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第一部【4章】憤怒の化け物
20.化物
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建物だった瓦礫の傍にある池に映りこむのは、真っ白な一つ目のカラスのような化け物。生まれて間もない頃も似たような姿をしていた。今より全然小さくて、目は二つあったけど。
檻から出るために人型へと必死に近づいたはずが、もう原型を留めていない。翼の先に着いた鉤爪のような手の平で人間の身体を串刺しにし、そのまま手の中で握りつぶす。バラバラと塵になって壊れていくそれは、今まで虐待してきた生物の中でも一番冷たい。
ただの機械。無機物だ。
「キティ!」
辛うじて機能する声帯で叫ぶ。その背後から何かで背中を撃ち抜かれ、爆発した。
耳障りな音を立てて空を飛び回る戦闘機が俺に狙いを定めて一斉にミサイルを放つ。それらが身体を貫通しては爆発を起こし、俺の身体から白い羽毛と血飛沫が飛び散った。
身体が焼け焦げて、肉片と血液がボタボタと羽毛と一緒に落ちていく。ドクドクと脈を打つ傷痕が疼く。
疼いて痛んで仕方ない。全て壊して、めちゃくちゃにしてやりたい。翼を羽ばたかせて空へと上がると、戦闘機をくちばしで叩き落とす。
「ハル!」
遠くからキティの声が聞こえた。振り返ると、施設の外へと手を引かれて行く彼女の姿が視界に映る。
「やだ!離して!ハル!」
人間の手を振り払おうとするキティを人間は無理やり連れて行こうと担ぎ上げる。涙を溜め込んで揺れる水色の瞳で彼女は俺を見て、必死に手を伸ばす。
「ハル!やだ、離れたくな…」
その瞬間、人間の姿がキティごとホログラムの粒子となって消える。彼女が瞳に浮かべていた涙だけが地面に落ちた。
「キティ!」
全身が沸き立つような激情で頭が真っ白になる。叫ぶ俺に地面に群がる人間どもが銃撃と電力を纏ったワイヤーを一斉に放つ。
身体中に走る激痛に怯む俺にミサイルが次々に打ち込まれ、片腕が骨ごと爆破される。空を飛ぶ手段を失った俺はそのまま地面へと引き戻された。
空から落ちた俺に人間たちが武器を手に周囲を駆け寄る。白い服を着込んだそれは、さながら死体に群がる蛆虫だ。
「早急に焼却処分を」
「足と翼は溶解しろ」
液体の入ったタンクを背負った人間たちが、タンクからチューブで繋がれた銃で俺の足と翼に中身を吹きかける。今までに感じたことのない熱で酷い激痛が走る。思わず叫び声を上げるが、人間たちは機械的に作業を続ける。
俺の足が、腕が溶かされる。どろどろと血液と肉片が入り交じった赤とも黄色とも取れる汚いそれらを人間たちは透明な容器で採取した。
「貴重な変異体だ。サンプルは残した方がいい」
この後に及んでサンプル。俺からキティを取り上げて、キティから俺を引き剥がして、人間たちは興味深そうに俺の液状化した肉体を見て笑う。
ふざけんな。
人間が俺に向けて火炎放射器を向ける。顔面に向かってそれを放つ。目の前が真っ赤に燃え上がり、視界がシャットダウンされたように機能を失った。
痛い。痛い。身体中が悲鳴を上げている。喉が裂けそうな叫び声を上げても、人間たちはやめない。
檻の中と一緒だ。アイツらに俺の悲鳴など聞こえない。キティの訴えも届かない。聞く耳がない。
ふざけんな。
「完成体の施術は無事に済みそうか?」
「今はバックアップから機械に引き継ぎを行っているらしい。あと1時間もすれば施術は可能になるだろう」
キティの姿が脳裏に浮かぶ。俺に手を伸ばして助けを求めるあの姿を思い出すと、身体が疼いた。
キティはトロくて非力で、俺がいないと何も出来ない。人間の1人も返り討ちに出来ない。だけど、それでも、腐っていただけの俺に無償の愛情を注いでくれた彼女が好きだ。いつも呑気で馬鹿みたいに明るい笑顔が似合う彼女じゃないと嫌だ。
許さない。絶対に許さねえ。キティを別人にしてたまるか。
殺してやる。皆殺しだ。俺と彼女を引き離そうとするなら、そうしようとする奴らなど全員死ねばいい!
「待て、様子がおかしいぞ」
暗闇の中で人間が珍しく困惑したような声を上げた。
焼け落ちていく身体に少しずつ五感が戻っていく。メキメキと骨が音を立てて再生し、機能を失っていた視界が開けた。骨組みに沿うように筋肉が筋道を作り、皮膚が出来上がる。
「コロス!」
皮膚から白い羽毛が生え揃い、再び翼の形を形成した。力強く翼を羽ばたかせると、蛆虫たちが風圧に負けて飛ばされていく。
「おい!データにないぞ、こんなこと!残機を確認しろ!」
目の前に残った人間が叫ぶ。俺はそれを拳で叩き潰す。バチバチと身体から火花を散らしながら、潰された人間が拳の下から俺を見て呟いた。
「ばっ、化け物だ…」
檻から出るために人型へと必死に近づいたはずが、もう原型を留めていない。翼の先に着いた鉤爪のような手の平で人間の身体を串刺しにし、そのまま手の中で握りつぶす。バラバラと塵になって壊れていくそれは、今まで虐待してきた生物の中でも一番冷たい。
ただの機械。無機物だ。
「キティ!」
辛うじて機能する声帯で叫ぶ。その背後から何かで背中を撃ち抜かれ、爆発した。
耳障りな音を立てて空を飛び回る戦闘機が俺に狙いを定めて一斉にミサイルを放つ。それらが身体を貫通しては爆発を起こし、俺の身体から白い羽毛と血飛沫が飛び散った。
身体が焼け焦げて、肉片と血液がボタボタと羽毛と一緒に落ちていく。ドクドクと脈を打つ傷痕が疼く。
疼いて痛んで仕方ない。全て壊して、めちゃくちゃにしてやりたい。翼を羽ばたかせて空へと上がると、戦闘機をくちばしで叩き落とす。
「ハル!」
遠くからキティの声が聞こえた。振り返ると、施設の外へと手を引かれて行く彼女の姿が視界に映る。
「やだ!離して!ハル!」
人間の手を振り払おうとするキティを人間は無理やり連れて行こうと担ぎ上げる。涙を溜め込んで揺れる水色の瞳で彼女は俺を見て、必死に手を伸ばす。
「ハル!やだ、離れたくな…」
その瞬間、人間の姿がキティごとホログラムの粒子となって消える。彼女が瞳に浮かべていた涙だけが地面に落ちた。
「キティ!」
全身が沸き立つような激情で頭が真っ白になる。叫ぶ俺に地面に群がる人間どもが銃撃と電力を纏ったワイヤーを一斉に放つ。
身体中に走る激痛に怯む俺にミサイルが次々に打ち込まれ、片腕が骨ごと爆破される。空を飛ぶ手段を失った俺はそのまま地面へと引き戻された。
空から落ちた俺に人間たちが武器を手に周囲を駆け寄る。白い服を着込んだそれは、さながら死体に群がる蛆虫だ。
「早急に焼却処分を」
「足と翼は溶解しろ」
液体の入ったタンクを背負った人間たちが、タンクからチューブで繋がれた銃で俺の足と翼に中身を吹きかける。今までに感じたことのない熱で酷い激痛が走る。思わず叫び声を上げるが、人間たちは機械的に作業を続ける。
俺の足が、腕が溶かされる。どろどろと血液と肉片が入り交じった赤とも黄色とも取れる汚いそれらを人間たちは透明な容器で採取した。
「貴重な変異体だ。サンプルは残した方がいい」
この後に及んでサンプル。俺からキティを取り上げて、キティから俺を引き剥がして、人間たちは興味深そうに俺の液状化した肉体を見て笑う。
ふざけんな。
人間が俺に向けて火炎放射器を向ける。顔面に向かってそれを放つ。目の前が真っ赤に燃え上がり、視界がシャットダウンされたように機能を失った。
痛い。痛い。身体中が悲鳴を上げている。喉が裂けそうな叫び声を上げても、人間たちはやめない。
檻の中と一緒だ。アイツらに俺の悲鳴など聞こえない。キティの訴えも届かない。聞く耳がない。
ふざけんな。
「完成体の施術は無事に済みそうか?」
「今はバックアップから機械に引き継ぎを行っているらしい。あと1時間もすれば施術は可能になるだろう」
キティの姿が脳裏に浮かぶ。俺に手を伸ばして助けを求めるあの姿を思い出すと、身体が疼いた。
キティはトロくて非力で、俺がいないと何も出来ない。人間の1人も返り討ちに出来ない。だけど、それでも、腐っていただけの俺に無償の愛情を注いでくれた彼女が好きだ。いつも呑気で馬鹿みたいに明るい笑顔が似合う彼女じゃないと嫌だ。
許さない。絶対に許さねえ。キティを別人にしてたまるか。
殺してやる。皆殺しだ。俺と彼女を引き離そうとするなら、そうしようとする奴らなど全員死ねばいい!
「待て、様子がおかしいぞ」
暗闇の中で人間が珍しく困惑したような声を上げた。
焼け落ちていく身体に少しずつ五感が戻っていく。メキメキと骨が音を立てて再生し、機能を失っていた視界が開けた。骨組みに沿うように筋肉が筋道を作り、皮膚が出来上がる。
「コロス!」
皮膚から白い羽毛が生え揃い、再び翼の形を形成した。力強く翼を羽ばたかせると、蛆虫たちが風圧に負けて飛ばされていく。
「おい!データにないぞ、こんなこと!残機を確認しろ!」
目の前に残った人間が叫ぶ。俺はそれを拳で叩き潰す。バチバチと身体から火花を散らしながら、潰された人間が拳の下から俺を見て呟いた。
「ばっ、化け物だ…」
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