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第一部【4章】憤怒の化け物
21.混沌
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ミサイルが身体中に撃ち込まれる。それは俺の肉体は破壊するが、破壊される速度と同じ早さで肉体が再生を繰り返す。空を舞う羽虫のようなそれらをくちばしで叩き落とし、手で握りつぶした。
殺してやる。めちゃくちゃにしてやる。人間どもが作ったこんなクソみてえな世界、ぶっ潰してやる。
「キティ!」
激情に駆られるままに叫ぶ。その言葉の意味が、一瞬分からなくなった。
怪物にまざって逃げて行こうとする人間を片っ端から掴まえ、握り潰す。目に入るだけで無性にイライラする。全員潰さないと気が済まない。
人間を両手で引きちぎり、くちばしで穴を開けると最高に気分が良かった。頭がドクドクと脈打って、どうしようもなく興奮した。
不意に俺の目の前に、俺の身体と同じくらいの大きさの巨大な蛾が割り込む。目の前の人間たちに毒々しい色の粉を撒き、それを浴びた人間たちの身体が瞬時に錆び付いて動きが鈍った。
「こんなところで油売ってる場合かい?」
蛾の羽には四つの瞳のような模様。その気味の悪い瞳は俺を見つめて言葉を放った。
「キティを探しているんだろう?彼女なら町の中央にあるビルに連れて行かれたようだよ。俺には見えるけど、ハルには見えないだろう?」
優し気でどこか他人を小馬鹿にするようなそれは、なんだか聞き覚えのある声だ。あまり良い思い出はないような気がするが、その言葉に無性にイライラしていた気持ちが少しだけ落ち着くのを感じる。
「俺が人間たちの動きをとめてあげる、だからハルは早く行くといい。今頃またべしょべしょになって泣いてるよ。ハル~ハル~ってさ」
穏やかそうで、癇に障る笑い声だ。だけど、どこかで前に聞いたような話だと思った。
俺は地面を蹴りあげて空に飛び立つ。俺を見送る蛾の翼についた瞳が微笑むように弧を描いていた。
「早くあの白いカラスを仕留めろ!被害が大きすぎる!」
「他所からも変異体を確認。至急対処を!」
俺を見つけると、人間たちが攻撃を仕掛けてくる。そのたびに食いちぎり、叩き潰し、無機物の破片へと変える。破片に変える度、少しずつ少しずつ自分の頭から大事なものが消えていく感じがした。
そういえば、俺はなんでここにいるんだろう。なんでこんなにイライラしているんだろう。当初の目的が思い出せない。
何かを探していた気がする。考えようとしても、人間が目に入るとそれを殺すことしか考えられなくなる。
街の中央にそびえる一際背の高いビルまで来ると、あの気持ち悪い蛾が言っていた言葉すら思い出せなくなってきていた。
俺を執拗に追いかけてきていた羽虫はもういない。全て破壊しつくしてしまったのかもしれない。殺しても殺しても湧いてきた人間すら、姿が随分と減った。
めちゃくちゃにしてやりたかった。何もかも壊してやりたかった。なのに、壊し尽くしても俺はどうしようもなく飢えていた。
一番大事なものを失くしたような焦燥感と渇き。なんだったっけ。探していたものの名前が思い出せない。
不意にどこかで悲鳴が聞こえた。小さな、凄く微かで非力なそれは他のどれとも違う。痛いくらい熱くなっていた頭が少し冷える。探していたのは、それなような気がした。
懐かしい声だ。俺の耳を捉えて離れないその声に、俺はビルの中を覗き込む。
「大人しくしろ!避難所には転送装置がないんだ、運ぶ手間を増やすな!」
「やめてよ!ハルの所に戻る!」
人間に手を引かれて引きずられるように小さな生き物がどこかへと連れていかれようとしている。それは窓越しに俺を見つけると、パッと目を見開いて笑顔で手を伸ばした。
薄桃色をしたケープのフードを被ったそれは、なんだかネズミのようにも見えた。
「ハル!ハルだ!」
その手を掴みたいと思った。手を伸ばすと、分厚いガラスと壁が阻む。人間は俺を見て、そのネズミを担ぎ上げる。
また俺と引き離す気か。冷えてきていた頭に再び血が登る。俺は壁にくちばしで穴を空け、頭をねじ込んだ。ガラガラと建物が崩れ、床が斜めに傾く。
「くそ!」
人間がネズミを地面に投げるように放って銃を構えた。投げ出されたそれは悲鳴を上げて床を転がって呻く。
漠然と許せないと思った。銃弾を顔面から受けながら、俺はそのまま人間を掴み上げ、そのまま窓の外へと放った。倒壊していくビルの中で彼女が瓦礫に埋まらないように身体を寄せ、背中を屋根にする。
身体の重みで建物が崩れていく。彼女を摘み上げ、胸に抱えると、彼女は怯えたように身を寄せた。
身体中に瓦礫がぶつかり、ガラス片が突き刺さる。それでも、痛みより自分の胸の中にその小さな温もりがある安心感の方が強かった。
殺してやる。めちゃくちゃにしてやる。人間どもが作ったこんなクソみてえな世界、ぶっ潰してやる。
「キティ!」
激情に駆られるままに叫ぶ。その言葉の意味が、一瞬分からなくなった。
怪物にまざって逃げて行こうとする人間を片っ端から掴まえ、握り潰す。目に入るだけで無性にイライラする。全員潰さないと気が済まない。
人間を両手で引きちぎり、くちばしで穴を開けると最高に気分が良かった。頭がドクドクと脈打って、どうしようもなく興奮した。
不意に俺の目の前に、俺の身体と同じくらいの大きさの巨大な蛾が割り込む。目の前の人間たちに毒々しい色の粉を撒き、それを浴びた人間たちの身体が瞬時に錆び付いて動きが鈍った。
「こんなところで油売ってる場合かい?」
蛾の羽には四つの瞳のような模様。その気味の悪い瞳は俺を見つめて言葉を放った。
「キティを探しているんだろう?彼女なら町の中央にあるビルに連れて行かれたようだよ。俺には見えるけど、ハルには見えないだろう?」
優し気でどこか他人を小馬鹿にするようなそれは、なんだか聞き覚えのある声だ。あまり良い思い出はないような気がするが、その言葉に無性にイライラしていた気持ちが少しだけ落ち着くのを感じる。
「俺が人間たちの動きをとめてあげる、だからハルは早く行くといい。今頃またべしょべしょになって泣いてるよ。ハル~ハル~ってさ」
穏やかそうで、癇に障る笑い声だ。だけど、どこかで前に聞いたような話だと思った。
俺は地面を蹴りあげて空に飛び立つ。俺を見送る蛾の翼についた瞳が微笑むように弧を描いていた。
「早くあの白いカラスを仕留めろ!被害が大きすぎる!」
「他所からも変異体を確認。至急対処を!」
俺を見つけると、人間たちが攻撃を仕掛けてくる。そのたびに食いちぎり、叩き潰し、無機物の破片へと変える。破片に変える度、少しずつ少しずつ自分の頭から大事なものが消えていく感じがした。
そういえば、俺はなんでここにいるんだろう。なんでこんなにイライラしているんだろう。当初の目的が思い出せない。
何かを探していた気がする。考えようとしても、人間が目に入るとそれを殺すことしか考えられなくなる。
街の中央にそびえる一際背の高いビルまで来ると、あの気持ち悪い蛾が言っていた言葉すら思い出せなくなってきていた。
俺を執拗に追いかけてきていた羽虫はもういない。全て破壊しつくしてしまったのかもしれない。殺しても殺しても湧いてきた人間すら、姿が随分と減った。
めちゃくちゃにしてやりたかった。何もかも壊してやりたかった。なのに、壊し尽くしても俺はどうしようもなく飢えていた。
一番大事なものを失くしたような焦燥感と渇き。なんだったっけ。探していたものの名前が思い出せない。
不意にどこかで悲鳴が聞こえた。小さな、凄く微かで非力なそれは他のどれとも違う。痛いくらい熱くなっていた頭が少し冷える。探していたのは、それなような気がした。
懐かしい声だ。俺の耳を捉えて離れないその声に、俺はビルの中を覗き込む。
「大人しくしろ!避難所には転送装置がないんだ、運ぶ手間を増やすな!」
「やめてよ!ハルの所に戻る!」
人間に手を引かれて引きずられるように小さな生き物がどこかへと連れていかれようとしている。それは窓越しに俺を見つけると、パッと目を見開いて笑顔で手を伸ばした。
薄桃色をしたケープのフードを被ったそれは、なんだかネズミのようにも見えた。
「ハル!ハルだ!」
その手を掴みたいと思った。手を伸ばすと、分厚いガラスと壁が阻む。人間は俺を見て、そのネズミを担ぎ上げる。
また俺と引き離す気か。冷えてきていた頭に再び血が登る。俺は壁にくちばしで穴を空け、頭をねじ込んだ。ガラガラと建物が崩れ、床が斜めに傾く。
「くそ!」
人間がネズミを地面に投げるように放って銃を構えた。投げ出されたそれは悲鳴を上げて床を転がって呻く。
漠然と許せないと思った。銃弾を顔面から受けながら、俺はそのまま人間を掴み上げ、そのまま窓の外へと放った。倒壊していくビルの中で彼女が瓦礫に埋まらないように身体を寄せ、背中を屋根にする。
身体の重みで建物が崩れていく。彼女を摘み上げ、胸に抱えると、彼女は怯えたように身を寄せた。
身体中に瓦礫がぶつかり、ガラス片が突き刺さる。それでも、痛みより自分の胸の中にその小さな温もりがある安心感の方が強かった。
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