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3章
1 試練の時
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1.
口の中に広がる鉄の味。ギシギシと痛む身体、口からはボタボタと血が流れ出る。
僕の髪を掴みあげた男が僕の顔を覗き込む。深淵のように光一つない黒い瞳に、苦悶に歪む自分の顔が映り込んだ。
彼の瞳に映る僕の片目は潰れ、鼻血と口から出た血液で顔の下半分は真っ赤に染まっている。
「ゲームの結果発表だ」
息を漏らすように笑う彼に、僕は歯を食いしばって、首に下げていた短剣を手に取る。首から紐を引きちぎって千切って振るう。七色に輝くそれは黒い大剣へと姿を変え、アマネの腕を目掛けて切っ先が弧を描いた。
それをかわすように僕の髪から手を離し、バックステップで彼は後ろへと回避した。
彼の瞳に映る僕の目は燃えるような赤色を宿している。自分でも見たこともないような表情だった。
「さてもジャバウォックの討ち倒されしは真なりや?我が腕に来たれ、赤射の男子よ!おお芳晴らしき日よ!花柳かな!華麗かな! 父は喜びにクスクスと鼻を鳴らせり」
歌うように彼は詩を口ずさむ。キシキシと歯を鳴らすように笑い、彼はポケットから取り出した棒付きキャンディーを口に入れた。
「次にアマネに会う日まで、お前が誰かを守れるくらい強くなってたらお前の勝ち。守れもしないのに、お前が誰かの傍で幸せそうにしてたら、アマネはその幸せを壊しに行く。約束したよなあ?守れるよなあ?」
自分の呼吸が耳の中で反響し、彼の言葉が遠く聞こえる。
僕は血の混ざった唾を吐き捨て、彼を睨む。
月明かりが差し込む城の長い長い廊下。酸欠で頭がボンヤリとし、足元がフワフワと無重力に感じた。
「…でも、あなたの腕を切り落とせば、話を聞いてくれる。出来なければ、ミズキを僕から奪う。そういうことなんだろ?」
僕が言うと、真っ黒な目をした彼は息を漏らすように笑った。
助けは来ない。ここはアマネが用意した孤立無援の戦場だ。逃げ場はない。僕に逃げる選択肢はない。助けを呼んではならない。
どうしてこうなったのか、出来事は1週間前に遡らなくてはならない。
ジャバウォックを狩る村人との対峙、これはきっと避けては通れない。試練が早まっただけ。僕はこの試練を受けてたたないわけにはいかなかった。
口の中に広がる鉄の味。ギシギシと痛む身体、口からはボタボタと血が流れ出る。
僕の髪を掴みあげた男が僕の顔を覗き込む。深淵のように光一つない黒い瞳に、苦悶に歪む自分の顔が映り込んだ。
彼の瞳に映る僕の片目は潰れ、鼻血と口から出た血液で顔の下半分は真っ赤に染まっている。
「ゲームの結果発表だ」
息を漏らすように笑う彼に、僕は歯を食いしばって、首に下げていた短剣を手に取る。首から紐を引きちぎって千切って振るう。七色に輝くそれは黒い大剣へと姿を変え、アマネの腕を目掛けて切っ先が弧を描いた。
それをかわすように僕の髪から手を離し、バックステップで彼は後ろへと回避した。
彼の瞳に映る僕の目は燃えるような赤色を宿している。自分でも見たこともないような表情だった。
「さてもジャバウォックの討ち倒されしは真なりや?我が腕に来たれ、赤射の男子よ!おお芳晴らしき日よ!花柳かな!華麗かな! 父は喜びにクスクスと鼻を鳴らせり」
歌うように彼は詩を口ずさむ。キシキシと歯を鳴らすように笑い、彼はポケットから取り出した棒付きキャンディーを口に入れた。
「次にアマネに会う日まで、お前が誰かを守れるくらい強くなってたらお前の勝ち。守れもしないのに、お前が誰かの傍で幸せそうにしてたら、アマネはその幸せを壊しに行く。約束したよなあ?守れるよなあ?」
自分の呼吸が耳の中で反響し、彼の言葉が遠く聞こえる。
僕は血の混ざった唾を吐き捨て、彼を睨む。
月明かりが差し込む城の長い長い廊下。酸欠で頭がボンヤリとし、足元がフワフワと無重力に感じた。
「…でも、あなたの腕を切り落とせば、話を聞いてくれる。出来なければ、ミズキを僕から奪う。そういうことなんだろ?」
僕が言うと、真っ黒な目をした彼は息を漏らすように笑った。
助けは来ない。ここはアマネが用意した孤立無援の戦場だ。逃げ場はない。僕に逃げる選択肢はない。助けを呼んではならない。
どうしてこうなったのか、出来事は1週間前に遡らなくてはならない。
ジャバウォックを狩る村人との対峙、これはきっと避けては通れない。試練が早まっただけ。僕はこの試練を受けてたたないわけにはいかなかった。
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