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10.口煩い女子生徒の挑発
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廊下に出ると、関本朱里が腕を組んで立っていた。その横で、城野友香が関本朱里と同じような目でこちらを睨んでいる。
二人の後ろにいる椿野菜々美と目が合った。四谷を見て、彼女がぎこちなく微笑んだ。どうやら、二人の監視役に同行してきたようだ。
「やあ。元気そうだね、関本さん」
篠田圭吾がフレンドリーな態度で接したが、関本朱里は不快そうに顔をしかめた。どうしてこの女が篠田を嫌っているのか四谷は知らない。彼女に限らず、同じ歳の女子は感情の起伏が激しくて、対応するのが面倒だ。
「ええっと、用があるなら俺が聞くけど、何の用かな?」
「学校で禁止されてますよね、ベラマチュアの会の活動は」
「君が言っているのは、ベラマチュア尊師を崇拝する会のことかい?」
「そうよ、あの馬鹿げたカルト集団のことよ。それしかないでしょ」
「ここはそんな集まりじゃないんだよ」四谷がフォローしても、関本朱里の表情は変わらない。
「東屋信一って犯罪者が出るテレビ、みんなで見ていたんでしょ?」
「東屋さんは、今は犯罪者じゃないよ」と篠田。
「中学生を四人も殺した殺人鬼よ」
関本は篠田を挑発しているが、こんな女の挑発に乗るような男ではない。
「確かにテレビは見ていたよ。しかし、それだけだ」
「それだけって、活動してるってことですよね」
「テレビを見て研究しているだけだ。今話題の人物だからね、東屋信一は。彼に興味がある人たちの集まりではあるが、ベラマチュア尊師を崇拝する会とは無関係なんだよ」
「関係なくないじゃないですか。あの男の出演しているテレビを校内で集まって見ていたんでしょ?」
「放課後、申請すればこの教室でテレビを見てもいいことになっている。生徒会にも申請している。隠れて何かしているわけじゃない。知ってのとおり、今はビラ配りや校内での集会は行っていないんだ。彼の思想をなぞるような行動はしていないんだよ」
「そんなの、信用できません。去年までは熱心に活動してたじゃないですか」
「君にひっぱたかれてから、目が覚めたんだよ。俺はあの会とは縁を切ったんだ。縁を切ることができたといってもいい。目を覚まさせてくれて、君には感謝しているんだ」
四谷が、彼の横で頷いて見せた。
正確には、教師たちに詰め寄られ、篠田は活動方針を変えたのだ。教師たちに徹底的にマークされて学内での会員勧誘もままならず、旭光学園支部の存続は風前の灯だった。会を存続させようと篠田は躍起になっていたが、教師達の監視の目が厳しく何もすることができなかった。やがて彼は、教師たちと対立するのは得策ではないと気づいた。表立った活動をやめて地下に潜り、他の支部とも連絡を取りながらインターネットで粘り強く会員を募集し、少しずつ同志を増やしていったのだ。今、三学年で会員は三十名を越えている。ちょっとした部活を超える規模だ。これも篠田の冷静な行動の賜物である。
関本朱里は何もいえないようだった。しかし、論破してしまわないよう、篠田は注意している。口煩い女子生徒に感情的に騒がれるのは、会としても避けたい。面倒ごとは回避するのが無難だ。会の目的は東屋信一の思想を広げ、理不尽な虐めをこの世からなくすことにある。教師や他の生徒たちと対立したり、学校内で自己主張することではない。ここは関本を刺激しないよう、お引取り願わなくてはならないのだ。
「先生に報告しますから」
ようやく、関本朱里が口を開いた。城野友香は関本ほど口が達者ではない。関本の横に立って篠田をずっと睨んでいるだけだ。後ろで立っている椿野菜々美が、所在なさげに視線を床に向けていた。
「それは構わないよ。俺たちは先生たちとの約束はきちんと守っているからね」
まだ何か言い足らなさそうな表情を見せたが、関本が二人の女子生徒を連れて引き上げていった。
「いやあ、鋭い。よく今日の集会のことを嗅ぎつけたね。今後、彼女には注意しないと」篠田が苦笑いしている。
「僕のほうで監視しますよ。でも、先生に告げ口されて大丈夫ですか?」
「あの様子じゃ、たいしたことは言わないだろう。とにかく、学校の施設や備品を使えなくなるのだけは避けなくてはね。校外で集会となると場所の確保も難しいし、会員の団結心にも影響してしまうから。それにしても彼女は会のことをずいぶん目の敵にしてるようだけど、何かあったのかな?」
「今度、それとなく聞いておきます」
関本が去ったあと、同志二人が篠田に寄ってきた。メールを送ってきた豊島商業高校の生徒本人と連絡が取れたらしい。今日会いたいと送信すると、会ってもいいとの返信がきたとのことだった。
その生徒に会うために、篠田は二人の同志を連れてその場を立ち去った。教室に戻ると、残っていたメンバーが仲の良いグループに分かれて雑談していた。会話の内容は、ごく普通の高校生が交わすたわいのないものだった。
四谷は窓際の席に座るとズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、橋本博文殺害事件の続報を検索した。
柏葉真治が捕まったという記事はまだ載っていない。
石田組が先か警察が先か。石田組につかまれば柏葉真治の命はない。警察に捕まっても、無実だとわかれば釈放されるだろう。そして、燻りだされた柏葉はそのあと、四谷か石田組に殺される運命にある。
「じゃあ、お先に」
丸山理佳が後輩たちに手を振り、教室を出て行った。
四谷寛はスマートフォンをズボンのポケットに押し込み、彼女のあとを追って教室を出た。
二人の後ろにいる椿野菜々美と目が合った。四谷を見て、彼女がぎこちなく微笑んだ。どうやら、二人の監視役に同行してきたようだ。
「やあ。元気そうだね、関本さん」
篠田圭吾がフレンドリーな態度で接したが、関本朱里は不快そうに顔をしかめた。どうしてこの女が篠田を嫌っているのか四谷は知らない。彼女に限らず、同じ歳の女子は感情の起伏が激しくて、対応するのが面倒だ。
「ええっと、用があるなら俺が聞くけど、何の用かな?」
「学校で禁止されてますよね、ベラマチュアの会の活動は」
「君が言っているのは、ベラマチュア尊師を崇拝する会のことかい?」
「そうよ、あの馬鹿げたカルト集団のことよ。それしかないでしょ」
「ここはそんな集まりじゃないんだよ」四谷がフォローしても、関本朱里の表情は変わらない。
「東屋信一って犯罪者が出るテレビ、みんなで見ていたんでしょ?」
「東屋さんは、今は犯罪者じゃないよ」と篠田。
「中学生を四人も殺した殺人鬼よ」
関本は篠田を挑発しているが、こんな女の挑発に乗るような男ではない。
「確かにテレビは見ていたよ。しかし、それだけだ」
「それだけって、活動してるってことですよね」
「テレビを見て研究しているだけだ。今話題の人物だからね、東屋信一は。彼に興味がある人たちの集まりではあるが、ベラマチュア尊師を崇拝する会とは無関係なんだよ」
「関係なくないじゃないですか。あの男の出演しているテレビを校内で集まって見ていたんでしょ?」
「放課後、申請すればこの教室でテレビを見てもいいことになっている。生徒会にも申請している。隠れて何かしているわけじゃない。知ってのとおり、今はビラ配りや校内での集会は行っていないんだ。彼の思想をなぞるような行動はしていないんだよ」
「そんなの、信用できません。去年までは熱心に活動してたじゃないですか」
「君にひっぱたかれてから、目が覚めたんだよ。俺はあの会とは縁を切ったんだ。縁を切ることができたといってもいい。目を覚まさせてくれて、君には感謝しているんだ」
四谷が、彼の横で頷いて見せた。
正確には、教師たちに詰め寄られ、篠田は活動方針を変えたのだ。教師たちに徹底的にマークされて学内での会員勧誘もままならず、旭光学園支部の存続は風前の灯だった。会を存続させようと篠田は躍起になっていたが、教師達の監視の目が厳しく何もすることができなかった。やがて彼は、教師たちと対立するのは得策ではないと気づいた。表立った活動をやめて地下に潜り、他の支部とも連絡を取りながらインターネットで粘り強く会員を募集し、少しずつ同志を増やしていったのだ。今、三学年で会員は三十名を越えている。ちょっとした部活を超える規模だ。これも篠田の冷静な行動の賜物である。
関本朱里は何もいえないようだった。しかし、論破してしまわないよう、篠田は注意している。口煩い女子生徒に感情的に騒がれるのは、会としても避けたい。面倒ごとは回避するのが無難だ。会の目的は東屋信一の思想を広げ、理不尽な虐めをこの世からなくすことにある。教師や他の生徒たちと対立したり、学校内で自己主張することではない。ここは関本を刺激しないよう、お引取り願わなくてはならないのだ。
「先生に報告しますから」
ようやく、関本朱里が口を開いた。城野友香は関本ほど口が達者ではない。関本の横に立って篠田をずっと睨んでいるだけだ。後ろで立っている椿野菜々美が、所在なさげに視線を床に向けていた。
「それは構わないよ。俺たちは先生たちとの約束はきちんと守っているからね」
まだ何か言い足らなさそうな表情を見せたが、関本が二人の女子生徒を連れて引き上げていった。
「いやあ、鋭い。よく今日の集会のことを嗅ぎつけたね。今後、彼女には注意しないと」篠田が苦笑いしている。
「僕のほうで監視しますよ。でも、先生に告げ口されて大丈夫ですか?」
「あの様子じゃ、たいしたことは言わないだろう。とにかく、学校の施設や備品を使えなくなるのだけは避けなくてはね。校外で集会となると場所の確保も難しいし、会員の団結心にも影響してしまうから。それにしても彼女は会のことをずいぶん目の敵にしてるようだけど、何かあったのかな?」
「今度、それとなく聞いておきます」
関本が去ったあと、同志二人が篠田に寄ってきた。メールを送ってきた豊島商業高校の生徒本人と連絡が取れたらしい。今日会いたいと送信すると、会ってもいいとの返信がきたとのことだった。
その生徒に会うために、篠田は二人の同志を連れてその場を立ち去った。教室に戻ると、残っていたメンバーが仲の良いグループに分かれて雑談していた。会話の内容は、ごく普通の高校生が交わすたわいのないものだった。
四谷は窓際の席に座るとズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、橋本博文殺害事件の続報を検索した。
柏葉真治が捕まったという記事はまだ載っていない。
石田組が先か警察が先か。石田組につかまれば柏葉真治の命はない。警察に捕まっても、無実だとわかれば釈放されるだろう。そして、燻りだされた柏葉はそのあと、四谷か石田組に殺される運命にある。
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