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7章
4 アリスがアリスでいる理由
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4.
ルイスはちらつかせていた鍵を手の平の中へとしまうように握り、覆い隠す。彼が次に手を開くと、そこには鍵はなかった。彼は目を閉じて喉を鳴らして笑ってから、ミズキに対してギザギザの歯を見せて笑った。
「君はすでに記憶を取り戻す方法を眠り鼠から得たはずだ。なのに、思い出そうともしないね。怖いんじゃないか?」
「言い方があるだろ」
思わず僕が言い返した。何故、こうも人を傷つけるような言い回ししか出来ないんだろうか。
それも、僕に対するものよりミズキに対する物言いの方が一層キツいように感じる。
面白がるような嘲笑。最初からミズキが記憶を取り戻すことが出来ないと高を括ったような言葉は聞いている僕の方がイライラしてしまう。
「大体からして、ジャッジもイディオットもアマネも待っているんだ。こんなところで時間を取らせないで欲しい」
「それは安心してくれ。ここは僕が作ったまた別の時間軸だ。彼らがいる世界は、君が錯乱していたあの場面で全ての時間で停止している。招くことが出来る人数に制限はあるけどね。これでも開発中のエリアなんだ」
ルイスの言葉をそのまま解釈するなら、僕が記憶を失ったあの場面であの世界ごと停止しているということだろうか。彼の話を聞く限りでは、僕が眠り鼠をやっていた時代があったり、オズの魔法使いをベースにした物語があったりと、様々な空間があるのかもしれない。僕は試しにそのまま彼に尋ねてみることにした。
「開発中って言うことは、何個もこんな世界があるのか?」
「ああ。私が最近お気に入りだったのはオズの魔法使いの世界に、アメリカ人だけを集めたエリアだ。君たちがいるのは日本人だけを集めたエリアだが、人種が違えば文化の違いがなかなか興味深い。他にも美女と野獣や、赤毛のアン、私の趣味で揃えている」
ルイスはクスクスと笑う。何故かその笑い方は自慢げだ。
それだけの力を持っているなら、イディオットがしていた時間計算がかみ合わないという話も、シュラーフロージィは自分が初代の眠り鼠であるとも話していたのも、彼が情報操作していると考えれば合点がいく。
しかし、そうだとして何故ルイスはわざわざジャッジを連れてまで僕らの元へと現れたのだろう。人数制限というものに引っかかったのだろうか。
ルイスはミズキに向かって微笑む。その暗闇で光る瞳が弧を描くと、不気味な三日月のようにも見えた。
「さあ、可愛い私のアリス。選択してくれよ。君の選択であの世界の未来が決まる。覚悟があるなら、今すぐ思い出してくれ。眠り鼠に忘れさせてもらったことも、自分で蓋した記憶も、何もかも」
クスクスと鼻を鳴らす彼の笑い声には、気のせいでなければ確実に悪意が含まれていた。何がそこまで彼を醜くさせるのか分からない。ミズキもそれを感じとっているのか、僕の胸に抱かれたままの彼女は身体を強張らせている。
「ミズキ、無理しなくていい」
「無理しないと、得られないチャンスもある」
僕の言葉に被せてルイスは畳みかける。
「君がここで思い出さないのなら、この鍵は二度と分けてあげない。そこのジャバウォックも一生外に出さないよ。それでもいいかい」
「卑怯だろ!」
「卑怯も何も!ここは私の世界だ。さっきも言っただろう。寄生しているのは君たちなんだ。特にアリスはそうだ。お似合いな人間しか、私はアリスに配役などしないんだよ」
何という言い草だ。僕の配役理由も酷いものだったが、ミズキに対してもロクな理由ではないことがすでに分かる。
言い返してやろうかと僕が口を開きかけると、ミズキは僕の口を優しく手で塞いだ。
「ありがとう、アスカ。私なら大丈夫だよ」
ミズキは僕の腕から抜け出るように地面へ降り立つ。黒い床が波打つように波紋を打った。
大丈夫、なんて彼女は言っているけれど、手が震えているのがさっき顔に触れた時に分かった。怖いんだ。怖いに決まっている。ずっとずっと先送りにしてきた記憶を取り戻す行為を、みんなの前で披露しなくてはいけない。残酷な話だ。
僕は離れていくミズキの手を取る。振り返った彼女に僕は口元だけで微笑んで、頷いた。
「大丈夫、絶対に傍から離れたりしないから」
ミズキは僕の顔を見てから、目を伏せて微笑み、再び僕を見て頷いた。
これは恩返しなんかではない。同情でもない。自己肯定感を埋める愛を揺するわけでもない。
僕がやりたくてやることだ。彼女がどんな過ちを犯していようと、どんな過去を持っていようと、僕は彼女を見捨てたりはしない。僕とミズキが一緒に過ごしてきた時間は、僕が見てきた僕だけの真実だ。そこに間違いなどない。僕が自分を一番、信じているんだから。
「ジャバウォックには残念だけど、彼女の人生はそんなに大それたものではないよ」
思い出せと言ったくせに、ルイスはすでに興味を半分くらい失ったように自分の持っている本を閉じたり閉めたりして、遠くを眺めている。
その様子にミズキは何か感じるものがあるのか、何故か一瞬たじろいだ。大したものがないということは、ミズキにとって大きなトラウマはないということな気がするが、それでは悪いのかと僕は内心で首を傾げた。
平穏ならそれに越したことはないだろう。しかし、この世界に招かれている人間は総じて皆、何かしらの不自由を抱えていると思っている。それならば、ここにいるミズキもそうに違いない。
僕はミズキの手を握りしめる。それに彼女は呼応するように強く握り返した。
ミズキが目を閉じる。沈黙を経て、次第に僕らの周囲が明るくなった。
「日向瑞希の日常編、上映開始だ」
ルイスの言葉通り、まるでそれは映画のモニターのようだ。映し出されるのは幼い日のミズキの姿だ。彼女は床に寝そべり、スケッチブックに絵を描きなぐっている。クレヨンで大胆に描かれたそれは一見しても何を描いているのか分からなかったし、クレヨンの線はスケッチブックを通り越して床にまで及んでいる。
「瑞希、お夕飯出来たわよ。あなたの大好きなハンバーグ…」
不意に扉を開けて現れた女性はそこまで言うと、ミズキの手元にあるスケッチブックを見て顔を青くした。
ミズキが叩かれるんじゃないかと僕は思わず警戒するが、僕の予想に反して女性はミズキの身体を優しく抱き上げた。
「ちょっとー、こんなに描いちゃって!床までダイナミックね!これじゃ、消す時にお母さん悲しくなっちゃうから、次からは紙の中におさめてよね」
母親らしいその女性は困ったように笑うと、ミズキを抱き上げたまま彼女の頬を優しく手でこねた。
「もうやらない?」
「やだ!もっとかくー!」
一方、ミズキは更に腕の中で暴れて、母親の服に青いクレヨンの線が走った。それでも母親は文句を言いながらも叩いたりはせずに、ミズキを抱き上げたままリビングの方へと歩いて行く。
モニターを見つめていると、僕が握りしめていたはずのミズキの手が、僕の手の中から消えていることに今更気付く。慌てて周囲を見回す僕に、ルイスは大きな欠伸をしながら首を回した。彼の骨がコキコキと小気味いい音を立てた。
「この空間では、記憶を追体験している人間はモニターの中に入ってしまうんだ。こちらの声は微妙に届くから、お静かにお願いしようか」
そう言われて、僕は自分の手の平からルイスへと視線を移す。ルイスは至極退屈したというような表情で、足を組み直してモニターを見る。
「まあ、静かにしてもしなくてもいいか。彼女の人生はそう面白いものでもないしさ。退屈ならヤジを飛ばすなり、早回しをお願いするでもいいよ」
「お前、つくづく性格悪いな…」
人の人生を見て、面白いも面白くないもあるものか。ただ、再生されていくミズキの人生の一端はあまりに穏やかで、フィクションなんじゃないかと思ってしまう。
食卓には活気が溢れ、世話焼きの姉がおり、寡黙な父と明るい母親がミズキの面倒を見ている。ミズキがご飯をこぼしても父親は彼女を叩いたりはしないし、母親は理不尽なことで怒ったりはしない。姉もまだ幼いせいかもしれないが、少し空気が読めないように見えるものの、精一杯の愛情で妹の面倒を見ているようだった。
「彼女は君の人生に比べたら飽きがきそうなほど、実に平穏さ。私はずっと人並の身体を得ずに生きてきた。そんな苦痛の先に私はいるのに、そんな平穏な環境で生きてきながら、生きずらいだの何だのとのたまうアリスが嫌いなんだ。そんな甘えた人間は、この世界で死ぬまで現実逃避をして、私に面白い話を提供するコマであって欲しいのさ」
「つまり、お前はアリスの配役はそうやって決めているのか?」
僕が尋ねると、作者は感心したとでも言いたげに指を弾いて僕を指さした。
「ああ、賢いじゃないかジャバウォック!そうさ、甘えている人間ほど、末永くこの世界に留まり、私が流した情報に踊らされて勝手に世界を撹乱してくれる。あのアリスも今の眠り鼠と合わせれば最高のパフォーマンスを発揮する。馬鹿ほどコマには相応しい」
彼の言葉に僕は舌打ちする。何様なんだろうと思うが、少なくとも鍵はミズキの過去を見終わるまでは貰えない。無駄な反論をして、さらにミズキを悪く言われては胸糞悪くなるだけだ。それに、こちらの声が微妙に届くという彼の言葉通りであれば、モニター内にいるミズキに僕らの会話が聞こえてしまうかもしれない。
僕の過去を見ている時に、ルイスはミズキを隔離していた。それは、僕が過去の追体験中にミズキが僕に声を掛けたら不都合だと感じたからに違いない。ならば、僕がここに置かれている理由は一つしかない。
僕がいることで、ミズキがもっと傷つく可能性があるということだ。ルイスはミズキを毛嫌いしているし、残念ながら彼はずる賢いように見える。彼女を傷つけて楽しむのに、手段は選ばないだろう。
「ミズキは頭の良い子さ」
ルイスを刺激しない程度の反論を返す。モニターに映るミズキはハンバーグを食べながら駄々をこねている。母親に切り分けて欲しいと言ってみたり、ジュースが飲みたいとかを言い、ワガママが通るまで騒ぐ。さすがに父親が軽く叱咤すると、ミズキは泣きながら言うことをきくが、映画で見るような日常風景だ。
ミズキの幼少期は、僕が見てきたミズキの姿について疑問を抱くほどに傍若無人だった。幼いながらに生き生きと生活する彼女は、僕の目から見ると自由でのびのびとしていて、とても輝いて見えた。
「今日はお父さんもお休みだし、良いお天気だから、みんなでお散歩に行きましょうか」
お皿を洗いながら、ミズキの母親が言った。リビングのテーブルを吹いていた姉と、何も家事を手伝わずに床に寝そべってスケッチブックに落書きをしていたミズキが顔をあげる。
「やったー!行くー!」
「えー、私おえかきしたい!」
喜んでテーブル布巾を片付ける姉と対照的にミズキは頬を膨らませる。父親は本当に寡黙な人なのか、一言も発さなかったが、静かに立ち上がって出掛ける準備を始めるあたり、散歩には乗り気なのかもしれなかった。
「お母さん、私もお皿拭くの手伝うね!」
「あら、杏!ありがとう」
お散歩に向けて、自ら進んで家事を名乗り出る姉を見て、ミズキは何だか面白くなさそうな顔をしていたが、気を取り直したようにスケッチブックに絵の続きを描きこんでいく。
色合いが独特だ。何を描いているのかはやっぱり良く分からなかったが、僕の目には普通の子供が描くものとは少し異なって見える。
そもそも、ファンシーな色をあまり使わないのだ。ビビットな色だったり、反対色も進んで隣に並べる。僕みたいな保守的な人間であれば避けたくなる色を使い分けるのは、子供ならではなのか、怖いもの知らずなのか分からない。でも、カタにはまらないそれを僕は少し羨ましいと感じた。
「杏のおかげで早く終わったわよー!さあ、お散歩に行きましょうか!」
タオルで手を拭きながら、母親が言う。姉は喜び勇んで玄関まで走るのに対し、ミズキはクレヨンを握りしめたまま口をへの字に曲げた。
「みんな行くの?」
「行くわよー、ミズキもおいで」
父親も姉も出て行ってしまったリビングで、母親は優しく笑ってミズキを待つ。ミズキは相変わらず不満そうに頬を膨らませていたが、渋々とクレヨンを床に投げ捨てて母親の元へと走った。
「もう、片付けないんだから」
ミズキの様子に母親は激昂することもなく、苦笑いしながら彼女の手を優しく握って歩き出す。家族みんなで外に出ると、青い空に明るい日差しがそこにはあった。
春先だろうか。ところどころに咲き始めた桜が見える。お散歩とは、家族で花見をしに行くような感覚なのだろうか。
「君には信じられないだろう?」
僕の隣でルイスが歯を鳴らして笑った。
「全員が常に戦っているような、戦争みたいな家庭から生まれた君からしたら、家族で散歩なんて考えられない。手を繋いでくれる人がいて、おもちゃを投げても叩かれない。実に平和じゃないか?」
ルイスの言葉に僕は反論出来ずに黙る。確かにそうだ。僕の家では有り得ないことしかモニターに映されていない。本当にフィクション映画を見ているようだった。
「まだ断片だろ」
「同じようなもんさ」
ルイスは欠伸をしながら笑った。
「君もいずれミズキに呆れて言うのさ、甘ったれてんじゃないってね」
ミズキたちはうららかな日差しの中で散歩に出かける。その光景を見ている中でも、何となく家族の関係性が見えてくる。
母親が持ってきたオヤツの一部を持って、進んで手伝う姉は明るく、俗に言う「よく出来た子」だ。家族のことが大好きで、よく笑う明るい女の子。それ故によく母親に褒められている。
父親は本当に口がついているのかと疑問になるほど話さない。話さないが、いつも穏やかな笑みで家族を見守っている。言うならば口下手なだけの優しいお父さんだ。
お母さんは家族の真ん中。太陽みたいな人だ。ミズキの面倒を見ながら、よく姉と話している。それでいて、きちんと夫を愛しているようで、無口な父親にも沢山話しかけている。
母親が笑うと、その場が穏やかになる。その中でミズキだけが気まぐれに会話に参加したり、よそ見をしたり、マイペースを貫いている。
それでも、姉が母親に褒められているのを見る目はなんとなく羨望のようにも見える。歳の近い姉妹が実態を持って傍にいるのは大変なのだろう。僕には架空の兄しかいないので、心労はなんとなく分かるけど、所詮は架空の生き物だ。僕の考える心労は憶測でしか計れない。
不意にミズキの家族が歩いている進行方向から、別の集団が歩いてくるのが見える。その集団は幼稚園…いや、違う。先導しているのはエプロンを付けた大人たちだが、連れている子供たちのサイズ感がおかしい。
大人に手を引かれているのは、ミズキよりも随分と背の高い子供たちだ。小学校の高学年くらいに見える。彼らは歩き方や話し方、仕草がおぼつかなく、中にはどこを見ているのか分からない子もいる。
恐らく、障害を持っている子供たちだ。何の障害とまでは分からないが、支援を必要としている彼らを先導する大人たちはミズキたちに会釈をして脇を通り過ぎた。
それをミズキは見る。口を半開きにして目で追う。脇を通り過ぎた彼らが背中しか見えなくなっても、彼女はずっと後ろ歩きで見ていた。
僕の学校にも彼らのような人たちがいた。特別支援学級と呼ばれるクラスにいる彼らは、僕の小学校でも奇異な目で見られることが残念ながら多い。怖がる子もいたし、傍にいるだけで泣き出す子もいた。かく言う僕も、彼らが何を考えているのか分からなくて興味で対話に挑んだが、たまたま相手は話が苦手な子だったのか、逆に僕が避けられるという悲劇を生んだこともあった。
ミズキもそういった反応なのかと思ったが、彼女の目に恐怖はない。むしろ、スケッチブックに絵を描きこんでいる時のような輝きがそこにはあった。
「ねー!お母さん、さっきの人たち何ー?」
ミズキが母親の手を引っ張る。彼女の言葉に母親は慌てたように周囲を見回し、声を潜めてミズキに耳打ちする。
「そんなこと、あまり大声で言っちゃダメよ」
「なんで?私もああなりたい!」
ミズキの口から飛び出したのは思ってもない言葉だった。どういう意味でそう言ったのか、僕にもまるで理解出来なかった。
隣にいるルイスは呆れたようにため息を吐く。
「こっちの苦労も知らないで、よく言うよ」
ミズキの母親は驚いたように目を丸くしたが、返答に迷ったように視線を泳がせた。その場で立ち止まり、彼女はミズキの肩を優しく掴んだ。
「ミズキ…だめなのよ、そんなこと言っては」
「なんで?」
ミズキは心底、母親の言葉が理解出来ないといった顔で首を傾げた。その様子を見ていた姉は肩を竦めて笑った。
「あの子たちは一緒に勉強するのが難しいんだって、先生が言ってたよ。だから、そんなこと言っちゃだめ!」
母親を真似るように言う姉に、ミズキはますます困惑したように眉をひそめた。
「なんで…?」
「この話はもうおしまいにしよう」
見かねた父親が話を打ち切る。特別に責めるようなニュアンスはなかったが、ミズキは彼の言葉に身を縮めると、渋々話すことを止めた。
食卓の風景を見る限り、いつも叱るのは父親の役目なのかもしれない。だとすれば、ミズキは叱られる前に話すことをやめることを選んだのかもしれない。
帰り道でもミズキは終始、不思議そうに首を傾げていた。恐らく、彼女はさっきの話にまだ納得いってなかったのだろう。何かを空想するような難しい顔のまま道中で母親の用意したオヤツを食べ、結局最後まで納得いかない表情で彼女は家路に着いた。
ミズキは家にたどり着くと、食べたオヤツの片付けをする母親と姉を置いて、一目散に子供部屋へと駆け上がっていく。子供部屋のおもちゃ箱から出てきたのは、女の子らしからぬ怪獣のソフトビニール人形だ。
僕もあの手の人形を幼稚園で取り合ったことがあったが、彼女もまた少し変わった趣向の持ち主なのかもしれない。
「君は今、自分に置き換えてアリスを解析している」
モニターを凝視する僕に、ルイスが鼻で笑う。
「残念ながら、そんなにドラマチックな話じゃない。彼女は性同一性障害でもなければ、何の障害もない。考えるだけ無駄さ」
「性別だけが問題じゃないってお前が言ったんだろ」
ニヤニヤと歯を見せて笑うルイスに、僕は肩で息を吐いた。
「お前も自分の言葉に責任持てよ」
「強気なもんだな」
ルイスは見えない椅子に背を預けると、だらしなくそれに寄りかかる。
「この映画は長丁場だ。ソファはいるか?ポップコーンは?」
「人の人生をおちょくりやがって…いらないよ」
ふんと鼻を鳴らして僕はモニターに視線を戻す。ルイスはクスクスと笑っていた。
「いずれ君も分かるさ、ジャバウォック。君はこっち側の人間だ」
ミズキは人形で遊んだり、お絵描きをして遊ぶ。怪獣の人形で遊んでいる傍ら、姉は隣の勉強机で冊子を広げている。冊子の中身は驚いたことに勉強教材だ。彼女はそれらを楽しそうにやりながら、たまにゲーム機で遊ぶ。しかし、それすらも勉強教材だ。何かの付録だったやつだろう。僕も与えられたが30分で飽きて母親に金が無駄になったと叱られたものだ。
僕にとって勉強の時間は、父親に殺されるか問題を解くかのデッドオアアライブだったから、僕の感性では自ら進んで勉強する人間の気持ちが微塵も分からない。しかし、姉の様子では本当に楽しいのだろう。幸せな趣味の持ち主だ。
時間が過ぎて、窓から差し込む日差しが夕暮れに差し掛かる。ミズキのスケッチブックは絵でいっぱいだ。怪獣の人形にもクレヨンがついてしまっていて、ミズキの手の平はカラフルな色合いになっている。
「杏ー!瑞希ー!晩御飯よ!」
昼と同じように子供部屋に母親が顔を出す。それを見て、ミズキが顔をあげて先ほどまで描いていたスケッチブックを手に母親に駆け寄った。
「見て!描いた!カイジュー!」
今度はスケッチブック内にちゃんと収められた絵は、ソフトビニールのそれを模したものらしく、何となく現物が察せる。それを受け取った母親はミズキの頭を撫でながら、その絵を見て微笑んだ。
「あら、この子ね?上手、良く描けてるじゃない!」
「お母さん!見て!ゲームでハイスコア出たの!」
まだ瑞希の絵の品評が終わる前に、姉が先ほどのゲーム機を持って来る。
ゲームとは言え、内容は算数問題だ。母親は彼女のゲーム機を受け取ると、驚いたように目を丸くした。
「凄いじゃない!これ、小学生6年生モードなのに、98点なんてなかなか出来ないわ!杏は算数が得意なのね!」
「さっき、漢字のドリルもやったんだよ!もう全部終わっちゃった!」
「杏は本当に頑張り屋さんねえ、偉いわあ」
感心したように母親は手を叩いて褒める。それを隣で聞いていたミズキは眉をひそめ、不満そうに口をとがらせた。
そりゃそうもなるだろう。せっかく母親に褒めて貰えるタイミングだったのに、横から持っていかれたら腹が立つ。
彼女の家では母親が太陽。誰かが太陽の前に立っていたら、日が陰って暗くなる。僕の目に映るミズキの姉は、いつもミズキの前に立つ大きな山のように見えた。
「やだ、瑞希の手がクレヨンで汚れてる!洗いに行こう?」
不意にその山が振り向いて、ミズキの手を掴む。ミズキはまだ何か言いたげな顔をしていたが、渋々と姉について行く。姉に手伝ってもらいながら手を洗うと、彼女は姉と一緒に母親の元へ戻り、全員でリビングの食卓を囲んだ。
専業主婦らしいミズキの母親の手料理はどれも美味しそうだ。僕の母親も下手ではなかっただろうが、あの人の場合は仕事の兼ね合いもあって、簡単な料理が多かった。それに対して、一目じゃ味付けが想像つかないような創作料理まで並ぶその食卓は眩しい。
「飽きてきたかい?」
いつの間にか出したポップコーンを咀嚼しながら、ルイスが僕に尋ねる。
「飽きないよ。何も進んでない」
「そうさ、何も進みやしないのさ」
僕の言葉にルイスは笑う。
夕飯を終えたミズキたちの元へ、父親が包みを持ってくる。まだ小さなミズキの身体の半分くらいもあるそれを、彼はミズキの前で膝まづいて手渡す。何事かと首を傾げるミズキに母親と姉が拍手を送った。
「開けてみて!」
姉の言葉に、ミズキは首を傾げながら包みを破った。ビリビリと開かれたそこには、誰しもが手に入れるものがあった。
ピカピカの傷ひとつないランドセル。それを見た瑞希が顔を上げると、母親が手を合わせて微笑んでいた。
「瑞希もいよいよ小学校!楽しみね!」
ミズキの顔が一気に華やぐ。ランドセルを両手に掲げ、珍しく満面の笑みで笑った。
「何も進まない彼女の日常はここからますます腐っていく」
ルイスが片足だけ椅子から下ろして床を叩いた。次にモニターに映し出されたのは、クラスの中心で退屈そうな顔をして座っているところだった。
「ずっと温かい家族に守られてきた子供が、いきなり小学校という小さな世界に置かれて、すぐ適応できると思うかい?」
ルイスはポップコーンを指先で投げる。それをそのまま口で捕まえると、歯にそれを挟んで笑った。
休み時間、周囲に友達同士らしいグループが出来ている中、ミズキはひとりぼっちだ。彼女はすっかり身体を小さくして俯いている。
「安全すぎる環境は人をダメにする。そこに甘え続けたアリスが悪いのさ」
「そうかな」
僕はルイスの言葉に首を傾げる。
何か違和感があった。甘えているから世界にとけ込めないなんて、そんなの幼い子供じゃどうしようもなくないか?
子供は守られて当たり前なのだ。不快なものを親がきちんと取り除いて、安心できる居場所を与えて、外敵から守り、一人立ちを支援する。人見知りの子供なんかいくらでもいる。
問題は現在のミズキが過度に人に怯えることだ。僕がいないと何も出来ないくらいに、彼女を脅かすものがこの記憶の中にあるはずだ。
「これしか見ていないのに、彼女の家庭環境が優しいものだとは僕は思えないしね」
温かいとか、優しいとか、甘いとか、そんなものの基準はない。世間が何となく考えている指標みたいなものだ。温かそうに見えたって、それは僕が見た断片でしか読み取った感想でしかない。感じていることは本人にしか分からないのだ。
不意に、モニターのミズキが廊下に目を向けた。見開いたその目が何かを捕え、彼女は教室を出ていく。彼女の視線の先には背が低くて華奢な男の子がいた。
どういう関係性なのか、僕にはまだ分からない。それでも彼女は彼の後を忍び足でついていく。
男の子は1階の廊下を抜け、下駄箱を通り過ぎた。それにミズキは音を立てないように尾行し、尾行した先には職員室とかがあるが、男の子は立ち止まらない。
子供たちが普段学びにいく教室とは逆方向なのだろう。人気はなく、進むほど静かになっていく。しかし、静寂を抜けると再び賑やかな子供たちの声が聞こえ始めた。
男の子はその賑やかな教室へと姿を消す。尾行していたミズキは前屈みで隠れるようにその教室の窓を覗き込んだ。
そこには言葉にならない声を発する子や、常に動き回る子、車椅子、空を見つめながら指をしゃぶる子。まさに多種多様な子供たちがいた。
クラスの名前を見る。ドアの上に書かれた名前はまさしく特別支援学級だ。
混沌とも言える賑やかさを誇るその教室を覗き込んだミズキの目が輝く。あの時、散歩ですれ違った時と同じ眼差しだった。
ルイスはちらつかせていた鍵を手の平の中へとしまうように握り、覆い隠す。彼が次に手を開くと、そこには鍵はなかった。彼は目を閉じて喉を鳴らして笑ってから、ミズキに対してギザギザの歯を見せて笑った。
「君はすでに記憶を取り戻す方法を眠り鼠から得たはずだ。なのに、思い出そうともしないね。怖いんじゃないか?」
「言い方があるだろ」
思わず僕が言い返した。何故、こうも人を傷つけるような言い回ししか出来ないんだろうか。
それも、僕に対するものよりミズキに対する物言いの方が一層キツいように感じる。
面白がるような嘲笑。最初からミズキが記憶を取り戻すことが出来ないと高を括ったような言葉は聞いている僕の方がイライラしてしまう。
「大体からして、ジャッジもイディオットもアマネも待っているんだ。こんなところで時間を取らせないで欲しい」
「それは安心してくれ。ここは僕が作ったまた別の時間軸だ。彼らがいる世界は、君が錯乱していたあの場面で全ての時間で停止している。招くことが出来る人数に制限はあるけどね。これでも開発中のエリアなんだ」
ルイスの言葉をそのまま解釈するなら、僕が記憶を失ったあの場面であの世界ごと停止しているということだろうか。彼の話を聞く限りでは、僕が眠り鼠をやっていた時代があったり、オズの魔法使いをベースにした物語があったりと、様々な空間があるのかもしれない。僕は試しにそのまま彼に尋ねてみることにした。
「開発中って言うことは、何個もこんな世界があるのか?」
「ああ。私が最近お気に入りだったのはオズの魔法使いの世界に、アメリカ人だけを集めたエリアだ。君たちがいるのは日本人だけを集めたエリアだが、人種が違えば文化の違いがなかなか興味深い。他にも美女と野獣や、赤毛のアン、私の趣味で揃えている」
ルイスはクスクスと笑う。何故かその笑い方は自慢げだ。
それだけの力を持っているなら、イディオットがしていた時間計算がかみ合わないという話も、シュラーフロージィは自分が初代の眠り鼠であるとも話していたのも、彼が情報操作していると考えれば合点がいく。
しかし、そうだとして何故ルイスはわざわざジャッジを連れてまで僕らの元へと現れたのだろう。人数制限というものに引っかかったのだろうか。
ルイスはミズキに向かって微笑む。その暗闇で光る瞳が弧を描くと、不気味な三日月のようにも見えた。
「さあ、可愛い私のアリス。選択してくれよ。君の選択であの世界の未来が決まる。覚悟があるなら、今すぐ思い出してくれ。眠り鼠に忘れさせてもらったことも、自分で蓋した記憶も、何もかも」
クスクスと鼻を鳴らす彼の笑い声には、気のせいでなければ確実に悪意が含まれていた。何がそこまで彼を醜くさせるのか分からない。ミズキもそれを感じとっているのか、僕の胸に抱かれたままの彼女は身体を強張らせている。
「ミズキ、無理しなくていい」
「無理しないと、得られないチャンスもある」
僕の言葉に被せてルイスは畳みかける。
「君がここで思い出さないのなら、この鍵は二度と分けてあげない。そこのジャバウォックも一生外に出さないよ。それでもいいかい」
「卑怯だろ!」
「卑怯も何も!ここは私の世界だ。さっきも言っただろう。寄生しているのは君たちなんだ。特にアリスはそうだ。お似合いな人間しか、私はアリスに配役などしないんだよ」
何という言い草だ。僕の配役理由も酷いものだったが、ミズキに対してもロクな理由ではないことがすでに分かる。
言い返してやろうかと僕が口を開きかけると、ミズキは僕の口を優しく手で塞いだ。
「ありがとう、アスカ。私なら大丈夫だよ」
ミズキは僕の腕から抜け出るように地面へ降り立つ。黒い床が波打つように波紋を打った。
大丈夫、なんて彼女は言っているけれど、手が震えているのがさっき顔に触れた時に分かった。怖いんだ。怖いに決まっている。ずっとずっと先送りにしてきた記憶を取り戻す行為を、みんなの前で披露しなくてはいけない。残酷な話だ。
僕は離れていくミズキの手を取る。振り返った彼女に僕は口元だけで微笑んで、頷いた。
「大丈夫、絶対に傍から離れたりしないから」
ミズキは僕の顔を見てから、目を伏せて微笑み、再び僕を見て頷いた。
これは恩返しなんかではない。同情でもない。自己肯定感を埋める愛を揺するわけでもない。
僕がやりたくてやることだ。彼女がどんな過ちを犯していようと、どんな過去を持っていようと、僕は彼女を見捨てたりはしない。僕とミズキが一緒に過ごしてきた時間は、僕が見てきた僕だけの真実だ。そこに間違いなどない。僕が自分を一番、信じているんだから。
「ジャバウォックには残念だけど、彼女の人生はそんなに大それたものではないよ」
思い出せと言ったくせに、ルイスはすでに興味を半分くらい失ったように自分の持っている本を閉じたり閉めたりして、遠くを眺めている。
その様子にミズキは何か感じるものがあるのか、何故か一瞬たじろいだ。大したものがないということは、ミズキにとって大きなトラウマはないということな気がするが、それでは悪いのかと僕は内心で首を傾げた。
平穏ならそれに越したことはないだろう。しかし、この世界に招かれている人間は総じて皆、何かしらの不自由を抱えていると思っている。それならば、ここにいるミズキもそうに違いない。
僕はミズキの手を握りしめる。それに彼女は呼応するように強く握り返した。
ミズキが目を閉じる。沈黙を経て、次第に僕らの周囲が明るくなった。
「日向瑞希の日常編、上映開始だ」
ルイスの言葉通り、まるでそれは映画のモニターのようだ。映し出されるのは幼い日のミズキの姿だ。彼女は床に寝そべり、スケッチブックに絵を描きなぐっている。クレヨンで大胆に描かれたそれは一見しても何を描いているのか分からなかったし、クレヨンの線はスケッチブックを通り越して床にまで及んでいる。
「瑞希、お夕飯出来たわよ。あなたの大好きなハンバーグ…」
不意に扉を開けて現れた女性はそこまで言うと、ミズキの手元にあるスケッチブックを見て顔を青くした。
ミズキが叩かれるんじゃないかと僕は思わず警戒するが、僕の予想に反して女性はミズキの身体を優しく抱き上げた。
「ちょっとー、こんなに描いちゃって!床までダイナミックね!これじゃ、消す時にお母さん悲しくなっちゃうから、次からは紙の中におさめてよね」
母親らしいその女性は困ったように笑うと、ミズキを抱き上げたまま彼女の頬を優しく手でこねた。
「もうやらない?」
「やだ!もっとかくー!」
一方、ミズキは更に腕の中で暴れて、母親の服に青いクレヨンの線が走った。それでも母親は文句を言いながらも叩いたりはせずに、ミズキを抱き上げたままリビングの方へと歩いて行く。
モニターを見つめていると、僕が握りしめていたはずのミズキの手が、僕の手の中から消えていることに今更気付く。慌てて周囲を見回す僕に、ルイスは大きな欠伸をしながら首を回した。彼の骨がコキコキと小気味いい音を立てた。
「この空間では、記憶を追体験している人間はモニターの中に入ってしまうんだ。こちらの声は微妙に届くから、お静かにお願いしようか」
そう言われて、僕は自分の手の平からルイスへと視線を移す。ルイスは至極退屈したというような表情で、足を組み直してモニターを見る。
「まあ、静かにしてもしなくてもいいか。彼女の人生はそう面白いものでもないしさ。退屈ならヤジを飛ばすなり、早回しをお願いするでもいいよ」
「お前、つくづく性格悪いな…」
人の人生を見て、面白いも面白くないもあるものか。ただ、再生されていくミズキの人生の一端はあまりに穏やかで、フィクションなんじゃないかと思ってしまう。
食卓には活気が溢れ、世話焼きの姉がおり、寡黙な父と明るい母親がミズキの面倒を見ている。ミズキがご飯をこぼしても父親は彼女を叩いたりはしないし、母親は理不尽なことで怒ったりはしない。姉もまだ幼いせいかもしれないが、少し空気が読めないように見えるものの、精一杯の愛情で妹の面倒を見ているようだった。
「彼女は君の人生に比べたら飽きがきそうなほど、実に平穏さ。私はずっと人並の身体を得ずに生きてきた。そんな苦痛の先に私はいるのに、そんな平穏な環境で生きてきながら、生きずらいだの何だのとのたまうアリスが嫌いなんだ。そんな甘えた人間は、この世界で死ぬまで現実逃避をして、私に面白い話を提供するコマであって欲しいのさ」
「つまり、お前はアリスの配役はそうやって決めているのか?」
僕が尋ねると、作者は感心したとでも言いたげに指を弾いて僕を指さした。
「ああ、賢いじゃないかジャバウォック!そうさ、甘えている人間ほど、末永くこの世界に留まり、私が流した情報に踊らされて勝手に世界を撹乱してくれる。あのアリスも今の眠り鼠と合わせれば最高のパフォーマンスを発揮する。馬鹿ほどコマには相応しい」
彼の言葉に僕は舌打ちする。何様なんだろうと思うが、少なくとも鍵はミズキの過去を見終わるまでは貰えない。無駄な反論をして、さらにミズキを悪く言われては胸糞悪くなるだけだ。それに、こちらの声が微妙に届くという彼の言葉通りであれば、モニター内にいるミズキに僕らの会話が聞こえてしまうかもしれない。
僕の過去を見ている時に、ルイスはミズキを隔離していた。それは、僕が過去の追体験中にミズキが僕に声を掛けたら不都合だと感じたからに違いない。ならば、僕がここに置かれている理由は一つしかない。
僕がいることで、ミズキがもっと傷つく可能性があるということだ。ルイスはミズキを毛嫌いしているし、残念ながら彼はずる賢いように見える。彼女を傷つけて楽しむのに、手段は選ばないだろう。
「ミズキは頭の良い子さ」
ルイスを刺激しない程度の反論を返す。モニターに映るミズキはハンバーグを食べながら駄々をこねている。母親に切り分けて欲しいと言ってみたり、ジュースが飲みたいとかを言い、ワガママが通るまで騒ぐ。さすがに父親が軽く叱咤すると、ミズキは泣きながら言うことをきくが、映画で見るような日常風景だ。
ミズキの幼少期は、僕が見てきたミズキの姿について疑問を抱くほどに傍若無人だった。幼いながらに生き生きと生活する彼女は、僕の目から見ると自由でのびのびとしていて、とても輝いて見えた。
「今日はお父さんもお休みだし、良いお天気だから、みんなでお散歩に行きましょうか」
お皿を洗いながら、ミズキの母親が言った。リビングのテーブルを吹いていた姉と、何も家事を手伝わずに床に寝そべってスケッチブックに落書きをしていたミズキが顔をあげる。
「やったー!行くー!」
「えー、私おえかきしたい!」
喜んでテーブル布巾を片付ける姉と対照的にミズキは頬を膨らませる。父親は本当に寡黙な人なのか、一言も発さなかったが、静かに立ち上がって出掛ける準備を始めるあたり、散歩には乗り気なのかもしれなかった。
「お母さん、私もお皿拭くの手伝うね!」
「あら、杏!ありがとう」
お散歩に向けて、自ら進んで家事を名乗り出る姉を見て、ミズキは何だか面白くなさそうな顔をしていたが、気を取り直したようにスケッチブックに絵の続きを描きこんでいく。
色合いが独特だ。何を描いているのかはやっぱり良く分からなかったが、僕の目には普通の子供が描くものとは少し異なって見える。
そもそも、ファンシーな色をあまり使わないのだ。ビビットな色だったり、反対色も進んで隣に並べる。僕みたいな保守的な人間であれば避けたくなる色を使い分けるのは、子供ならではなのか、怖いもの知らずなのか分からない。でも、カタにはまらないそれを僕は少し羨ましいと感じた。
「杏のおかげで早く終わったわよー!さあ、お散歩に行きましょうか!」
タオルで手を拭きながら、母親が言う。姉は喜び勇んで玄関まで走るのに対し、ミズキはクレヨンを握りしめたまま口をへの字に曲げた。
「みんな行くの?」
「行くわよー、ミズキもおいで」
父親も姉も出て行ってしまったリビングで、母親は優しく笑ってミズキを待つ。ミズキは相変わらず不満そうに頬を膨らませていたが、渋々とクレヨンを床に投げ捨てて母親の元へと走った。
「もう、片付けないんだから」
ミズキの様子に母親は激昂することもなく、苦笑いしながら彼女の手を優しく握って歩き出す。家族みんなで外に出ると、青い空に明るい日差しがそこにはあった。
春先だろうか。ところどころに咲き始めた桜が見える。お散歩とは、家族で花見をしに行くような感覚なのだろうか。
「君には信じられないだろう?」
僕の隣でルイスが歯を鳴らして笑った。
「全員が常に戦っているような、戦争みたいな家庭から生まれた君からしたら、家族で散歩なんて考えられない。手を繋いでくれる人がいて、おもちゃを投げても叩かれない。実に平和じゃないか?」
ルイスの言葉に僕は反論出来ずに黙る。確かにそうだ。僕の家では有り得ないことしかモニターに映されていない。本当にフィクション映画を見ているようだった。
「まだ断片だろ」
「同じようなもんさ」
ルイスは欠伸をしながら笑った。
「君もいずれミズキに呆れて言うのさ、甘ったれてんじゃないってね」
ミズキたちはうららかな日差しの中で散歩に出かける。その光景を見ている中でも、何となく家族の関係性が見えてくる。
母親が持ってきたオヤツの一部を持って、進んで手伝う姉は明るく、俗に言う「よく出来た子」だ。家族のことが大好きで、よく笑う明るい女の子。それ故によく母親に褒められている。
父親は本当に口がついているのかと疑問になるほど話さない。話さないが、いつも穏やかな笑みで家族を見守っている。言うならば口下手なだけの優しいお父さんだ。
お母さんは家族の真ん中。太陽みたいな人だ。ミズキの面倒を見ながら、よく姉と話している。それでいて、きちんと夫を愛しているようで、無口な父親にも沢山話しかけている。
母親が笑うと、その場が穏やかになる。その中でミズキだけが気まぐれに会話に参加したり、よそ見をしたり、マイペースを貫いている。
それでも、姉が母親に褒められているのを見る目はなんとなく羨望のようにも見える。歳の近い姉妹が実態を持って傍にいるのは大変なのだろう。僕には架空の兄しかいないので、心労はなんとなく分かるけど、所詮は架空の生き物だ。僕の考える心労は憶測でしか計れない。
不意にミズキの家族が歩いている進行方向から、別の集団が歩いてくるのが見える。その集団は幼稚園…いや、違う。先導しているのはエプロンを付けた大人たちだが、連れている子供たちのサイズ感がおかしい。
大人に手を引かれているのは、ミズキよりも随分と背の高い子供たちだ。小学校の高学年くらいに見える。彼らは歩き方や話し方、仕草がおぼつかなく、中にはどこを見ているのか分からない子もいる。
恐らく、障害を持っている子供たちだ。何の障害とまでは分からないが、支援を必要としている彼らを先導する大人たちはミズキたちに会釈をして脇を通り過ぎた。
それをミズキは見る。口を半開きにして目で追う。脇を通り過ぎた彼らが背中しか見えなくなっても、彼女はずっと後ろ歩きで見ていた。
僕の学校にも彼らのような人たちがいた。特別支援学級と呼ばれるクラスにいる彼らは、僕の小学校でも奇異な目で見られることが残念ながら多い。怖がる子もいたし、傍にいるだけで泣き出す子もいた。かく言う僕も、彼らが何を考えているのか分からなくて興味で対話に挑んだが、たまたま相手は話が苦手な子だったのか、逆に僕が避けられるという悲劇を生んだこともあった。
ミズキもそういった反応なのかと思ったが、彼女の目に恐怖はない。むしろ、スケッチブックに絵を描きこんでいる時のような輝きがそこにはあった。
「ねー!お母さん、さっきの人たち何ー?」
ミズキが母親の手を引っ張る。彼女の言葉に母親は慌てたように周囲を見回し、声を潜めてミズキに耳打ちする。
「そんなこと、あまり大声で言っちゃダメよ」
「なんで?私もああなりたい!」
ミズキの口から飛び出したのは思ってもない言葉だった。どういう意味でそう言ったのか、僕にもまるで理解出来なかった。
隣にいるルイスは呆れたようにため息を吐く。
「こっちの苦労も知らないで、よく言うよ」
ミズキの母親は驚いたように目を丸くしたが、返答に迷ったように視線を泳がせた。その場で立ち止まり、彼女はミズキの肩を優しく掴んだ。
「ミズキ…だめなのよ、そんなこと言っては」
「なんで?」
ミズキは心底、母親の言葉が理解出来ないといった顔で首を傾げた。その様子を見ていた姉は肩を竦めて笑った。
「あの子たちは一緒に勉強するのが難しいんだって、先生が言ってたよ。だから、そんなこと言っちゃだめ!」
母親を真似るように言う姉に、ミズキはますます困惑したように眉をひそめた。
「なんで…?」
「この話はもうおしまいにしよう」
見かねた父親が話を打ち切る。特別に責めるようなニュアンスはなかったが、ミズキは彼の言葉に身を縮めると、渋々話すことを止めた。
食卓の風景を見る限り、いつも叱るのは父親の役目なのかもしれない。だとすれば、ミズキは叱られる前に話すことをやめることを選んだのかもしれない。
帰り道でもミズキは終始、不思議そうに首を傾げていた。恐らく、彼女はさっきの話にまだ納得いってなかったのだろう。何かを空想するような難しい顔のまま道中で母親の用意したオヤツを食べ、結局最後まで納得いかない表情で彼女は家路に着いた。
ミズキは家にたどり着くと、食べたオヤツの片付けをする母親と姉を置いて、一目散に子供部屋へと駆け上がっていく。子供部屋のおもちゃ箱から出てきたのは、女の子らしからぬ怪獣のソフトビニール人形だ。
僕もあの手の人形を幼稚園で取り合ったことがあったが、彼女もまた少し変わった趣向の持ち主なのかもしれない。
「君は今、自分に置き換えてアリスを解析している」
モニターを凝視する僕に、ルイスが鼻で笑う。
「残念ながら、そんなにドラマチックな話じゃない。彼女は性同一性障害でもなければ、何の障害もない。考えるだけ無駄さ」
「性別だけが問題じゃないってお前が言ったんだろ」
ニヤニヤと歯を見せて笑うルイスに、僕は肩で息を吐いた。
「お前も自分の言葉に責任持てよ」
「強気なもんだな」
ルイスは見えない椅子に背を預けると、だらしなくそれに寄りかかる。
「この映画は長丁場だ。ソファはいるか?ポップコーンは?」
「人の人生をおちょくりやがって…いらないよ」
ふんと鼻を鳴らして僕はモニターに視線を戻す。ルイスはクスクスと笑っていた。
「いずれ君も分かるさ、ジャバウォック。君はこっち側の人間だ」
ミズキは人形で遊んだり、お絵描きをして遊ぶ。怪獣の人形で遊んでいる傍ら、姉は隣の勉強机で冊子を広げている。冊子の中身は驚いたことに勉強教材だ。彼女はそれらを楽しそうにやりながら、たまにゲーム機で遊ぶ。しかし、それすらも勉強教材だ。何かの付録だったやつだろう。僕も与えられたが30分で飽きて母親に金が無駄になったと叱られたものだ。
僕にとって勉強の時間は、父親に殺されるか問題を解くかのデッドオアアライブだったから、僕の感性では自ら進んで勉強する人間の気持ちが微塵も分からない。しかし、姉の様子では本当に楽しいのだろう。幸せな趣味の持ち主だ。
時間が過ぎて、窓から差し込む日差しが夕暮れに差し掛かる。ミズキのスケッチブックは絵でいっぱいだ。怪獣の人形にもクレヨンがついてしまっていて、ミズキの手の平はカラフルな色合いになっている。
「杏ー!瑞希ー!晩御飯よ!」
昼と同じように子供部屋に母親が顔を出す。それを見て、ミズキが顔をあげて先ほどまで描いていたスケッチブックを手に母親に駆け寄った。
「見て!描いた!カイジュー!」
今度はスケッチブック内にちゃんと収められた絵は、ソフトビニールのそれを模したものらしく、何となく現物が察せる。それを受け取った母親はミズキの頭を撫でながら、その絵を見て微笑んだ。
「あら、この子ね?上手、良く描けてるじゃない!」
「お母さん!見て!ゲームでハイスコア出たの!」
まだ瑞希の絵の品評が終わる前に、姉が先ほどのゲーム機を持って来る。
ゲームとは言え、内容は算数問題だ。母親は彼女のゲーム機を受け取ると、驚いたように目を丸くした。
「凄いじゃない!これ、小学生6年生モードなのに、98点なんてなかなか出来ないわ!杏は算数が得意なのね!」
「さっき、漢字のドリルもやったんだよ!もう全部終わっちゃった!」
「杏は本当に頑張り屋さんねえ、偉いわあ」
感心したように母親は手を叩いて褒める。それを隣で聞いていたミズキは眉をひそめ、不満そうに口をとがらせた。
そりゃそうもなるだろう。せっかく母親に褒めて貰えるタイミングだったのに、横から持っていかれたら腹が立つ。
彼女の家では母親が太陽。誰かが太陽の前に立っていたら、日が陰って暗くなる。僕の目に映るミズキの姉は、いつもミズキの前に立つ大きな山のように見えた。
「やだ、瑞希の手がクレヨンで汚れてる!洗いに行こう?」
不意にその山が振り向いて、ミズキの手を掴む。ミズキはまだ何か言いたげな顔をしていたが、渋々と姉について行く。姉に手伝ってもらいながら手を洗うと、彼女は姉と一緒に母親の元へ戻り、全員でリビングの食卓を囲んだ。
専業主婦らしいミズキの母親の手料理はどれも美味しそうだ。僕の母親も下手ではなかっただろうが、あの人の場合は仕事の兼ね合いもあって、簡単な料理が多かった。それに対して、一目じゃ味付けが想像つかないような創作料理まで並ぶその食卓は眩しい。
「飽きてきたかい?」
いつの間にか出したポップコーンを咀嚼しながら、ルイスが僕に尋ねる。
「飽きないよ。何も進んでない」
「そうさ、何も進みやしないのさ」
僕の言葉にルイスは笑う。
夕飯を終えたミズキたちの元へ、父親が包みを持ってくる。まだ小さなミズキの身体の半分くらいもあるそれを、彼はミズキの前で膝まづいて手渡す。何事かと首を傾げるミズキに母親と姉が拍手を送った。
「開けてみて!」
姉の言葉に、ミズキは首を傾げながら包みを破った。ビリビリと開かれたそこには、誰しもが手に入れるものがあった。
ピカピカの傷ひとつないランドセル。それを見た瑞希が顔を上げると、母親が手を合わせて微笑んでいた。
「瑞希もいよいよ小学校!楽しみね!」
ミズキの顔が一気に華やぐ。ランドセルを両手に掲げ、珍しく満面の笑みで笑った。
「何も進まない彼女の日常はここからますます腐っていく」
ルイスが片足だけ椅子から下ろして床を叩いた。次にモニターに映し出されたのは、クラスの中心で退屈そうな顔をして座っているところだった。
「ずっと温かい家族に守られてきた子供が、いきなり小学校という小さな世界に置かれて、すぐ適応できると思うかい?」
ルイスはポップコーンを指先で投げる。それをそのまま口で捕まえると、歯にそれを挟んで笑った。
休み時間、周囲に友達同士らしいグループが出来ている中、ミズキはひとりぼっちだ。彼女はすっかり身体を小さくして俯いている。
「安全すぎる環境は人をダメにする。そこに甘え続けたアリスが悪いのさ」
「そうかな」
僕はルイスの言葉に首を傾げる。
何か違和感があった。甘えているから世界にとけ込めないなんて、そんなの幼い子供じゃどうしようもなくないか?
子供は守られて当たり前なのだ。不快なものを親がきちんと取り除いて、安心できる居場所を与えて、外敵から守り、一人立ちを支援する。人見知りの子供なんかいくらでもいる。
問題は現在のミズキが過度に人に怯えることだ。僕がいないと何も出来ないくらいに、彼女を脅かすものがこの記憶の中にあるはずだ。
「これしか見ていないのに、彼女の家庭環境が優しいものだとは僕は思えないしね」
温かいとか、優しいとか、甘いとか、そんなものの基準はない。世間が何となく考えている指標みたいなものだ。温かそうに見えたって、それは僕が見た断片でしか読み取った感想でしかない。感じていることは本人にしか分からないのだ。
不意に、モニターのミズキが廊下に目を向けた。見開いたその目が何かを捕え、彼女は教室を出ていく。彼女の視線の先には背が低くて華奢な男の子がいた。
どういう関係性なのか、僕にはまだ分からない。それでも彼女は彼の後を忍び足でついていく。
男の子は1階の廊下を抜け、下駄箱を通り過ぎた。それにミズキは音を立てないように尾行し、尾行した先には職員室とかがあるが、男の子は立ち止まらない。
子供たちが普段学びにいく教室とは逆方向なのだろう。人気はなく、進むほど静かになっていく。しかし、静寂を抜けると再び賑やかな子供たちの声が聞こえ始めた。
男の子はその賑やかな教室へと姿を消す。尾行していたミズキは前屈みで隠れるようにその教室の窓を覗き込んだ。
そこには言葉にならない声を発する子や、常に動き回る子、車椅子、空を見つめながら指をしゃぶる子。まさに多種多様な子供たちがいた。
クラスの名前を見る。ドアの上に書かれた名前はまさしく特別支援学級だ。
混沌とも言える賑やかさを誇るその教室を覗き込んだミズキの目が輝く。あの時、散歩ですれ違った時と同じ眼差しだった。
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