結が咲凪をエデンで見かけたって言っていたからね。仕事の合間を見て来たんだ」
「そんな合間縫って頂かなくて結構だし、お前の彼女ぴサポート出来すぎじゃない?」
「素敵な女性だろう?」
俺の言葉に火継が不敵に笑った。そこにマリアがタイミングを計ったかのように火継を目掛けて飛び出す。
「隙ありっ!!」
マリアは腰を落して、火継の顎めがけて上段蹴りを繰り出す。それを火継は腕でブロックをするが、マリアの足から刺が生える。その刺が火継の腕を貫通し、血が噴き出した。
「普通は一人につき能力は一つのはずなのに…咲凪の力は本当に厄介だな」
「いい女だべ?」
マリアの姿に今度は俺が不敵に笑って見せる。刺が突き刺さった腕を引き抜き、火継は回転するように軸足を変えながら蹴りを繰り出す。それをマリアが腕で防ぐ。火継の足にふたたびマリアの腕の針が突き刺さるが、火継は小さく笑って指先をジャケットに擦らせた。
チカチカと火花が散る。俺はベッドから立ち上がってマリアの元へと駆け込むと、彼女を抱きかかえて外へと転がり出た。
背後から爆発のような業火が出現する。背中が少し焼けたが、俺はそのままマリアを抱いて、階段の手すりを超えて二階から地面へと降りる。
「咲凪!」
「俺はこっちで楽しくやるから、兄貴も仕事頑張れよなー!」
そのまま姿を蛾に変えてマリアを空へと押し上げる。空へと消えていく俺たちを見て、火継は肩を竦めて笑った。
初めて火継から逃げた時と同じように、俺たちは遠くのビルまで飛び立つと、手頃な屋上に降り立った。こんな逃亡生活も三か月も続けば板につく。
「相変わらず兄貴は強烈だねえ」
「ホンマにな!彼女ガチ勢の上にブラコン!俺はアイツの未来が心配!」
マリアと顔を見合わせてゲラゲラと笑った。
ていうか、仕事して彼女の世話して俺の面倒見に来るとかスーパーマンすぎやしないか。アイツいつ寝てるんだろう。ゆっくり寝てくれよ、頼むから。
「こんなあわただしい逢瀬しか出来ない彼女より、現実でふわふわヒラヒラな彼女でも作った方が平和なんじゃない?告白されてたのも全部見てたぞ」
「お?俺がそんなんでなびくと思ったか?心配しちゃったか?」
「バーカ、心配するはずないだろ。咲凪は私がいないとダメだもんな?」
茶化して笑うとマリアは俺の脇腹に軽いチョップを入れながら茶化し返した。
現実のマリアが死んでから、三か月が経過している。
クラスメイトたちはあれからずっと、俺のメンタルを心配していた。めちゃくちゃ飯を驕ってくれたり、気晴らしだってカラオケに連れてってくれたりした。俺がどんなに大丈夫だと言っても、ますます彼らは俺を心配するだけだった。
同時にマリアがいなくなると、俺のモテ期に拍車がかかった。贅沢なことに色んな女の子から彼氏枠やワンチャンのお誘いを頂いたわけだが、どれも彼女がいるからと断った。
周囲は「藤村は彼女がいると言うくせに、誰かとデートをしているところを見たことがない」と不思議がる。マリアのことが忘れられないんだとか、よほど彼女が欲しくないんだとか、実はゲイなんだろうとか、あらぬ噂や疑いを掛けられているが、別に好きに言ったらいいと思う。
俺は現実だってずっと四六時中マリアと一緒にいるのだ。俺にとっては、いつだってマリアとデートしているんだから、そんなことを言われるのは心外だ。
「そーそー、俺はマリアがいないとダメなんだよ。分かってんじゃん」
俺は目の前のマリアを抱き寄せると、そのまま顔を寄せてキスをした。エデンでしか触れ合えないマリアの身体はいつだって温かくて柔らかい。
周囲を色とりどりの蛾が舞っている。夜景の光を反射して、キラキラと光る赤い鱗粉がマリアの瞳みたいで綺麗だ。
「病める時も健やかなる時も?」
前に俺が頭の中で繰り広げた一人芝居の言葉をマリアが引用する。続きの言葉を期待するように上目遣いで俺を見た。
俺はそれに歯を見せて笑った。
「二人が死を分かっても、天国だろうが地獄だろうが、どこまでも一緒に行くぜマイハニー!」
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